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JR北海道は本気で日高線を維持しようと考えていた
2016/08/12
日高線は1年以上にわたって不通になっているわけですが、JR北海道はその復旧だけでなく維持についても自治体への負担金の要請を行う旨の報道がなされました。もちろん道も沿線自治体もJRを批判するコメントにあふれ、マスコミもそれに同調しています。
読売新聞 2016/08/10
日高線復旧後の維持費負担で波紋
http://www.yomiuri.co.jp/hokkaido/news/20160810-OYTNT50010.html
JR、7町に要請の考え
JR日高線の鵡川―様似間(116キロ)が1年以上にわたり不通になっている問題で、JR北海道が、復旧後の路線維持に年間約16億4000万円が必要との試算をもとに、日高地方の沿線7町に一部負担を要請する考えを示し、波紋が広がっている。
費用負担を巡る議論が、復旧工事から維持費にも拡大した形だ。
新冠町役場で8日に開かれたJR北と7町、道による「JR日高線沿線自治体協議会」の第4回会合で、JR北は同区間の単年度赤字は11億1000万円、施設の防災・老朽化対策にも年間5億3000万円かかると説明。
「誰がどのように負担していくのか、相談させていただきたい」と要請した。7町の負担額は示さなかった。
町長からは「非常に厳しい問題だ」などと懸念が相次いだという。
JR北の要請について、高橋はるみ知事は9日の定例記者会見で「大きな金額」との認識を示したうえで、今後の議論には「どの程度の負担を求めているのかなど、JR北が整理する必要がある」と指摘した。
日高線を巡っては、JR北と国土交通省、道が復旧費負担を巡って協議しているが、暗礁に乗り上げている。
JR北海道は元々日高線を廃線にしたかったのでしょうか?私にはそうは思えません。JRが意固地になったのはその後の関係悪化が要因であり、最初から廃止するつもりで路線を維持したわけでは無いのです。その根拠として、いくつかのコストダウンの仕組みを紹介します。
●特殊自動閉塞(電子符号照査)
日高線は上下線が同じ線路を使用する単線ですので、正面衝突を避けるためには列車にはある区間に1列車しか入れない仕掛けが必要です。それが閉塞と呼ばれるもので、すれ違いのできる駅(交換駅)で駅員が通票(タブレット)を運転士に渡し、そのタブレットが通行票となって、次の交換駅で駅員に返却という複雑な手順で運行されていました。
この方法では交換できる全ての駅に運行時間中駅員を配置しなければなりません。
これを解決するには自動的に信号を制御する仕掛けが必要となります。しかし当時のシステムは線路全線に列車位置を検知する「軌道回路」という微弱電流を流して制御するなど、設備負担が非常に大きな仕掛けで、列車本数の少ない日高線では導入しにくいシステムでした。
国鉄末期に電子機器の普及で新しい閉塞方式ができました。これが特殊自動閉塞の「電子符号照査式」という方式です。軌道回路を交換駅の構内だけにし、列車から固有の列車情報を無線で発信、それを受けた閉塞システムが信号とポイントを自動で制御します。
この最初の実証実験に使われたのが日高本線です。このシステムには欠点もあり、通過列車の設定が難しいことや、システム故障時の手動運行が難しいことなどがありますが、システム自体の導入費用がそれまでの自動化システムに比較して大幅に安く、各駅の人員を最小限にすることができますのでコストダウンが可能になりました。
現在でも鵡川駅からの苫小牧行き発車時に運転士が無線機の「出発要求」ボタンを押すと、鵡川駅と苫小牧貨物駅の間に列車がいないことをシステムが確認(閉塞成立)した後自動で信号が青になり発車します。(ポイントは鵡川駅の場合スプリングポイントで常に2番線側に向いているため制御しない)
日高線ではこれに加えて途中での折り返しができる駅を鵡川・静内のみとしています。この駅は折り返しができるホームも決まっていて、システム的に人手を最小限にしています。(静内は構内での列車入れ替えが可能でその場合は手動でポイントを制御する)
このシステムは当時としては画期的な仕掛けではあったのですが、現在は保守部品の供給が滞っており、新しい閉塞システムへの変更が急務です。
JR北海道のホームページの
JR北海道 2016.07.29
「持続可能な交通体系のあり方」について
http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/160729-2.pdf
にある「倶知安駅の運行管理システム」がこの端末画面です。
●交換駅・折り返し可能駅の統合
列車がすれ違える駅を交換駅といいます。以前は日高線にも多くの交換駅があり、各駅に運転要員としての駅員を有しました。その後、先の閉塞方式の変更と前後して、交換駅を統合し合理化を行い、今は限られた駅での交換しかできなくなっています。
以下は各駅の交換設備の有無を表します。
×勇払
×浜厚真
-浜田浦
○鵡川
-汐見
臨フイハップ浜(廃止)
×富川
○日高門別
-豊郷
-清畠
×厚賀
-大狩部
×節婦
×新冠
○静内
臨静内海水浴場(廃止)
×東静内
×春立
-日高東別
×日高三石
-蓬栄
○本桐
×荻伏
-絵笛
×浦河
-東町
×日高幌別
×鵜苫
×西様似
×様似(終端だがその先に工場への専用貨物線があり側線を有していた)
○:現在交換可能な駅
×:以前交換設備が有り撤去された駅
-:駅設置時から交換できなかった駅
現状では本桐-様似は1列車が往復する形でしか列車を運行できません。また、交換できる駅も転換の必要がないスプリングポイントになっています。(到着は必ず指定の番線に入り、出発は自力で押し出して強制的に転換させる。列車通過後ポイントは元の状態に復帰する)
また、安全側線(赤信号で出発しようとしたとき本線に進入させないようにする設備)も存在しません。このため、すれ違う列車がどちらかが進入して停車するまでもう片方の列車は駅に進入できません。これにより多少のスピードダウンを受け入れてもコストダウンができるようになります。(安全側線には保守に手間のかかるポイント設備が必要なため)
交換駅の統合は列車本数とダイヤ設定の自由度を制限します。たとえば高校の存在する浦河(東町)や富川に通学にちょうどいい時間帯に上下の列車を着けようとしても、交換できなければどちらかの列車を早く到着させるしかありません。また、列車の増発も非常に難しくなります。
また、日高線の場合は雪が少ないこともあって除雪列車を運行する必要性が薄いことから他線以上に交換駅の統合が進みました。
システム上途中駅での折り返しを鵡川・静内のみとしていますので、それ以外の駅で折り返し行うのは非常に困難です。これは今回の災害で日高門別や厚賀での折り返し運行が難しい理由です。これを行うためには信号設備の改修が必要なのです。
●日高線運輸営業所
日高線は日高線だけを管轄する運輸営業所を持っています。
これは慢性的な赤字が避けられない日高線においてダイヤ設定や保守、予算などを権限委譲し独立させることでコスト改善を図った試みです。
開設は1990年で営業所には専用車両が所属し、駅員も運転士も同じ営業所に属する形になりますので、地域密着、おらが鉄道という形での運行が開始されました。
また、この当時は現在のジェイアール北海道バス様似営業所もこの運輸営業所に所属し、列車とバスの一体的な運営を行っていました。
これは考えようによってはJR本体からの「切り離し」ではありますが、日高線独自の臨時駅設置などの施策や臨時列車の運行、きめ細かな増結対応など利点もあり、その後根室線末端(花咲線)でも同様の営業所制度が取られました。
●新型車両導入
民営化直後の1988年、JR北海道は新しいコンセプトの新型車両を日高線に導入しました。これがキハ130形です。
従来の車両は重く燃費が悪い上、加速も鈍重でスピードアップも難しいという事情がありました。また、車体も大きく乗客数が少ない日高線には向かない車両でした。
日高線沿線は北海道としては比較的温暖で雪が少ないこともあって、本州のローカル鉄道で使われている車両に暖房強化した仕様で設計されました。
キハ130はこれまでの車両に無い利点を持っていました。
・全長が16m、自重28tと小型軽量となった(従来車は37.6tであり、線路への負担軽減)
・定員が100人と従来車並を確保した(従来車96名)
(座席数は46で従来車の68より減りますが、デッキが無いこともあり立席定員が多い)
・燃費の良いエンジンと2軸駆動で空転にも強くなり、出力も上がった
・軽量車体と出力向上で加速性能が良くなりスピードアップできた
・トイレをタンク式として、垂れ流しを止めた(汚物抜き取り方法を改善して従来車よりコストダウンもできた)
しかし、反面非常に厄介な問題もありました
・軽量な鋼製車体が沿線の塩害で腐食が進んだ
・1枚窓(従来は2重窓)のため室内保温が難しかった
(ただし、ほぼ同仕様のちほく高原鉄道車は厳寒の北海道内陸部で使用されていた)
・踏切事故で運転士が両足切断の大怪我を負った(軽量化による強度不足)
期待を込められて作られたキハ130は11両が製造されました。日高線全列車をキハ130で走行し、大幅なコストダウンに貢献しました。しかし、車両の腐食は従来車より酷く、徐々に引退し2002年までに全て廃車となりました。実質的な使用期間は10年あまりとなりました。
現在は従来車であるキハ40に強馬力のエンジンを搭載し、キハ130とほぼ同じ時刻で走行していますが、従来車の欠点である重量と燃費は改善されていません。エンジン換装などにより現在のキハ40型は39tもの重量があります。これが相対的にコストアップに繋がったことは否めません。
●JR北海道は日高線維持を本気で考えていた
国鉄時代は日高線は一ローカル線ではありましたが、まだ貨物列車も走り重要な役割を果たしていました。昭和30年代には準急や急行も走り最も輝いた時代でした。
しかし、貨物列車は1984年までに全て廃止となり、1986年には鵡川から分岐していた富内線と急行列車が廃止となります。
ローカル線が次々廃止になるなか、日高線は輸送密度が低いが平均乗車距離が長いことで廃止を免れます。しかし、これを引き継ぐJR北海道は最初から日高線の赤字をある程度見込んで運行しなければなりません。
JR北海道(と新会社に引き継ぐことを決定した国鉄)は日高線をローカル線をコストダウンし維持するためのモデルケースと考えました。それがこれまで述べてきた様々な投資です。
もちろんその全てがうまくいったわけではありませんが、実際日高線は国鉄時代よりも大幅に少ない職員数で、大幅に少ないコストで運行しています。
つまり、日高線を永続的に運行するための手立ては繰り返しなされてきたことなのです。
しかし、1984年に特急バスペガサス号が運行開始、国鉄急行の廃止とともに便数を伸ばし、さらに道央自動車道から分岐する日高自動車道は2012年までに日高門別まで開通。そして沿線人口は国鉄転換時の2/3程度まで減りました。先日のJR北海道「維持可能な交通体系のあり方について」では日高線の輸送密度は1975年比の10%程度まで落ち込んでいます。
もちろん外部要因だけが原因で列車利用が減ったわけではありませんが、少なくとも民営化後に極端な利便性の低下は起こっておらず、新型車両導入でのスピードアップや、休日に快速列車の増発を行うなどできる限りの増収策は取っていました。また、静内や浦河から札幌までの特急利用可能な割引切符を発売し、札幌からの観光列車を運行していた時期もあります。それでも乗客の落ち込みを止めることはできませんでした。
そして追い打ちを掛けるような今回の路盤流出です。日高線運営のさらなるコスト削減は困難であり、まして線路の土台自体が崩れてしまっては維持は難しくなります。線路復旧のためのコストがあまりにも収入と釣り合わない状況であるからです。
日高線の2014年の実績は
・輸送密度 298
・営業収益 1億4000万円
・営業費用 14億6000万円
となっています。13億程度の赤字を少なくする方法というのは、少なくともJR北海道の努力だけでどうにかなるものではありません。
そして、JRが単独で日高線を復旧できない理由は、日高線から千歳線などの列車利用に結びついていないこともあります。沿線利用客が他線も利用するならその分も含めて収入を算定できますが、現在の日高線の輸送状況はほとんどが地元の通学需要しか無いため他線への影響が微々たるものでしかありません。今の状況では日高線を廃止しても他線の客は全く減らないので、JRとしても日高線を復旧するという熱は非常に少なくなってしまうのは致し方ないことであります。
●これからの日高線
JR北海道が日高線を辞めたがっていると思うのは勝手ですし、沿線利用客には様々な不満があろう事は承知しますが、あまりにも現在の一方的な報道と各自治体のコメントにはうんざりします。現実には輸送実績を見ても沿線の列車利用は少なく、その使わない者が「けしからん」と言っているだけに聞こえます。
すでに沿線バスには国や道も含め補助金を拠出して維持しています。しかし鉄道維持には自治体は一銭も出しませんなんていうことが通るわけがないのです。
道も地元自治体もJRが悪いJRが拠出するべきだでは話が進むわけもありません。
この地域の交通網を永続的に維持するためにはバス会社も含めた話し合いと、交通網に対する費用分担の検討、そして、地元客も観光客にも利便の高い複合的な交通網接続点が必要です。集落から離れ利用客の少ない鉄道を維持するより、細かくバス停が設定され、通学時間などに寄り添った対応ができるバスへの転換を検討するのは、現状では最善であると考えます。
現に日高線の代替バスは自治体の要望で通学ダイヤの改善や高校前へのバス乗り入れなどの対応を行っています。これは本来列車ダイヤを踏襲する代替運行としては異例の対応で、実質的なバス転換を行っている状況です。このことがJR北海道の良心と言わずしてなんと言いましょう。本来沿線路線バスがある状況ですのでJRが日高線代替バスを動かさなければいけない義務は無いのです。それを地元の要求を呑んで区間によっては列車本数以上の便数を運行していることは異例の状況なのです。
それでもマスコミからは地域の不満の声しか聞こえませんが、列車ダイヤとバスダイヤを比較すると高校始業時間に列車がなく通学が不便だった時間帯にバスが新設されているなど、利便を高めています。この状況で元の列車運行に戻した場合それは本当に通学生にとって喜ばしいことかは甚だ疑問です。
実のところ現在の日高線はバス転換した場合のコスト差や乗客数を検証する「社会実験」を行っている状況です。札幌への用務客はほとんどが「ペガサス号」の客であり無視でき、振興局が違う苫小牧との結びつきは一時よりは少なくなっています。列車が運行される鵡川とバスが運行される日高振興局管内の間の通学生輸送は越境入学となるため少なく(その少ない利用客にわざわざインタビューしているので「不便」という声がことさら大きく出てくるのだ)本当にその通学客が多いなら高速道路経由の苫小牧便のようなバスがもっとあってしかるべきです。
道や自治体は地元バス会社などとJRがもう復旧しないものとして今後の維持を考えるべきです。いままでJRに押しつけてきたコストを自分たちが一銭も負担しないという誤った考えを改め、地域の永続的な交通手段の確保について話し合うべきです。
そして、そのなかで日高道の早期延伸や高速バス停、バス乗り継ぎ点の整備なども含めた整備費用の負担割合を決めていくことが大事です。