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JR北海道2022年度決算と大型連休輸送状況

2023/05/09

JR北海道は2023年4月28日に2022年度の決算を発表しました。まず、その内容を確認してみましょう。
決算資料を読む前に確認しておきたいことがあります。この決算「連結」なのか「単体」なのかがかなり大事なことです。元々JR北海道は鉄道運輸収入で営業費用(人件費や運行に関わる費用)を賄うことができない企業です。国鉄時代も含めて北海道内の広域的な鉄道が「黒字」になったことなどただの一度たりとも無いこと。そのために分割民営化時に経営安定基金を持たせその運用益で運輸収入を補うという仕掛けであったこと、そして、その運用益が期待できなくなったことも含めて関連事業収入でもそれを補っていることを確認してください。

JR北海道の2022年度「単体決算」と「連結決算」

JR北海道の単体決算には
・鉄道運輸収入
・関連事業収入(直接的に鉄道に関わる関連事業)
・経営安定基金運用益等
が含まれて、鉄道の営業費用との比較で「赤字」と言っていること。

JR北海道の連結決算には
・小売業
・ホテル業
・不動産賃貸業
などの各子会社決算を含んでいるということです。

では、その決算資料を見てみましょう。

2023.04.28 JR北海道グループ2022年度決算
https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/20230428_KO_2022kessan.pdf


 2022年度JR北海道単体決算
2022年度JR北海道単体決算
JR北海道の単体決算です。鉄道運輸収入は585億円、うち新幹線が55億円の収入となります。約1割が新幹線の収入であることは過去からあまり変わっていません。
営業費用が1368億円ですので、結果単純な鉄道事業は639億円の赤字となります。
ここから経営安定基金運用益、機構特別債権受取利息(鉄道・運輸機構の債権を発行し、この利息を受け取る形で国はJR北海道を支援している)で395億円、そしてこちらも国からの設備投資支援としての184億円など特別利益、そして鉄道事業廃止に伴う支援金や設備撤去などに関わる費用を特別損失として計上しています。
これにより単体決算では純損失180億円となります。

鉄道・運輸機構 JR北海道、JR四国及びJR貨物の経営自立支援
https://www.jrtt.go.jp/settlement/jr-assistance.html
>平成23年度から、老朽化した鉄道施設等の更新その他会社の経営基盤の強化に向けた 鉄道施設等の整備に必要な資金に対して無利子資金の貸付け又は助成金の交付の支援を実施してきました。 また、JR北海道及びJR四国に対して発行した鉄道建設・運輸施設整備支援機構特別債券について、国土交通大臣が定める利率に基づく利子の支払いを実施しています。



連結決算を見てみます。

 2022年度JR北海道連結決算
2022年度JR北海道連結決算
連結決算の営業収益は1337億円、鉄道運輸収入は連結決算の44%ほどしかありません。連結決算でも営業費用の合算は1910億円ですので572億円の赤字。結果的に連結決算でも164億円の赤字という結果になりました。

さて、単年度決算はわかりました。この結果は過去に対して良かったのか悪かったのか?というのが最終ページに記載されています。
 1987-2022個別経営成績
1987-2022個別経営成績
 1999-2022連結経営成績
1999-2022連結経営成績
JR北海道が訴えたいことであろうことの一つが「経営安定基金の運用益」が当初の目論見通りの金額が得られていないという面です。鉄道運輸収入を見る限り、1987年の623億円から考えると700億円を超える規模まで持ち直したコロナ前、これに比較するのはあまりにも残酷であります。とはいえ、それ以上の問題は経営安定基金の運用益で当初498億円を補填していたものが、2016年にはわずか236億円です。仮に毎年500億円とはいわないまでも400億円程度の運用益が得られていたならばどうなっていたか?という話でもあります。

そして連結決算です。JR北海道が「本業を疎かにしている」とマスコミ批判を受けながらも事業を拡大したことで経営安定基金運用益の減少をカバーし続けたが、これもコロナ渦で難しくなったことも見えるわけです。

では、報道はこの決算をどう報じたのでしょうか。

JR北海道の営業赤字572億円 23年3月期、需要回復も
2023年04月28日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFC282230Y3A420C2000000/
>JR北海道が28日発表した2023年3月期の連結決算は、営業損益が572億円の赤字(前の期は727億円の赤字)だった。赤字幅は22年3月期に次ぎ、過去3番目の大きさ。
経済活動の正常化に伴い、鉄道運輸収入は回復傾向にあるものの、旅客需要は新型コロナウイルス禍前の水準まで戻っていない。 23年3月期決算について説明するJR北海道の萩原国彦常務(28日、札幌市) 最終損益は164億円の赤字(前の期は10億円の赤字)だった。
経営安定基金の運用益が293億円となったほか、国からの支援を特別利益に計上した。売上高にあたる営業収益は前の期比21%増の1337億円だった。事業セグメント別にみると、小売業やホテル業は増収増益となり、鉄道などの運輸業以外では営業黒字を確保している。
鉄道運輸収入は45%増の585億円だった。19年10月の消費増税に合わせた大幅な運賃値上げの効果が収入を押し上げている。それでも新型コロナ感染拡大前の19年3月期比では8割強の水準で、需要回復は道半ばだ。24年3月期の連結営業赤字は611億円の見通し。


淡々と書く日経新聞はこれがまとめとしては満点かなと思います。

JR北海道、売上高85%回復も3年連続赤字 営業赤字24年連続
2023年04月28日 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASR4X6G4LR4XULFA01C.html
> JR北海道が28日発表した2023年3月期決算は、売上高が前年比21・2%増の1337億円、最終的なもうけを示す純損益は164億円の赤字(前年は10億円の赤字)だった。コロナ禍からの旅客回復で5年ぶりの増収となったが、3年連続の赤字となった。
>  本業のもうけを示す営業損益は572億円の赤字で前年から155億円改善したが、営業赤字は24年連続。電気代や軽油などの動力費が28億円増えた。事業別では赤字は鉄道を中心とする運輸業のみで、その他はいずれも黒字だった。
>  萩原国彦常務は28日の会見で「コロナ前の水準に回復するにはまだまだかかる。電気料金の値上げも控えており、厳しい経営環境が続いている」と話した。


朝日新聞は「赤字は運輸業のみ」としますが資料を読むとおり北海道ジェイ・アール・システム開発が赤字を計上しています。これは社員の不正取引に関する回収不能額の引当金を計上したことによるものと考えられます。

JR北海道グループ全体の決算 3年連続の最終赤字
2023年04月28日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20230428/7000057247.html
> JR北海道の昨年度のグループ全体の決算は、留萌線と根室線のそれぞれ一部区間の廃止に関連する特別損失を計上したことなどから、最終的な損益が164億円の赤字と、3年連続の赤字となりました。


NHKは赤字の理由を廃線の引当金によるものと解釈しましたが、もちろんそれが赤字決算の要因として全てではないので真偽が怪しい中身になってしまっています。廃止しなければ赤字にならなかったのか?は違う話ですね。

JR 営業赤字572億円 3月期連結 鉄道運輸収入は大幅増
2023年04月29日 北海道新聞
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/839052/
>  JR単体の23年3月期決算は売上高が31・9%増の729億円、営業損益が639億円の赤字(同763億円の赤字)、純損益が180億円の赤字(同9億円の赤字)。経営安定基金の運用益は、国による支援を受けるため前期に運用益を計上したことから、278億円減の293億円だった。


気になったのは北海道新聞の記事ですが、経営安定基金運用益が通期ではないと解釈できる記事になっています。確かに2021年度の経営安定基金運用益は572億円と巨大な額になっています。それ以前と比較しても2倍以上の額で、利回り8%以上という異常な額です(1987年当初の受取額より大きい)。
これは2021年度決算の資料に明記があります

2022.04.28 JR北海道グループ2021年度決算
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/mi/kessangaikyou/20220428_2021_4Q_kessan.pdf

 連結決算のポイント
連結決算のポイント


当たり前ですが北海道新聞はこの基金運用益に関しても書いています。

JR赤字 大雪・地震誤算 コロナ禍、損失膨らむ
2022年04月29日 北海道新聞
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/675591
>経営安定基金の運用見直しで多額の運用益を上げ、昨年4~12月期で140億円計上していた黒字を食いつぶした。JRが「経営自立」の目安とする連結純損益の黒字化には鉄道利用の促進に加えて災害対応力の強化が避けて通れない。
22年3月期決算は、20年12月に決まった国の経営支援策が多く盛り込まれた。鉄道事業の赤字を補う目的で運用する経営安定基金では、一部を国に委託するため保有する外債などの益出しを行った結果、運用益が過去最大となる572億円に達した。青函トンネルの修繕などに関する149億円の助成金も計上した。


つまり「国による支援を受けるため前期に運用益を計上した」ことではなく、昨年度の「特別」な基金運用益の算定方法を今年度は行わなかった(毎年行えるものではない)という理解が北海道新聞記者にはないともいえましょう。このあたりが不正確では北海道民に問題点を理解させずぼやかせてしまうという意味でも、記者自身が理解していないという意味でも(しかも資料を読んでわかることですら)残念なことであります。

<鉄路の行方>JR3月期決算 非鉄道事業 増す重要性 旅客 コロナ前に戻らず
2023年04月29日 北海道新聞
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/839179/
> JR北海道が28日発表した2023年3月期連結決算は、旅客需要が順調に回復し、新型コロナウイルス禍による打撃からは脱しつつあることを示した。
>23年3月期の売上高に当たる営業収益は業績予想を33億円上回った。鉄道運輸収入はほぼ予測通りだったが、ホテル業、不動産賃貸業、土産店やコンビニなどの小売業は好調だった。国の財政支援を受けない「経営自立」に向け、非鉄道事業の重要性が増している。

 JR北海道の業績推移
JR北海道の業績推移


この記事も過去の振り返りについて「好調」は何に対して好調だったか?というのがわからないわけです。コロナ渦の実績で比較してもあまり意味が無いというか、必要なのは「運輸収入」そのものなんですよね。


JR北海道の2022年度鉄道輸送量と鉄道運輸収入

では、実際にJR北海道の鉄道輸送実績はどのような状態なのでしょうか。決算資料には在来線分、新幹線分そして定期客、定期外客がわかるような形で輸送人員、輸送人キロ、鉄道運輸収入が記載されています。
 2022鉄道輸送量と鉄道運輸収入
2022鉄道輸送量と鉄道運輸収入
さすがにコロナ渦真っ最中の昨年に比較すれば増えていることがわかります。では、約10年遡ってみます。過去の決算資料から当サイト管理者が作成したものです。転記ミスなどがある可能性がありますので実際の利用は元データを必ず当たってください。
 2013-2022鉄道輸送量と鉄道運輸収入
2013-2022鉄道輸送量と鉄道運輸収入
2019年に定期客が持ち直した感がありましたが、その後コロナ渦で大きく減少することになります。そして大きいのが定期外客です。インバウンドを背景に定期外客を徐々に伸ばしていた矢先のコロナ渦です。結果昨年度は持ち直したとはいえ2018年度比81%となり約2割は戻っていないというのが現状です。それに引っ張られる形で運輸収入も78%程度となります。

行動規制のなくなる2023年度からは旅行支援などが縮小されることが影響するかどうか、またインバウンドが完全に戻っていない現状での運輸収入の伸びがどの程度になるのかが興味深いところです。仮に700億円程度まで復活し、ホテルや不動産事業の戻りがあれば今期の164億円の赤字は解消できるとも考えられます。

ただ、燃料費高騰や今後の電気料金値上げの影響も大きく受けることもわかっていますので、舵取りの難しさは感じます。どう単価の高い客を取り込むか、定期客を増やしていくかという面ですね。エスコンフィールドの観戦客が1試合1万人仮に使うとしても1試合あたり1千万円、年間7億円程度の増収。しかし現実は全くその人数を運べていませんから運輸収入が多少上がっても営業費用が増大すれば消えてしまうのです。


JR北海道の大型連休中輸送状況

行動制限のほぼない中で行われた2023年ゴールデンウイーク中の輸送実績が発表されましたので、その内容を確認してみましょう。

2023.05.08 ゴールデンウィーク期間ご利用状況のお知らせ
https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/20230508_KO_GW.pdf

 JR北海道大型連休中利用実績
JR北海道大型連休中利用実績


前年度との対比ですので大幅に増加したことがわかりますが、2018年度との比較ではやはり8割程度と戻っていないことが窺えます。しかし、新千歳空港に関しては100%ですので元に戻ったという言い方ができましょう。

もうすこし広いレンジで見てみましょう。当サイトでは2007年以降のゴールデンウイーク期間の輸送量を記載して日数が毎年まちまちですので1日あたりを算出して対前年比を毎年出しています。

 2013-2023JR北海道大型連休中利用実績
2013-2023JR北海道大型連休中利用実績
JR北海道自体の特急列車出火やそれに伴う減速減便なんかもありますので、比較対象が2018年で良いのか?という面はありますが、とにかく毎年のように利用が減り続けている中での2018年との比較でも8割程度しか戻っていないという意味では大型連休中とはいえ忌憚が大きいという面があります。

北海道内の高速道路の通行台数に関する情報と比較してみましょう。東日本高速道路の5月1日あたりの通行台数です。

東日本高速道路 高速道路の月別通行台数
https://www.e-nexco.co.jp/activity/word_data/data/r04_month.html


 東日本高速道路の5月1日あたりの通行台数
東日本高速道路の5月1日あたりの通行台数
特に札幌-帯広・釧路方面は2011年の道東道日勝峠区間の開通、2013年の特急おおぞら出火事故との関係性というのがあるかどうかは様々な意見がありましょうが、道東道も1日1万台以上の通行があり対面2車線では捌きにくく事故や災害での通行止めが多いという面があります。

十勝毎日新聞 つながる道東道~道央直結10年(下)「4車線化」
2021/11/17
https://kachimai.jp/article/index.php?no=547052


現在4車線化工事も進められ、当然それが開通すれば最高速度の拡大が行われ、さらに鉄道との所要時間差がなくなる、既にドアtoドアの場合鉄道のアドバンテージはかなり減少していることから、今後も利用客が戻ることは難しいとも言える部分でもあります。

そして、本州からの観光客を得るという面で新千歳空港輸送が100%まで戻っているが、札幌からの各地方への特急列車輸送量が戻らないというのは「コロナからの回復の地域格差」が起きているということです。本州、特に首都圏からの客を得ることを本気で考えないと北海道内の旅客輸送を維持できない。そういう面でもあります。

これはインバウンドでもそうです。

JR東海 2023.05.08 列車運行 2023年度 ゴールデンウィーク期間のご利用状況
https://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000042707.pdf

 JR東海 線区別ご利用状況
JR東海 線区別ご利用状況


JR東海が発表した今年の連休期間中の利用実績は「のぞみ」が2018年度比で103%とついにコロナ渦前を越えました。しかし、地域輸送、在来線特急などは前年よりは増やした地域が多いもののやはり8割から9割の戻りになります。つまり大都市圏は旺盛な移動需要が「コロナからの戻りが早く」今後も維持されていくが、中京圏も含めて地方はそうではない。こうも言えるのです。



毎度、当サイトは鉄道が赤字かどうか?ということよりも、どれだけ「使う人がいるのか」が路線の維持、発展に必要であると思っています。利用者が減っていく状況に歯止めをかけることができない理由がコロナのうちは「言い訳」ができますが、これが解消している状況でも減少を続けていることは、必要性の問題になるということです。そして、未だ赤字の問題として報道する面も含めて「識者」といわれている方すら問題点が理解されず、そのままズルズルと衰退していく。これが非常に問題と私個人は思うのです。

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