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北海道の交通関係
JR西日本の「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」
2022/04/15
本サイトの範疇とは少し離れてしまうのですが、地方鉄道路線の維持の厳しさということで、今週は様々なところで物議があったこの話題を取り上げます。
まず、JR西日本はリリースで以下の情報を開示しました。
2022年4月11日 ローカル線に関する課題認識と情報開示について
https://www.westjr.co.jp/press/article/2022/04/page_19817.html
参考資料
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_sankou.pdf
>鉄道は自動車に比べてきめ細かな移動ニーズにお応えできないこともあり、線区によっては地域のお役に立てておらず、厳しいご利用状況となっています。
>地域の皆様と課題を共有させていただき、「地域公共交通計画」の策定などの機会に積極的に参画し、地域のまちづくりや線区の特性・移動ニーズをふまえて、鉄道の上下分離等を含めた地域旅客運送サービスの確保に関する議論や検討を幅広く行いたいと考えています。
(見ることができない場合)
https://traffic.north-tt.com/txt/20220415_01.pdf
https://traffic.north-tt.com/txt/20220415_02.pdf
さて、内容自体は今までも一定の開示をされてきている平均通過人員(輸送密度)のほかに営業係数を開示しています。国鉄末期の廃線を多く経験して新聞などをよく読んでいた世代には非常になじみ深い営業係数ですが、最近はなかなかお目にかかれないという代物になっています。
営業係数はその路線、区間の営業成績をわかりやすく赤字か黒字かを表記する手段であることに留意が必要です。単純に数字が100未満なら黒字、100を超えれば赤字であることを示すものです。その数字が大きいことは、その路線が稼ぐことができないこと、運行を行うための支出に対して収入が少ないことを意味しています。
ただ、気をつけなければならないのは、これは国鉄末期の廃止議論でも言われてきていますが、営業係数が大きいことと、赤字額が大きいことは全く異なるということです。
同じ路線距離、同じ利用者数(収入)であっても、設備が古く整備や運行に多くの人員が必要な路線は営業係数が悪くなりますし、単純に1車両が往復するような簡素な設備での運行ならば営業係数は見た目的に良くなります。
もっといえば重量のある貨物列車や高速特急車両が走り線路設備に非常の多くの手間がかかる区間は実際の利用客も多いので営業係数はそれほど悪くなく見えても実際の赤字額は大きい場合もあります。これを混同してはならないのです。
さて、今回開示されたJR西日本の線区別ご利用状況ですが「2019年度実績」であることに留意が必要です。つまりコロナ渦前のある程度の利用があった時期のものであるということです。
コロナ渦の2020年4月以降の数字はこれよりもさらに酷いものであるという予想ができますし、また、コロナ渦で一時的に減った情報を見せて廃止をしようとしているのだ!という批判を封じ込める意味もありましょう。ですから一部でこの資料を見てコロナ渦の減少要因に言及している方は資料をちゃんと読んでいないということで無視していい意見ではないかと思われます。
それにしても、関西圏を中心に北陸から中国地方、紀伊半島までという非常に広い営業地域を持つJR西日本にとって、近代化に遅れ、また、山中を走る地域が多い地域の多いこと、そして特に輸送密度がJR北海道の閑散線区よりさらに酷い状態というのは改めて厳しいことが覗えます。
国鉄改革で6つの旅客鉄道会社に分割された経緯というのは、別途調べていただければと思いますが、JR東日本であれば関東圏の通勤輸送で東北の閑散線区を、JR東海であれば東海道新幹線の収入で在来線を、JR西日本も山陽新幹線や関西圏の通勤輸送での収入で一定の閑散路線を維持することが求められた上に国鉄債務を引き受け、なおかつ上場も達成するという民営化の成果を見たことになります。
北海道、四国、九州は国鉄債務は引き受けさせず、経営安定基金運用益で鉄道事業の赤字を消すという形で独自の経営を行うことで、これも一定期間成果があったといえます。単純な6分割が悪かった、民営化が悪かったというのは簡単ですが、仮に東西2社であったならば関東圏、関西圏と新幹線収入を回すことができなくなった時点で末端部から廃線せざるを得ないのですから今よりも鉄道路線が残っていた可能性は皆無と言えましょう。
とはいえ、国鉄の分割民営化から35年です。その間の環境変化についてもJR西日本資料では参考資料として言及しています。その大きいものは「人口推移」です。都市部の人口は増えた、もしくは大きく変化がない中で地方部の人口減少は今後も進んでいきます。
さらに環境問題として単純にCO2排出量でも鉄道が優位になるのは一定の利用があってこそです。当たり前ですが空気を運べば単純な環境汚染にしかなりません。
報道
まず、私個人が道外記事の確認のために契約している読売新聞の記事から見てみます。全国面の他、地域面でも大きく取り上げています。赤字路線の区間収支を初公表…JR西日本、運行見直しへ議論加速の狙い
2022/04/11 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220411-OYT1T50118/
> JR西日本は11日、利用者が極めて少ない在来線について区間別の収支状況を初めて公表した。17路線30区間が対象で、コロナ禍で業績が悪化し、ローカル線の維持が難しくなる中、不採算区間や赤字の規模を明示し路線や鉄道運行の見直しに向けた議論を加速させる狙いがある。
JR西日本、17路線30区間が赤字…山陰線の出雲市―益田間が最大の34・5億円
2022/04/11 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220411-OYT1T50271/
> 新幹線や都市部路線の収益で赤字路線を支える構造は限界を迎えており、見直しを急ぐ。長谷川一明社長は「利用しやすい最適な地域交通体系を幅広く議論・検討し、共に実現したい」とのコメントを発表した。
JR西日本の意図が実際どうであるかは私の知るところではありませんが、コロナ渦での利用減少により「本業」の鉄道事業の収益が大幅に悪化していることは事実でしょう。そのなかで、今まで可能であった新幹線、関西圏の収益で地方路線を維持することが難しくなってきたことは紛れもない事実と言えましょう。
今までもJR西日本は「データで見るJR西日本」では区間平均通過人員および旅客運輸収入を開示してきています。
データで見るJR西日本
https://www.westjr.co.jp/company/info/issue/data/
輸送人キロの内訳
これをチェックしていれば、営業係数が開示されていなくても地域路線の大幅な悪化は明らかでありました。今までその開示情報を見ることなく、地域の鉄道を無視し続けたことが、今回の「開示」で憤る理由でしょう。今になって開示では無く、開示してた内容を見もしなかった。興味も無かったという沿線自治体の姿が透けて見えます。
「輸送人キロの内訳」グラフでわかるとおり、JR西日本の乗客の多くは(もちろんそれだけ距離を乗るという意味でもあるが)新幹線と近畿圏の利用になります。広島県岡山県など、比較的大きい都市も含めたそれ以外の利用は14%程度。また、2019年の運輸収入で見るとその46.9%が山陽新幹線の収入。北陸新幹線を入れると約50%が新幹線の収入となります。また、東海道線、山陽線で約25%その他近畿圏で約4割近く稼いでいるように見えます。そしてその運輸収入は2020年度は約半分に落ち込みます。特に長距離移動が少なくなったことで新幹線の運輸収入が落ち込んだことで相対的な近畿圏の運輸収入の率が上がったことになります。
それでは発表を受けての各地域面、各自治体長などの発言です。
JR西が公表した区間別収支、地元「廃線への布石では」「数字見せられると衝撃」
2022/04/12 読売新聞経済面
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220412-OYT1T50066/
> 公表を受け、広島県の湯崎英彦知事は「芸備線の赤字額はJR西全体の収支からみればそれほど大きくない。路線維持をどう考えるかは、国全体で議論しなければいけない」と強調した。
>(島根) 丸山達也知事は「改めて強い危機感を持った」としたうえで、「鉄道はネットワークとしてつながっていることで最大限の効果を発揮する。JR西は多額の国民負担を伴って民営化されており、採算性のみによって、安易に地方路線の見直しを行うことは認めがたい」とさらなる廃止にくぎを刺した。
> 加藤博和・名古屋大教授(公共交通政策)の話 「公表された区間別収支は、鉄道が果たしている役割がコストに見合っていない現状を明確に示している。赤字を全てJR側に押しつけたままにするのではなく、地域の実情に合った必要十分な公共交通は何なのか、地域が主体的に一から議論する機会にすべきだ」
<JR西 収支公表>県内3路線 経営苦境
2022/04/12 読売新聞岡山県面
https://www.yomiuri.co.jp/local/okayama/news/20220411-OYTNT50173/
>平日に新見駅に発着するのは6便のみで、不便さから沿線住民の間ではマイカー移動が定着している。野馳駅近くに住む男性(72)は「もう半世紀ほど芸備線は乗った記憶がない。どこにでも行ける車の方が便利」と語る。男性を含め、「芸備線がなくても自分は困らないが、通勤通学で利用する学生のために残してほしい」という声が多く聞かれた。
> 伊原木知事はJR西日本の発表を受け報道陣の取材に応じ、「一方的な廃線はやめてほしいとお願いしているが、かなり厳しい数字であることを実感した。JRや沿線自治体と協議して、現実的にどのような方法があるか考えたい」と話した。
芸備線が走る新見市の戎斉市長は「厳しい数字が示され、危機感を再認識した。通勤・通学で日常的に利用されており、なくてはならない路線。JR西日本と協議や連携を重ね、持続可能な路線となるよう努める」とコメントした。
<JR西公表>県内4線6区間で赤字
2022/04/12 読売新聞兵庫県面
https://www.yomiuri.co.jp/local/hyogo/news/20220411-OYTNT50161/
>赤字路線を抱える沿線自治体は、これまでも利用促進に向け、知恵を絞ってきた。姫新線沿線の姫路、たつの両市と佐用町は連携し、地域と駅を結ぶバス路線の充実や駐車場整備などで利用増に取り組んできた。2009年度に238万人だった播磨高岡―上月間の利用者は19年度に322万人に増えたが、20年度はコロナ禍で260万人に減った。大学生ら向けに定期券代補助を新たに始めた佐用町の担当者は「大きな赤字区間だけを取りあげるのではなく、路線を一体のものとして議論してほしい」と注文を付ける。
> 県内で最もコストが高い加古川線の西脇市―谷川間は日中、運行間隔が3時間以上空く時間帯もある。西脇市の片山象三市長は、同線が阪神大震災で不通となった東海道・山陽線の 迂回うかい ルートとなったことを挙げ、「路線全体がつながっていてこそ果たせる大きな役割がある。災害時のバックアップもその一つだ」と強調する。
> 斎藤知事は11日、「ローカル線は線区ごとに地域特性や移動のニーズなど、実情や課題が異なる。JR西に県や沿線市町と丁寧な議論を進めるよう求める」などとするコメントを出した。
新宮―白浜「生活に必要」
2022/04/12 読売新聞和歌山県面
https://www.yomiuri.co.jp/local/wakayama/news/20220412-OYTNT50022/
>JR西和歌山支社は公表の狙いを「人口減少などで利用客が減少する中、持続可能な交通体系を地域と共に作るため」と説明。仁坂知事は「地方路線の切り捨てありきで見直しを進めるのではなく、地域資源を活用した利用促進などの柔軟な対応を行うべきだ」とのコメントを出し、廃線論議に進むことへの警戒感を示した。
> 県総合交通政策課の担当者は「収支率をみると、30区間中の上から4番目と悪くはないが、危機感を持って対応していく必要がある」と述べた。昨年12月にJR紀勢線で本格導入された、自転車をそのまま普通電車の車内に持ち込める「サイクルトレイン」などで利用促進を図る考えだ。
紀勢線沿線の6市17町1村は1994年度に「紀勢本線活性化促進協議会」を結成。2021年度には和歌山大と提携して各駅の沿線マップを作製して集客を図る取り組みを始めたが、コロナ禍でマップは未完成という。協議会事務局の白浜町は「今年度こそ完成させて各駅に観光客らを呼びたい。紀勢線は通学や病院通いにも必要だ」とする。
新宮市の田岡実千年市長は「周辺の自治体と連携し乗車率アップの施策を考えていきたい。JRも厳しい状況とは思うが、何とか頑張ってほしい」と話した。
「地元の支え 廃線避けて」
2022/04/12 読売新聞島根県面
https://www.yomiuri.co.jp/local/shimane/news/20220411-OYTNT50049/
>今回の公開を受け、丸山知事は、JR西日本の民営化には多額の国民負担があったと指摘した上で、「採算性のみで地方路線の見直しを行うことは認めがたい」とのコメントを発表した。
> 旧三江線の線路跡地でトロッコを走らせる取り組みなどを行うNPO法人「江の川 鐵道てつどう 」(邑南町)の佐々木創さん(29)は「JRも会社なので、収入が少ない路線が見直されることは仕方ない」としつつ、「路線の維持には沿線自治体の努力も必要。やりようはいくらでもある」と話していた。
大糸線赤字5億7000万円 糸魚川―南小谷間 路線のあり方議論へ
2022/04/13 読売新聞新潟県面
https://www.yomiuri.co.jp/local/niigata/news/20220412-OYTNT50093/
> 糸魚川市の米田徹市長は11日、「厳しい路線経営を改めて認識した」としたうえで、「通学・通勤だけでなく、観光、産業、防災に不可欠な公共インフラであり、持続可能な路線となるよう一層の取り組みを進めたい」と話した。
JR西、山口県の5路線6区間で赤字…売店の女性「利用するのは高校生くらい」
2022/04/14 読売新聞(山口県)
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220413-OYT1T50109/
> 美祢線沿線にある美祢市や長門市、山陽小野田市、経済団体などでつくる「JR美祢線利用促進協議会」は、2010年の発足以降、定期券や回数券の購入に補助金を支給したり、イベント列車を運行したりして利用促進を図ってきた。しかし、過疎・少子化の影響もあり、利用増に目立った効果は出ていない状況という。
同協議会の担当者は「公表されたデータは 真摯しんし に受け止めないといけないが、手をこまねいていてもいけない。住民に利用を考えてもらうきっかけにしたい」と話す。
小野田線が走る山陽小野田市も、自治会などと利用促進協議会をつくり、同線の利用を呼びかけている。
村岡知事はJR西日本の発表を受けて、「数字で存廃を判断することなく、ローカル線を維持してほしい。利用促進にも取り組む」との談話を発表した。
これに対してJR西日本は記者会見でこのように発言します。
JR西日本の社長、廃線の「結論ありきではない」「経営効率改善したいのが率直な思い」
2022/04/14 読売新聞経済面
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220414-OYT1T50059/
> JR西日本の長谷川一明社長は13日の定例記者会見で、維持が困難なローカル線の区間別収支の公表後、沿線自治体から廃線への懸念が相次いでいることについて、「(廃線の)結論ありきではない。地域にも今後の交通体系のあり方を一人称の立場で一緒に考えてほしい」と述べ、自治体に協議を呼びかけた。
> これに対し、沿線の自治体からは「なぜ2000人未満だけ公表したのか。 恣意的だ」などと反発の声が上がっている。長谷川社長は会見で、「2000人未満の区間は経営効率が極めて悪い。それを改善したいのが率直な思いだ」と説明した。
なんかどこかで見たことのあるような自治体の反応と鉄道会社の釈明みたいに見えますが、利用促進を自治体が行うとしても、では何を行えばいいのか?というのはなかなかそれによって増えましたという前例が少ないだけに行うことが難しい、またそれをどう予算化するかという面でも議会の承認を得にくい面がありましょう。
特に「大きな会社だから」と安心しきっていた、利用促進どころか道路ができたバスができた鉄道は不便だと言い続けた地域が何をするということもないでしょう。(公共交通としては)最も面倒くさい高校生の通学さえ勝手にやってくれればそれでいいのだとなっていたのは西日本沿線であろうが北海道であろうが何も変わりません。
とはいえ木次線の観光列車のように自治体が車両検査費用から運行費用まで負担している例があるだけ北海道よりかなりマシではあります。観光面だけでも関わるという姿勢は大事です。
他の媒体も見てみましょう。朝日新聞は鉄道系の記事には定評があります。最近は無料会員では読めない記事が多いのですが、タイトルからも興味深い記事が多いです。
鉄道天動説に警鐘「負の遺産にも」 青山学院大の福井義高教授
2022年4月11日 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASQ4B4DRVQ46PLFA001.html
> 「まず前提として、輸送サービスは地域にとって重要です。どんなに人が少ない場所でも水道や電気が必要なのと同じで、最低限は維持しないといけません。ただ、それを担うのは鉄道でなくても良い。いろんな輸送手段があるなかで、どの組み合わせが最適なのか考えるべきです」
不採算の鉄道、「コスト」以外の議論も必要 関西大の宇都宮浄人教授
2022年4月11日 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASQ4B4G6SQ47PLFA001.html
> 「2千人という数字が独り歩きして、それ未満になればダメだという世論が醸成されるのは危険です。輸送密度が2千人未満でも、ピーク時には学生らがぎゅうぎゅう詰めで乗っていることもあります。『大量輸送』と『時間の正確性』という鉄道の特性が生かせないわけではありません」
「バスや自家用車で代替すれば良いという意見もありますが、鉄道と比べれば輸送力が劣ります。例えば300人を運ぶ場合、バスは何台も必要でしょう。バスは渋滞に巻き込まれれば、目的地にも遅れます。バスを信頼できなくてみんなが自家用車に乗り始めると、もっと渋滞します。『脱炭素社会』ともかけ離れていると思います」
この対比を掲載するのは面白い観点です。ただ、残念なのは地方の道路整備が進んだ今、渋滞の懸念があるような路線というのが非常に少ないというのがありましょう。また、渋滞の発生が考えられるような路線をどう残すのか?というのこそ鉄道会社に任せるだけでなく自治体も含めた広域的な検討が必要とも思われます。つまり赤字を飲むのは誰なのか?という面です。
赤字ローカル線、支えていくのはもう限界 「3島会社」だけじゃない
2022年4月11日 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASQ4C6FXXQ4CULFA00B.html
>西日本は東日本、東海とともに、新幹線や大都市圏の路線を抱え、駅ビルなどの収益もある。こうしたもうけで赤字路線を支えてきたが、コロナ禍で新幹線や都市部路線の利用客が減り、その構図が崩れた。
100円稼ぐのに経費2万5千円も JR西の収支公表、沿線に動揺
2022年4月11日 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASQ4C6FJRQ4CPTIL02Z.html
> 鉄路の存続に危機感を抱いた沿線住民たちも呼応し、昨年夏に市民団体を結成した。地元のショッピングセンターで「たる募金」を実施するなどして300万円超を集め、広島東洋カープをモチーフにした赤いラッピング列車を走らせている。
「古く、くすんだ色の車体は寂しい」との声をきっかけとしたアイデアで、全国の鉄道ファンの心もつかんだ。事務局長の住田則雄さん(72)は「収支だけですべて決めていいのか、という思いはある。地元の盛り上がりはいままさに、高まりつつある」と話した。
それが利用促進にどの程度繋がるのか?という面が難しいのであります。日常的な利用者を増やすことを諦めてはならないが、それを行うのが難しいから休日の利用増やイベント時だけの利用増で「増えた増えた」としてしまう。それが結果路線維持にあまり役に立たない感情論だけになってしまうのが問題な気もします。
地方記事は無償公開されているのが朝日新聞の良心でしょうか。助かります。
山口のJR線、半分赤字 「ここまで少ない本数珍しい」
2022年4月12日 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASQ4C744DQ4CTZNB00H.html
> 人口減少により公共交通の維持が難しくなる中、宇部市とJR西日本は以前、鉄道の線路跡に専用レーンや優先信号を整備してバスを運行させる「バス高速輸送システム」(BRT)の導入の可能性を模索。153億円の費用がかかるとの試算から「採算性の確保は困難」と構想が「凍結」されている。市の担当者は「最善の公共交通政策をこれからも検討していく」としている。
> 山口大学大学院創成科学研究科の榊原弘之教授(都市地域計画)は「JRだけに任せていては問題は解決できない」とみる。どのようなサービスが最適か。地域によって違うことを踏まえて「地域に住む人たちや自治体が主体的に考える必要がある」と指摘。また、路線は市町をまたぐため「県の役割も重要だ」と話した。
赤字の新宮―白浜間、その行き先は JR西発表
2022年4月13日 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASQ4D6V27Q4CPXLB00N.html
> 県総合交通政策課の担当者は「利用者が少なくなっている背景に、人口減少と高速道路が延伸して自動車利用が増えたことがある」とみる。熊野古道などの観光地への足でもあったが、コロナ禍で観光客は減った。「自転車をそのまま電車に持ち込める『サイクルトレイン』などで利用促進をはかっていく」と話す。
JR西のローカル線収支公開 知事「まず政府が見解を」
2022年4月15日 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASQ4G6TX7Q4GPTIB00F.html
> 【島根】JR西日本が利用者の少ない「赤字路線」の収支を公開し、存廃を含めて今後のあり方の議論を深めたいとの方針を示したことについて、丸山達也知事は14日の定例会見で「都道府県や市町村レベルの問題ではなく、まず政府がどう受け止めるか見解を示すべきだ」と述べた。
> 丸山知事は「厳しい数字で、危機感を持っている」としたうえで、「赤字路線問題を、JRと都道府県や市町村のレベルの問題ととらえることがおかしい。JR西は多くの府県をカバーしており、まず政府がどう受け止めるのか見解を示すべきだ」と、政府が問題を仕切る必要性を強調した。
NHKを確認してみます。JR西日本の会見内容を報じています。さて「自助努力」という単語を出して今まで運行してきたと会見したJR西日本の長谷川社長ですが、これは逆に自助努力で運行できるはずと散々批判された北海道をある程度意識していたものとも言えます。
JR西日本社長 維持難しい地方路線「自治体や国と考える必要」
2022年4月13日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220413/k10013580781000.html
>JR西日本の長谷川一明 社長は、厳しい経営状況が続く中、維持が難しくなっている地方路線について「自治体や国とともに三位一体で考えていく必要がある」と述べ、JRだけでこれまでどおりの運行を続けるのが難しいとの考えを改めて強調しました。
>長谷川社長は、13日の会見で「これまで会社の自助努力で地方の路線を維持してきたが、厳しい経営状況で非常に難しくなっている。今後は、自治体、国とともに三位一体で考えていく必要がある」と述べ、JR西日本だけでこれまでどおりの運行を続けるのは困難だとの認識を改めて強調しました。
そのうえで、バス路線への転換なども含め、沿線のニーズを踏まえた地域交通の在り方を模索したい考えを重ねて示しました。
一方、沿線自治体から路線の廃止につながりかねないと懸念の声も出ていることについて、長谷川社長は「収支の公表は議論のスタートラインであり、地域の輸送をどのようにしていくのか、議論をしていきたい」と述べ、結論ありきではなく、ゼロベースで議論を進めたい考えを強調しました。
実際北海道の場合は最初から全路線が赤字であり、赤字路線を運行する「努力」をコスト削減とされてしまったという状況があります。JR西日本の場合、コロナ前は黒字会社ですから、特に人口集積地で収益を上げる「努力」という面こそが本来重視されようかと思います。これをコスト面の話にされてしまうのを避けたいという想いがあるように見えますし、ウチの路線の赤字はたいしたことが無いと無責任な発言を行っている沿線自治体を牽制する狙いもあるように感じます。
もう一つ、国交省の斉藤大臣の会見も報じました。
斉藤国交相「JR西日本は地域との対話を」地方路線赤字公表で
2022年4月12日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220412/k10013578441000.html
>斉藤国土交通大臣はJRに対し、地域ごとに公共交通の議論が円滑に進むよう対話や情報の開示を一層進めることを求めました。
>斉藤国土交通大臣は12日、閣議のあとの記者会見で「ローカル線の問題は地域の関係者が一体となって取り組むことが必要だ。鉄道事業者が利用状況を明らかにするのは有意義なことだ」と述べました。
その一方で、斉藤大臣は沿線自治体から路線の廃止につながりかねないと懸念の声も出ていることを踏まえ、「利用形態は地域によりさまざまで、一律に取り扱うことは適当ではない。JR西日本には各線区の利用客の実態や路線全体や大都市部の輸送動向などについても情報共有することで、地域との対話を円滑に進めることを期待している」と述べ、JRに対し地域ごとに対話や情報開示を一層進めることを求めました。
さて、大臣発言の意図がちょっとわからない面があるので、実際の記者会見録を見てみます。
斉藤大臣会見要旨
2022年04月12日 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/report/interview/daijin220412.html
(問)昨日発表のあった、JR西日本のローカル線の収支発表についてお伺いします。
今後の議論の進展次第では、バスなどの他のモード転換への議論に発展することも考えられます。
こういった先行きに対して自治体、住民の方からは一部、不満をもって受け止められるような動きもあるのですが、今回の発表について大臣の受け止めと今後国土交通省としてこういった議論にどう関わっていくのか、お考えをお聞かせください。
(答)昨日、JR西日本が輸送密度2000人未満の線区について、線区別の収支率などを公表したことは承知しています。
JR西日本からは、地域の方と各線区の実態や課題を共有し、持続可能な地域交通体系の実現について議論を行っていく必要があるため、線区の経営状況に関する情報開示を行うこととしたものであり、事業の休廃止など路線の見直しを行うためのものではないと聞いています。
ローカル線の問題については、地域の関係者が一体となって、利用者にとって利便性と持続性の高い地域モビリティの再構築に取り組むことが必要であり、その際、鉄道事業者がローカル鉄道の利用状況や経営状況を明らかにしていくことは、有意義なことと考えています。
他方、各ローカル鉄道の置かれた状況や利用形態は地域により様々であり、輸送密度2000人未満であることをもって一律に取り扱うことは適当ではないと考えています。
このため、JR西日本には引き続き、通勤・通学、観光など各線区の利用客の実態、路線全体や大都市部の輸送動向などを含む、いわゆる内部補助に係る事情の変化などについても、情報を共有することにより、地域との対話を円滑に進めることを期待しています。
国土交通省としても、2月に始めました「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」において、このような輸送の具体的な実態を踏まえた議論を行い、夏頃のとりまとめに向けて検討を進めていきたいと思っています。
(問)今の回答の中に含まれていたようにも感じるのですが、昨日、JR西日本が発表したのは、利用が少ない一部のローカル線についての収支状況でした。
鉄道事業の収支構造、黒字路線で赤字路線を補うという内部補助の考えからすると、自治体の議論の前提として示すデータとしてはやや後ろ向きだったのかなと、データの出し方として思われるところもあるのですけれども、それに対して大臣としてはどのようにお考えでしょうか。
(答)今回、JR西日本が、地域の方と各線区の実態や課題を共有するため、まずは輸送密度2000人未満の線区について情報開示を行ったことは一定の評価を行うべきものと考えます。
一方で、鉄道事業者がどの範囲で路線別収支を公表すべきかについては、各社の事情に応じて地域との対話の過程で鉄道事業者が適切に判断していくべき事柄と考えています。
(問)関連して、JR西日本の収支の公表で、地元の広島-岡山県境の芸備線の収支率が全国でもワーストだったり、赤字額でも山陰線の出雲市-益田間が最大になっていたりしている状況なのですけれども、数値自体の受け止めとしてはいかがでしょうか。
(答)数値自体の受け止めといいますか、今回そういう実態を地域の方に知っていただくこと、そしてそれを元にこれからその地域のいわゆる公共交通のあり方がどういう姿が最も地域住民の方にとって必要なのか、これを地域の方、それから自治体が一緒になって話し合うことが重要なのではないかと思います。
私も、廃止になった三江線沿線で育った人間ですから、鉄道がなくなることがどんなに寂しいことか、地域にとって大変なことか、実感しています。
しかし、その地域にとって、地域公共交通を残していくことが非常に重要な事です。
そういう意味で話し合う。
鉄道事業者だけに任せるのではなくて、自治体や地域の住民の方と一緒に話し合う。
そこに今回の意義があるのではないかと感じています。
(問)JR西日本の収支公表の関連でなのですけれども、先ほど大臣、自治体と鉄道事業者の話し合い、今後、必要になってくるのではないかと認識を示されたかと思いますけども、沿線自治体、廃線への抵抗感、強い地域もあるかと思います。
今後、議論を進めていくため、国としての関わりというか、今のところどのようにお考えでしょうか。
(答)まずは、各地域、自治体、地域住民の方、そして事業者がその今ある鉄道をどのように認識し、そして今の状況について、共有して議論を始めるところからスタートすべきだと思っています。
そういう意味で、先ほどもお答えしましたが、自治体と地域住民の方と事業者が一緒になって、建設的な議論をするということが大事だと思います。国
としては、それを後押しすべく、先ほど申し上げたような地域モビリティに関する検討会をスタートさせていただきました。
しっかり、ここを地域の議論も見ながら、国としてもそういう議論を重ねながら、我々としてもできることはしっかりやっていきたいと思います。
これは国による程度支援があると見ていいのかどうかはわかりませんが、どうしても発言を切り取られていますので、斉藤大臣の地元だから不快感を示したとかJR西日本に不快感を覚えたような報道になってしまうのはちょっと避けたい話ではあります。
「地域の関係者が一体となって、利用者にとって利便性と持続性の高い地域モビリティの再構築に取り組むことが必要」
「地域の方と各線区の実態や課題を共有するため、まずは輸送密度2000人未満の線区について情報開示を行ったことは一定の評価を行うべきものと考えます。」
「鉄道事業者だけに任せるのではなくて、自治体や地域の住民の方と一緒に話し合う。そこに今回の意義があるのではないかと感じています。」
国とて明らかに鉄道としての意義を失い、並行道路が整備されている区間を鉄道として残すために拠出することはできないというのが前提になろうかと思います。その中で、事業者だけではもう維持ができないのだというのはコロナ渦がなくても人口減少でこの先10年20年スパンならば明らかな状態な訳で、後は早いか遅いかの話であったようにも思います。さらにコロナ渦で収入が半分になったJR西日本について、少なくとも2年連続の赤字計上は避けられないわけですから、今後それが戻らない前提で事業を計画せざるを得ない。その中で本当に鉄道として必要なのかどうかを地域に考えてもらう機会としては必要なこととは思います。
前提として鉄道を地域が使っていないというのがある。言ってしまえば通学さえなんとかなれば不要というのがおおかたの考えでしょう。声の大きいマスコミが好きな論調である反対派の意見が報道に掲載されていることは考えなければなりません。
ただ、三江線などの廃止時を考えるとJR西日本はJR北海道のような丁寧な形で、時間を掛けての廃線議論はしないものと思われます。これは実質的な国の傘下にあるJR北海道と、上場企業であり株主利益の無い状態を維持することができないJR西日本の差です。そして鉄道職員の人員不足も顕著になっています。使われない路線の職員を使われるところに転配していくことは避けられない、それができないならば「使われている」路線も減らされていくことにも留意する必要がありましょう。
これから沿線が早急にどう鉄道を活かしていくのか、もしくは不要とするのかの決断を迫られることになります。