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苗穂工場公開で思う、鉄道という「事業」の規模感
2023/09/11
JR北海道は、2023年9月9日に苗穂工場の公開を行いました。この工場公開イベントは以前は毎年恒例でありましたが、コロナ渦を経て2019年以来4年ぶりに行われたイベントになります。その前も2018年は胆振東部地震で、2013年はJR北海道の不祥事等により中止されています。
久々の公開になった9月9日はその開門が待ちきれない人の列が苗穂駅付近まで約400m延びており、この機会を待ち望んでいた方が多かったことが覗えます。なお、苗穂工場内にある「北海道鉄道技術館」は毎月第2第4土曜日に開館しており工場内部の見学こそできませんが一定の公開はされています。
苗穂工場は1909年(明治42年)に鉄道院札幌管理局札幌工場として開設されています。北海道の鉄道開業は1880年(明治13年)で、函館-札幌の鉄道全通が1904年、北海道の鉄道国有化が1906年ですので、国有化により組織を一元化されたことで車両製造、修繕のための大規模施設が必要になったことが、この地に鉄道工場ができた大きな理由になろうかと思います。
苗穂工場の敷地面積は約20万㎡、札幌ドームの建物面積が約5万m²ですので約4個分ほどの面積になります。当時こそ札幌の郊外であったであろう苗穂地区ですが都市化が進み周囲はマンションや住宅が建ち並ぶ中明治時代の建物が残るゾーンになります。
なお、苗穂工場にはJR北海道、JR貨物の職員のほか、関連会社職員等約600人が従事しているとのことです。全てがJR北海道の職員ではないとはいえ、現在6,000人程度であるJR北海道の職員数から考えると少なくない人数がここに従事していることになります。
中を見る前に「鉄道工場」というものはどのような役割があるのでしょうか。「工場」「factory」は一般的には何かを製造する施設となりますが、鉄道工場は車両の製造なども一部には行われるものの主には車両の点検、整備、保守等を行う施設になります。
鉄道の「商品」は車両に乗客を乗せて移動させることで、その車両をメンテナンスするという意味では鉄道工場も商品に関わってはいますが、ここで何かを制作して直接販売するわけでもありませんから、一般的にはなかなか「見えない」部分であります。しかし、この車両工場が無ければ車両を走らせることはできないという重要な施設になります。
JR北海道では苗穂工場のほか釧路運輸車両所があり、2023年3月までは函館に五稜郭車両所が存在していました。JR北海道の組織縮減は車両工場も例外ではなく、また、要員不足も進む関係上将来的にも規模を維持することは難しいというものでもあります。
鉄道車両の検査、修繕
さて、単に車両をメンテナンスすると書きますが、鉄道車両の検査、修繕は一般的にイメージする車両の検査とは大きく異なる面があろうかと思います。例えば自動車を購入すると、基本的には新車3年、その後2年毎の「車検」を通すイメージになりましょう。この検査期間はタクシーやバスは一律1年毎、さらに3ヶ月おきに定期点検を義務付けています。トラックも8t以上は1年車検など車検の期間はありますが、いずれも基本的には「在姿」であり、車両を解体することやエンジンを下ろしてオーバーホールする等は基本的に行うことはありません。
もちろん、それを行うことも可能でしょうが、検査項目にはありませんし、一般的にエンジンのオーバーホール費用は乗用車でも数十万円の費用は覚悟しなければなりません。
では鉄道車両はどうなっているでしょうか。国土交通省では鉄道車両の検査に関しては「施設及び車両の定期検査に関する告示」でその用途や種別毎に規定しています。
国土交通省「施設及び車両の定期検査に関する告示」
https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/sgml/2001/62aa2981/62aa2981.html
仕業検査
JR北海道では144時間(6日)以内に行われる検査。基本的には目視で行われ、消耗部品の交換などが行われます。省令ではなくあくまで自社基準であり、新幹線車両では48時間(2日)以内、電車のみ運行する事業者では10日以内など会社によって異なります。この検査は所属する車両基地で行われます。あくまで省令ではなく自主的な検査と言えます。JR北海道 車輛の検査期限を超えた車両の運行について
https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/20230222_KU_sharyoukensakigengoe.pdf
この釧路運輸車両所(釧路運輸車両所は車両基地と工場が一体になった施設)での検査漏れ記事ですが144時間と明記されていますね。
交番検査(状態・機能検査)
このあとは省令に基づく検査となります。在来線の電車、気動車は特に問題がなくても3ヶ月おきに行う検査です。こちらも車両の解体などはおこなわず、電車でしたら編成として連結された状態で各装置の動作や劣化を検査し、部品の交換や調整を行う検査になります。こちらも車両基地で行う検査です。車両基地での交番検査に関する記載を見つけました。札幌運転所の検修科職員さんのインタビュー記事です。
株式会社北海道アルバイト情報社 鉄道車両製造・整備技能士
https://sankousho.haj.co.jp/interview/?interview_id=124
重要部検査
ブレーキ装置・主電動機・駆動装置などを取り外し、分解・検査・整備を行うもので、ここからは車両の分解が必要になりますので車両基地ではできず「車両工場」の出番になります。省令では4年または走行距離50万キロ(気動車)、60万キロ(電車)のいずれか短い期間で行うとしています。50万キロは1日の走行距離が1000kmにもなる北海道内の特急気動車では距離での制限での検査の方が多いかもしれません。そうなると検査が切れないように工場への入場計画を立てる必要がありますし、また繁忙期輸送を考慮した計画が必要になります。
この検査は少なくとも一週間から三週間かかりますので、その間の運行に対する予備車両を設けなければならないという意味もあります。早ければ1日かからない車の車検とは大きく異なる面の一つです。
なお、新型車両などモニタリングシステムの導入や可動部分の減少などが認められ、大手私鉄やJR東日本、西日本などは新型車両では重要部検査を簡略化しており、予備車両の削減に寄与していますが、現在のところ(あくまで報道などでは調べられなかった)JR北海道では従来の重要部検査を行っているように見えます。
全般検査
8年毎に行われ、ほぼ車両を完全に分解し、内装のリフレッシュ工事なども行い、ほぼ新車の状態にする検査となります。検査に約1ヶ月程度かかり、高額な費用がかかる上、その間車両を使用することができなくなることから、この車両運用計画が大事になります。なお、季節毎しか使用しない車両や運用を一時的に停止する車両は「休車」の扱いとすることで検査期限を延ばすことが可能ですが、これも重要部検査は最大2年、全般検査は最大4年という制限があります。
では、この前提を確認してから工場に入ってみましょう。
苗穂工場の配置
正門を入ると守衛室があり、その先に道路が延びています。


そしてその先にはJR北海道の除雪機関車DE15形のラッセルヘッドがピカピカの状態で展示されています。


そしてその横にはC11 171が解体され修繕されています。SL冬の湿原号として運行されるJR北海道が現在動かせる形で保持する唯一の蒸気機関車ではありますが、昨シーズンは不調で満足に運行できず、今シーズンはどうなりますでしょうか。

右側に見えてきた「北海道鉄道技術館」脇ではC62 2が蒸気音だけを響かせつつも動いている姿を見ることができます。ディーゼル機関車に連結されてはいるものの、少なくとも構内運転くらいは可能な足回りの整備は行われているということで、JR北海道とて一時の夢に終わった蒸気機関車の維持は行っていきたいという意識はあるわけです。

その横では解体が始まった721系車両を見ることができます。車両工場が車両に対しての最後の仕事になるのが廃車・解体でともすれば有害物質もある車両を適切に解体することも業務の一つになります。

「旅客車検修場」は車両を分解、再組み立てする施設になります。


「台車検修場」はその名の通り台車を検査、修繕する場所になります。表には見えにくいものの最重要パーツといって良い台車は専門の職場が用意されています。


「内燃機検修場」北海道ではどうしてもディーゼル車が多くエンジンの整備は大きな施設を設定しています。このエンジンを細かく分解し、そして再整備して組み立てる。これは非常に緻密であることがわかります。






そして組み上がり完成したエンジンは性能試験を経てまた車両に組み付けられます。

そういえば、今回2019年には見学している制輪子作業場に行っていません。さすがに鋳物による制輪子製造をやめたとは聞いていませんが、電炉や大規模な作業場を持つこの施設も他に利用する施設があるわけでもありませんのでJR北海道が今後も維持していく必要があります。なお、直営から札幌交通機械に業務委託されているはずです。
「社員食堂」多数の従業員が昼夜交代で働く苗穂工場では大規模な社員食堂施設、体育館、図書室が用意されています。今回もこの食堂が開放され、カレーやラーメンなどを食することができました。




社員食堂にはエアコンも無く、業務用の扇風機が多数並ぶ中です。冬期は寒く、夏期は暑い。多くの職場が少ない台数のストーブで暖を採りながらの作業は過酷に見えます。
以前も書いていますが「鉄道は見える範囲の設備」だけでは決して動かすことができない事を一体どれだけの人が考えて発言しているのか。というのがあります。
ここ最近は公開を行っていない苗穂運転所は工場公開エリアから見えるところにキハ40を並べたように見えます。

そして、今回キハ281を目立つところに展示しました。この車両を保存する意図があるかはわかりませんが、北海道初の振り子式特急車両は傾きを持って展示するのがそれを理解できる唯一の方法とも思います。前頭部のカットや模型ではなく保存できることを期待しますが、過去の経緯からJR北海道が現在何か独断でできることというのは非常に少ないとも思われ、かといって「スポンサー」は収益の期待できないものに投資はしないとも言えます。


苗穂工場の職員数は蒸気機関車時代は3000人を数えた時期もあったようです。国鉄、JR北海道としての従業員数は過去のパンフレットを見る限り、民営化直前に800名、1990年代には400名程度まで少なくなっています。現在は300名程度まで少なくなっていることが想像できます。そして構内の作業は関連会社である札幌交通機械も請け負っています。直営が全て良いとはいいませんが安全を司る職場もコスト削減圧力、人員不足問題と無関係ではありません。
そして、鉄道が大量輸送を行っているからこそこのような施設を維持することができます。利用が少い路線ばかりならば数ヶ月にわたって検査を行わなければならない車両の予備を確保できるのか、それ以前に土地建物、設備と人員を抱えられるのか?という話になります。
毎度三セクや札幌市の関係でも苗穂工場の施設を使った検査を行っています。JR北海道が工場を維持できるだけの一定の収益が無ければ他への影響も大きくなるということです。
苗穂工場を訪問するたびに、正直言えば酔狂ともいえるこの巨大な設備群をどう維持していくのか、どう職員を代替わりさせていくのか?それを部外者が少し見ただけでも考えさせられます。
殺風景な構内で綺麗に花を咲かせている、この花壇も職員さんが育てているのでしょうか。
