北海道の交通関係


北海道の交通関係サイト終了のお知らせ

当サイトは終了することといたしました。本件に関しましては以下をご確認ください。
当サイトは2023年12月末で閉鎖することといたしました


「函館駅」への新幹線乗り入れはどこまで現実的な話なのか

2023/05/16

2023年4月23日に投開票が行われた函館市長選挙で新人の大泉潤氏が現職を破り当選しました。大泉氏が市長選に立候補するにあたって第一に掲げた公約が「函館への新幹線乗り入れに向けた調査」を行うこととしています。

 2023年函館市長選選挙公報
2023年函館市長選選挙公報

在来線経営分離問題と函館現駅乗り入れ案

2011年から3期12年市長を続けた工藤氏の初期の決断として北海道新幹線の札幌延伸に向けた在来線経営分離問題に同意し整備新幹線の着工条件を満たしたという意味があります。

函館市 分離同意 並行在来線 道新幹線 札幌延伸へ 沿線15市町そろう
2011/12/21 北海道新聞
>函館市の工藤寿樹市長は21日午前、函館市役所で記者会見し、函館-新函館(仮称)間(18キロ)の分離について「熟慮に熟慮を重ねた上で同意するという判断に至った」との考えを表明した。
>工藤市長は会見で「道が第三セクターの設立や負担について最大限努力するとしており、高橋はるみ知事の決意も直接聞いた。JRも電化するほか、経営分離前と同等のサービスを維持するとしており、これ以上の支援協力は難しい」などと、同意の理由を語った。
>経営分離問題をめぐって道とJR北海道は13日、函館-新函館間で分離後に第三セクター鉄道を設立し、支援策としてJRが列車の運行を受託し、道は三セクを主体的に運営することなどを函館市に提案。


同時に函館本線側の並行在来線第三セクター鉄道に関して、函館市が関わらない区間の経営に参画しないという表明を行いました。

以前も当サイトでは何度か触れていますが、函館現駅への新幹線乗り入れは函館市がそれを盾に北海道新幹線のルート問題に発展、地元同意が前提である新幹線の建設自体が遅れていった要因の一つともいえましょう。ただ、函館市としては道南の中核都市として市内に新幹線駅ができないことに簡単に「はい」と言えない事情があったのもわからないでもありません。

北海道は現在の新函館北斗駅(当時の渡島大野駅)に決定していたルートは動かしたくない、しかし函館市の反対を抑え込んで工事にこぎ着けたいと1994年には「新幹線車両の現函館駅乗り入れ」の覚書をかわすことになります。

1994年当時、時の政権は自民・社会・新党さきがけの連立政権で村山内閣です。この連立与党内で北海道新幹線を「スーパー特急方式」で在来線規格のまま暫定運行とする案が出されています。1996年にはこのスーパー特急方式での整備見通しが示され函館現駅活用となる函館市は「歓迎」を表明します。

整備新幹線 地元函館歓迎 道などは失望
1996/12/17 北海道新聞
> 整備新幹線の扱いについて、北海道新幹線の函館-青森間はスーパー特急方式で整備される見通しとなったが、「事実なら道新幹線の認知という悲願の達成で大変うれしい」(函館市幹部)と歓迎している。
> 一方、整備新幹線財源問題で、北海道新幹線は札幌-青森間のフル規格整備が厳しくなったが、道は「必要な財源が確保されなかったことは残念」(同室)と失望の色を隠せない。


スーパー特急は新青森から在来線規格のままとなり、整備区間にもよりますが大幅なスピードアップは望めず、さらに乗り換えが必要になるという面があります。現実的に八戸開業時以降に最高速度140km/hで運行した「スーパー白鳥」はそのスーパー特急と似た運行方法であったといえましょう。新青森-函館は約2時間の道のりです。

札幌への延伸が要望である北海道としてはスーパー特急案は飲めるものではなく「札幌」と「函館」の温度差はこのあたりにも出てきます。北海道にとってはフル規格のために「函館」地区の駅を「渡島大野」にするために函館市と折衝を続けたことが反故になるわけですから納得できるものではないでしょう。
このスーパー特急計画は直後に「着工を見送り」となり、2005年小泉内閣時代に改めて全線フル規格としての着工となります。

1994年に結ばれた北海道と函館市が交わしたとする「覚書」これについての報道はあまり多くはありませんでした。

<危機の深層 何が道財政を追い込んだか>上 ばらまき 与野党要求うのみ
2005/10/18 北海道新聞
> 八月二十二日付で、高橋はるみ知事名の一通の文書が、函館市長に送られた。
 「線路工事費は莫大(ばくだい)なもので実現は困難である」。文書は、かつて道と市が交わしたある「約束」の反故(ほご)を通告していた。
 一九九四年、北海道新幹線の新駅をめぐり、渡島管内大野町の渡島大野駅案を主張する道と、現函館駅への乗り入れを譲らない函館市との厳しい折衝が続いていた。
 当時の堀達也副知事と市は解決策として、渡島大野駅乗り入れを市が認める代わりに、渡島大野駅から函館駅まで切り替えして戻る「スイッチバック案」などについて、将来、道が財政負担することも含めて協議するという案をひねり出した。
 「現函館駅への新幹線乗り入れや財源について、北海道が中心となって協議する」。当時の横路孝弘知事と木戸浦隆一函館市長名で同年十一月十八日付で交わされた「覚書」には、こう記された。事業費は少なくとも二百億円とみられていた。


この記事は経緯を振り返っていますが8月の「覚書の実質的な破棄」に関しての記事はありません。
そして、この覚書問題が長く糸を引き続けているのが在来線の経営分離問題ともなるのです。

在来線分離 函館市長、週内にも判断 高橋知事、会談で同意要請
2011/12/19 北海道新聞
> 会談は非公開で行われた。知事は会談で、道が新幹線の函館駅乗り入れに関する1994年の函館市との覚書を2005年に撤回したことを「心からおわび申し上げる」と述べた。道が13日に提示した分離後の三セクに関しては、道が「設立に向けての手続きを主体的に行う」「負担割合についても主体的な役割を果たす」とし、「責任を持ってやる」と明言した。
 その上で、知事は「道南各町は延伸を切望している。函館の判断を、ぜひお願いできれば」と述べ、今週中にも政府が延伸着工を判断することを踏まえ、早期の回答を要請した。三セク運営などで、道から具体的な提案はなかったもようだ。


このあたり「北海道が函館市に詫びを入れた」ことで経営分離の同意を取って着工要件を解決するという形で、多少「なぁなぁ」な状況ではありますが、民主党政権野田内閣時代である2012年北海道新幹線の新函館北斗-札幌区間が着工されることになります。


大泉市長の主張する函館駅への新幹線乗り入れの「調査」

新函館北斗駅は旧大野町となる北斗市に存在し、車両基地は七飯町、大きなカーブを描きできる限り函館に近づけた北海道新幹線のルートではありますが、函館市をかすめてはおらず、2016年に新函館北斗までの新幹線開業で、JR北海道が単独に電化し電車運行を開始した「はこだてライナー」が函館-新函館北斗間で運行を開始します。
東京-新函館北斗は約4時間、そして、乗換時間を含まず新函館北斗-函館は約15分となります。

2019年の函館市長選で工藤氏の対立候補であった武田春美氏は新聞インタビューで以下のように答えています。
「観光振興では北海道新幹線のJR函館駅乗り入れを求める。札幌延伸を機に並行在来線の利便性が悪くなれば、死活問題になる。費用については、全額負担は不可能なので、国に働きかけていく」
既に新函館北斗が開業した後であるこのときは大きな争点にならなかった函館駅乗り入れが何故今回争点になったかも見ていきたいところです。

市長選討論会等での大泉氏の主張

2023年3月23日に行われた市長候補の討論会の内容を確認してみます。主催は北海道新聞で地方面ですが詳しく掲載されています。

<函館の針路は 市長選討論会 詳報>上
2023/03/28 北海道新聞 函館面
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/822681/
>大泉氏 観光客の消費額倍増/工藤氏 外国人客70万人実現
>大泉氏 観光客数の推計に意味はありません。観光客1人当たりの消費額の倍増を目標とします。イーストジャパンをキーワードにキャンペーンを実施し、東日本の新幹線沿線自治体の枠組みや東北観光推進機構と連携を強めます。
> 工藤氏 観光の鍵を握るのは台湾便の毎日運航の再開や韓国便の就航です。官民挙げてプロモーションし、年間観光客600万人、訪日外国人客70万人を実現させたい。


<函館の針路は 市長選討論会 詳報>下
2023/03/29 北海道新聞 函館面
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/823406/
>大泉氏 新幹線乗り入れ調査/工藤氏 ライナー存続に全力
> 大泉氏 衰退を脱出するため、強力な起爆剤で一点突破しなければなりません。その一つが新幹線の函館駅乗り入れです。数十年来の地域の悲願であり、技術的課題やニーズを市が調査すべきです。調査しないで無理というのは地域の自殺行為に等しい。東京―札幌間のフル規格新幹線の後ろにミニ新幹線を連結させ、新函館北斗駅で切り離し、函館駅に向かう方式を考えています。現在のレールの外側にもう1本レールを敷設する工事が必要となり、有識者は建設費75億円と見積もっています。
> 工藤氏 函館―長万部間の全線を第三セクターで存続するのは難しい。函館―新函館北斗間のはこだてライナーの維持存続に全力を傾けます。ミニ新幹線の議論は以前からありましたが、北海道新幹線がフル規格になった時点でどうこうならないとはっきりしました。問題は建設費だけでなく、JR北海道がミニ新幹線の製造費や、函館―新函館北斗間のたった18キロにミニ新幹線を走らせることで生じる莫大(ばくだい)な赤字を負担して運行するかという話。JRが受けるはずがないです。
> 大泉氏 分断で典型的なのは道南全体との連携です。函館市が上から物を見るような感じで、近隣の市町がなかなか手を結んでくれない。市内でもいろんなところが一体になれば力が2倍、3倍になるのに、成果を上げられていません。


観光と新幹線に関しての部分だけ抜き出しました。大泉氏の最後の討論部分の発言、函館市が他の道南地域の自治体や住民にどう見られているのか?特に新幹線の整備計画や北海道に一任した形になっているルート設定に関しても後から自説をごり押しした印象は持っています。新幹線以外でも同様な「ちゃぶ台返し」が見られたことでの周辺自治体との軋轢は大きく、これをどう改善していくのかが新市長の課題ともいえましょう。

さて、その新幹線函館現駅乗り入れに関する大泉氏の考え方です。もう一つ記事を見てみましょう

<2023函館市長選>課題と公約 2候補予定者に聞く
2023/04/15 北海道新聞 函館面
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/832225/
(WEB記事と紙面記事は若干異なるので注意。当サイトでは紙面記事を引用)
> ―北海道新幹線のJR函館駅乗り入れに向けた調査を打ち出しました。
 「地域をよみがえらせる起爆剤が必要です。長年の悲願だった函館駅乗り入れ自体に反対する人はいないでしょう。議論を封印することはあってはならない」
 ―調査の結果、難しかったら諦めるのですか。
 「まずは調査をしてみることに尽きます。予断を持って話す段階ではありません」
> ―大泉氏は北海道新幹線の函館駅乗り入れに向けた調査を打ち出しています。
 「簡単ではありません。誰が新たに新幹線を製造し、責任を持って走らせるのか。75億円や100億円よりもっと費用はかかり、何十億円という莫大(ばくだい)な赤字が毎年生じます。誰が負担するのでしょう。新幹線乗り入れを調査しているうちに新函館北斗―函館間のはこだてライナーも残せなくなったらどうするのですか」


大泉氏の北海道新幹線の函館現駅乗り入れに関する主張をまとめてみます。
・現在の新幹線車両の「後ろ(東京方)」に函館行き新幹線を連結する形で乗り入れる
・現路線を「3線化」して新幹線車両を乗り入れる
・有識者は建設費75億円と見積もっている

この費用面では過去にもいくつか試算を出した例があります。

道新幹線アクセス問題 フル規格で現函館駅へ-追加投資1000億円も 研究者ら試算 「ミニ方式」でも150億円以上
2005/02/15 北海道新聞 函館面
>フル規格で新幹線を現函館駅まで乗り入れた場合、一千億円に上る追加投資が必要なことが道内の研究者らの試算で分かった。在来線を利用したミニ新幹線方式でも百五十億から二百五十億円もの投資が必要で、新幹線の現函館駅乗り入れは事実上困難な情勢となっている。
> 道や国、札幌市、大学の研究者、コンサルタント会社関係者らが私的に参加する北海道交通研究会の研究部会(田坂隆・部会長、約二十人)が北海道新幹線着工決定を受け、他区間の新幹線建設費などのデータを踏まえ、算出した。
> 研究部会は在来線で一七・九キロある両駅間のアクセス方法を鉄道とした場合《1》現函館駅までフル規格の新幹線を建設《2》在来線に新たにレールを一本敷設して、山形新幹線のようなミニ新幹線を走らせる《3》在来線で連絡列車を走らせる-の三案を想定して検討した。


市長選当選後の大泉氏の主張

当選後の記事を確認してみます。

<誕生・大泉市政 函館市長選 圧勝の先に>下 目を引く公約 実現に責任
2023/04/26 北海道新聞 函館面
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/837342/
>「乗り入れ」高い壁
 関係者の関心は、むしろ大泉氏の公約の行方に向いている。注目を浴びるのが新幹線の函館駅乗り入れだ。新函館北斗―函館駅の線路にレールを1本加え、新幹線が走行できる線路幅とし、東京発のミニ新幹線を新函館北斗から函館に走らせる方式を想定。経費は75億円との試算を示す。
 だが市役所内にはハードルは高いとの見方が多い。レールの敷設工事中、貨物を含む列車を運休せざるを得ないという問題がある。工藤氏も選挙戦で、大泉氏は車両製造費や運行にかかるJR北海道の赤字に触れていないとし、国や道の協力は得られないと指摘。大泉氏を支持した立憲民主党の道議も否定的で、自民の国会議員も「大泉氏に無理だと伝えたい」と話す。
 大泉氏は課題や経費、ニーズについて、年度内に調査結果を発表する意向だ。公約はあくまで「乗り入れに関する調査実施」であり、「乗り入れ実現」ではないが、「目玉公約なのだから『調査したけど無理でした』では済まされない」(有力経済人)との声もある。


大泉新市長 「まず物価高対策」 一問一答
2023/04/27 北海道新聞
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/837981/
> ―新幹線の函館駅乗り入れの実現性は。
 「可能性が高いかどうかは調査結果を待つことになります。簡単ではありませんが丁寧に説明し、理解を求めたい。学識経験者などによる応援団も組織したい」
 ―なぜ乗り入れが必要なのですか。
 「特に駅周辺が寂れています。投資を誘発するような起爆剤が必要。新幹線があるべきだという市民の気持ちは一致しています」
 ―財源は。
 「工事で75億円、80億円とされる資金を投下することになります。ふるさと納税収入を充てるかもしれませんし、何十年かけて払ってもらう線路使用料を担保に資金を借りる方法もあり得ます。車両製造に関しては札幌―函館間は北海道の大動脈であり、ニーズがある。鉄道事業者も走らせたいでしょう。ミニ新幹線ではなくフル規格新幹線も含めて調査したい」


大泉潤・新函館市長「新幹線は未来への投資、回収可能」
2023/04/24 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFC241JY0U3A420C2000000/
>  ――北海道新幹線のJR函館駅への乗り入れ調査をどう進めますか。
 「都市のステータスをあげるためにも北海道新幹線の乗り入れ調査をする。約50年前から陳情してきたが、諦めるというか放棄してきたのが現状だ」
 「調査せずデータがなければ、どこにも話を持ちかけようがない。ハードルが高いことは承知しているが、市民に課題やチャンス、どれくらいの費用がかかるのかを示す。先行投資しても、後から回収できる未来だと説明したい」
 ――はこだてライナーの存続を求める声もあります。
 「はこだてライナーをだめとは言わない。ライナーだけでは毎年赤字が拡大する。東京―函館間を新幹線で直結させることはもちろん、札幌―函館間の大動脈を直結することは北海道としてもなかなか反論しにくいと思う」
 ――乗り入れ実現の課題は。
 「最大の課題はレールの敷設や電気保安設備などに75億円程度かかることだ。これまでは誰も出しようがなく議論が進まなかった。市民の機運醸成が最も大切だ。市議や市民が理解してくれれば、話が一気に動き出すだろう」
 ――どのように費用を捻出しますか。
 「線路使用料を担保にして、お金を借りるような枠組みを作る必要がある。恒久財源ではないが、ふるさと納税を増やすことも重要だ。ただ借入金でまかなう可能性もあり、ふるさと納税は違う用途に使う可能性もある」


ここで75億円、80億円と数字がぶれるのは75億円では無理という話があったからに他ならないとは思いますが、まずは調査でどのような結果が出るのか?というところと、当然課題は新幹線だけではなく市民生活全般に関わりますので、「目玉政策」の新幹線にのみマンパワーをつぎ込めないのも現実とは思います。

鉄建公団OB吉川氏の試算

文春オンラインで鉄道ライター杉山淳一氏が書く鉄道建設公団OB吉川大三氏へのインタビュー記事が掲載されています。吉川氏は大泉氏に対し想定問答集を提供しこの件に多大な影響があったとされています。実際2023年2月に行われた「函館圏の活性化と新幹線フォーラム」での吉川氏の発言が75億円の根拠となろうかと思います。
ただし、このフォーラム、コーディネーターの函館市議会議員である川﨑啓太氏は「新幹線が函館に来ないとJR函館駅が無くなる」「三セク赤字補填は、道南の市民と町民が税金で負担」という半ば市民を煽るかのような内容を発言していることから、その内容の信憑性などはもう一度立ち止まって、正しい内容かどうか?というのは調べるべきものでしょう。

弟は大泉洋! 新函館市長・大泉潤氏が公約にした「新幹線函館駅乗り入れ」は実現可能なのか
https://bunshun.jp/articles/-/62805


北海道新幹線が函館駅に乗り入れると「はこだてライナー」はなくなるのか
https://bunshun.jp/articles/-/62806


大泉潤函館市長の公約「新幹線函館駅乗り入れ」のブレインに「線路」「車両」の構想をすべて聞いた
https://bunshun.jp/articles/-/62807


せっかく無償で記事は読めそうなので、興味のある方は読んでみていただいた方が良いとは思います。

この記事内で語られる前提条件。
・新函館北斗-函館の複線のうち1本を3線軌にする
・(当初はミニ新幹線といったが)乗り入れる車両は異本的にフル規格新幹線車両
・在来線電車(はこだてライナー)は廃止し、普通列車はディーゼル車で運行
・東京-函館・函館-札幌の運行を想定
・工期は4-5年


吉川氏試算に関するあくまで私が思う課題

吉川氏の全ての資料を見てはいないのですが、当サイト管理者がこの記事で感じた課題と思う面です。
・工事期間中の在来線列車の運行(特に札幌開業前の特急列車等の運行が多い期間)
 (氏は運休の必要は無いとしていますが、単線区間の新函館北斗-七飯の区間の工事方法)
・10両編成までの運行しか考慮されていない北海道新幹線区間の運用方法
 (10両のままで函館乗り入れを検討しているならば特段の問題はないのか)
・フル規格新幹線車両の在来線運行である場合、変電設備を新幹線規格(2.5kv)に変更する必要がある
 (五稜郭では江差線在来線側2.0kvと分ける必要があり、函館線在来線側は在来線電車列車を運行できない)
 (これは異相区分切替セクション化せずに単純なデッドセクションでも良いのかという問題、新幹線車両を単線運転する場合これが可能かどうかという問題)
・在来線区間の輸送障害の対応
 (JR東日本のミニ新幹線が北側に連結されるのは、遅延時にフル規格新幹線側を待たせず単独運行を行うことを前提としていると思われる)
・並行在来線として分離する区間の運行をJR北海道が行う形となるが、三セク、上下分離として特殊設備を地域が維持管理できるか
・特別な車両面の話があるとしてJR東日本はその内容、更新や新設を納得できるか
・この18kmのスイッチバック運行自体が、本当に利便性を感じることのできる内容なのか


個人的には函館駅に新幹線が来る方が利便は高いだろうとも思いますが、逆に観光や用務で実際に使う側が本当に現在の函館駅が利便が高く、現在の「はこだてライナー」では不満なのか?という面について考える必要があるような気もします。函館市内中心部に行くにしてもレンタカーで特に困らない上に、広域函館圏としての周遊を考えたときに「函館駅」はあまり利便を感じないのではないか、それが函館の(事実としての)駅付近が廃れている要因の一つではないかとも思うのです。

新幹線の電気設備は「異相区分切替セクション」でほぼ連続した力行、制動を行うことができるようにしています。在来線のようなセクション(電気の流れない区間)を設けて、運転士が目視で力行、惰行(モーターに電力を供給するかしないか)を制御する必要はありませんが、地上側で隣接する区間を列車運行に合わせてスイッチ的に切り替える運用を行っています。そのため信号面も含めて基本的には逆線運行を行わない仕掛けです(災害時や異常時などに過去にいくつか前例はある)つまり、フル規格新幹線は基本的に複線であることが前提になっています。
折り返しなどで逆線運行する必要がある場所はそのような対策を行っていますが、フル規格新幹線車両を「在来線」に入れるための仕掛けはかなり大がかりな地上設備を必要とすると予想できます。
ミニ新幹線に関しては車両側にフル規格用と在来線規格用の両方で使用できる電源・信号設備を切り替える仕掛けを有しています。結果、現状行われていないフル規格新幹線車両にミニ新幹線的在来線運行の仕掛けを付与するとしても、それが必要となる車両編成が多くなるJR東日本的には避けたいだろうとするのが本音ではないかとも思われます。そうなると地上側の対策である地元三セクや上下分離的な北海道庁などがこれについての投資を余儀なくされるという意味になろうかと思われます。
また、JR北海道も自社運行区間だけならば必要の無い仕掛けを新函館北斗駅に設置しなければならないことを考えたときに、複線フルサイズの「新幹線規格」の線路ではない区間への乗り入れは避けたいだろうとも思うのです。まして3線軌で在来線列車も走るという前提ならばなおさらです。
ここまで運行に関する基本的な面、おそらく各社が必要とする電源設備や車両設備、信号設備に関して「75億」に含まれると大泉氏は答えていますが、単純な線路の移設作業だけでも数十億は必要で、75億に信号設備まで入っているとはあくまで個人的には到底思えず現有の在来線信号設備、保安設備(ATS-Dn装置)をそのまま使用すると仮定していると思えば、そのような保安設備を新幹線としての運行会社は少なくともヨシとはしないでしょう。


費用は誰が負担するのか

では仮に75億円という整備計画として、その費用を負担する方法について大泉氏は
「線路使用料を担保にして、お金を借りるような枠組みを作る必要がある。恒久財源ではないが、ふるさと納税を増やすことも重要だ。ただ借入金でまかなう可能性もあり、ふるさと納税は違う用途に使う可能性もある」
としています。線路使用料は誰が誰に払うのでしょうか?
並行在来線分離後に三セクに列車運行のために支払う線路使用料はJR北海道が函館市に対して負担するというのが前提になっているように見えます。それが毎年入金されることを担保に函館市が融資を受けて建設するならばその前提に関してJR北海道の理解を得る必要がありましょう。毎度ですが「JR北海道は儲かるはずだから金を出せ」という話になります。
ふるさと納税は「取り合い」ですから勝てる内容を出せるかどうか?ですが、年間100億円得られたとして全てを新幹線に使えるわけでもありませんし、本人が言うとおり、あまり新幹線と絡んではいないようにも見えます。

あとは沿線である北斗市、七飯町の協力を得られるか、そして北海道庁の考えとなります。


周囲の反応

函館駅への新幹線乗り入れ問題はインパクトが強いだけに記事になりますが、色よいことは聞けていません。実際の車両面の保有もあるJR東日本はうかつなことは言えませんし、商工会議所も「現在」の運行が大事という意味になりましょう。

観光で大泉市長と連携 函館出身 深沢JR東日本社長が期待
2023/05/10 北海道新聞
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/843174/
>大泉氏が市長選公約の目玉に掲げた函館駅への北海道新幹線乗り入れ構想については「基本的にはJR北海道のエリア。私どもとして、新幹線をどうするかということには直接関係しないということはご理解いただきたい」とだけ述べた。


新幹線乗り入れ 会頭と平行線
2023/05/11 北海道新聞 函館面
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/843774/
> 函館市の大泉潤市長は10日、函館商工会議所の久保俊幸会頭ら幹部と市内で会談した。関係者によると、大泉氏は公約に掲げた北海道新幹線の函館駅乗り入れ構想への理解を求めたが、久保氏は実現は難しいとの見方を示した。
> 会談で久保氏は新函館北斗―函館間のはこだてライナーの利便性向上などに努めるべきだと主張したという。大泉氏は市の特別職人事についても説明した。




さいごに

当サイト管理者は新幹線に限らずインフラが新しくなり強化されていくことは望む立場ですので、仮に単線であってもある程度の高架に守られた新幹線設備での函館駅乗り入れは面白いとも思っています。しかし、在来線規格のまま踏切もある状態ではどうなのか?というのは若干の疑問を感じてはいます。
最も懸念するのは、JR北海道などから実際の設備金額が出てきたときに多分75億円なんて金額では済まないことに対して批判するであろうことです。実際に75億円ではできません(これは断言していいと思う)しかし、鉄建公団時代の「プロ」がいうのが正しいという前提条件になる。当時とは物価も安全基準も何もかもが違う世の中であります。これは北広島新駅などもそうですが、地元は30億円程度での試算(実際にそんな額では決してできない)が120億などとJRが試算することに対して批判するのと同じような状況になろうと思うのです。

そして、そのインパクトのある金額内容を「識者」の意見をつけて訴えたこと、そしてそれに対して反対意見を相手陣営に述べさせて「函館の未来に投資しない古い考え」と思わせたことは大泉陣営の上手なところでした。ふるさと納税の100億円計画も含めて「実際に函館市が出資するとは明言していない」が「なんとなく『他人』の金で新幹線が引けるんじゃないか」と予算面の問題も含めて市民に思わせた。
閉塞感を感じていた市民が若く知名度のある大泉氏に飛びついたことは想像に難くありません。もちろんそれが悪いわけではなく、大泉氏が今後どのように政策を実現し(多分)頓挫するであろう新幹線函館駅乗り入れについても含めて市政運営していくかが注目されるところであります。

函館市は並行在来線問題に関しても貨物輸送面でも市にメリットが少ないと「はこだてライナー」以外は消極的であったのも含めて、北海道は新幹線乗り入れという新たな課題も含めて並行在来線の協議に臨む必要があります。大泉氏と北海道知事の会談についてはまだ伝わっていませんが、いずれにしてもこの先4年の未来を託した知事と市長として良い方向になることを期待しています。

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