北海道の交通関係

道新社説と日高線の今後

2016/09/13
まずは次の社説を読んでいただこう。
こちら 多分数日で読めなくなるので本文も貼っておく。

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JR日高線 存続させる気あるのか 09/11 08:55

  鵡川―様似間の不通が続く日高線を果たして存続させようとしているのか。疑わざるを得ない。
 JR北海道は日高管内の沿線自治体との協議会で地元7町に対し、復旧後の維持費として毎年13億4千万円の負担を求めた。
 JRはこれとは別に列車運行費3億円を負担するという。しかし、沿線自治体はいずれも財政難だ。「これでは廃止に向けた提案ではないか」。そんな憤りの声が地元から出るのも当然だ。
 確かに、JRは赤字路線を抱え経営は厳しい。だからといって、公共交通機関としての自覚を放棄したような提案が受け入れられるわけがない。再考を求めたい。
 日高線は昨年1月の高波被害で海岸沿いの一部の地盤が流出し、鵡川―様似間116キロが不通となった。今夏の台風に伴う豪雨でも橋が流されたりしている。
 復旧が遅れているのは工事費の負担割合を巡ってJRと国、道との調整がついていないからだ。台風被害の復旧も含め、この問題の解決を急がなければならない。
 不通となっている間、目立ったのはJRの復旧への消極姿勢だ。代行バスは便数が減ったうえに所要時間も長くなり、高校生の通学などに支障が出ている。
 線路は使わなければ劣化する。地元からは鵡川以東の一部区間で列車を運行すべきだとの声も出たが、これにも応じなかった。
 そして今回の負担要請である。
 毎年の維持費を7町で単純に割ると2億円近くに及ぶ。実現可能性は極めて薄い。
 JRは今秋、全道の維持困難路線を示した上で、地元との協議会を設置する意向だ。しかし、採算がとれないから廃止するというのでは公共交通機関とは呼べない。
 日高線の協議でJR側は、駅や鉄道施設を自治体などが保有し、JRは運行に専念する「上下分離方式」も提案した。これから始まる道内各路線の協議で持ち出すことも予想される。
 だが、財政難の自治体には「上下分離方式」は無理筋だろう。
 首をかしげるのは道の姿勢だ。自治体の窮状を最も知っているはずにもかかわらず、JRの提案を受けて自治体側に助け舟を出したという話が聞こえてこない。
 国は地方創生を政策の柱の一つに掲げている。過疎化で疲弊する道内の現状を考えれば、まず交通網を再構築するのが道の務めだ。
 道の財政支援が難しいとしても、国に存続への支援を求めるなど行動を起こすべきではないか。

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道新記者は例によって誰かをたたけさえすればそれでいいという観点があるわけです。採算がとれないから廃止というのは公共交通以前に慈善事業ではないのですからいつかは覚悟しなければなりません。あくまでJR北海道は民営化時にJR北海道に与えられた経営安定基金の運用益の範囲内での赤字で運行することを前提にしている鉄道会社で、その範囲で収まるように国鉄末期と民営化直後に路線を廃止しています。
それから30年近く経っています。もちろん基金運用益の目減りも問題ですが、それ以上に過疎化と道路整備で鉄道利用が減っているというのが問題なのですね。もっと細かく言うと、人口減少は日高管内で1985年比25%程度の減少ですが、それ以上に高校生の人口が減っています。日高線沿線でいえば高校生の数は転換時の半分程度になっているのです。
ローカル線の主な利用者である高校生が少なくなっていることが、JR北海道の「利用客」の減少に繋がっていることを認識しなければなりません。

そして、通学生の減少は大量輸送機関である鉄道である必要があるかという認識に繋がるわけです。最大の通学需要が200人を割った時点で、バス4台程度での輸送が可能になることから鉄道での輸送の必要性が急激に減るわけです。
日高線でもっとも輸送量が多い苫小牧-鵡川間ですら、通学生の数は300人を割っていると考えられます。列車の最大増結が3両であり、現在この区間は台風被害のためバス代行になっていますが、最大のバス増便台数が4台程度となっていることからです。
つまり、既に日高線には鉄道でなければならない積極的な理由に欠ける現状があるわけです。

JRが「存続させる気あるのか」はわかりませんが、現在の状況では存続できないことも確かなことです。既に日高線の赤字額は「何も無くても」年13億円以上となります。もし、この赤字を運賃だけで解消するには客数を10倍または運賃を10倍にする必要があります。当然そんなことはどう転んでもできないわけで、それなら、北海道や沿線自治体ができることは、その赤字の一部でも補填する必要があるわけです。それもできないなら1/10にコストを抑えられる交通機関に変えるしかありません。すなわちバス転換ということになります。

以前も日記に書いておりますが、JR北海道は日高線の赤字額を抑えるための様々な試みを行いました。これは日高線をなんとか将来も維持しようと考えたからです。少なくとも国鉄時代に廃線にならなかった路線は維持するのが前提ですから、なんとしてもコストを抑えなければなりませんでした。1kmあたりのコストが年間100万円程度ですから、他の路線に比較すると大幅に少なくなっています。日高線沿線が比較的積雪が少ないなどの要因がありますが、最小限のコストで運用しているわけです。これを考えてもJRは少なくともやれることはやったと言うことができると思われます。これ以上何を求めるのかという状態なのです。

通常時ですらその状況でありますが、今は沿線の様々な場所で鉄道が寸断されている状況です。それを復旧する費用と、復旧後について2段階で検討する必要があります。


●地域の「足」を誰が守るのか?
まず、大事なのは地域の足を守るのは誰の役割かという観点なのであります。この記者は裏を返せば地元自治体は財政難だからJRが出すべきだと取れる。しかし、当然JRも「財政難」には違わないわけだから、無い袖は振れないということは同じなわけです。今回の台風も含め、各所で路盤や橋梁も流出しており、復旧には今回の台風前に試算した38億円を大幅に超過する見通しです。特に橋梁を再設置することを考えると全線を元に戻すだけで100億円程度、さらに災害が起きにくい線路の高台移転行えばさらに数百億円の負担が必要であり、全く現実的ではありません。当然それを考えるからこそJRは上下分離を提案し、地元自治体は飲めないというババ抜きの状況になってしまっているのです。

日高線の沿線は国道と一般国道の自動車専用道路である日高道が並行しています。この道路の維持は北海道開発局が行っておりますので、並行路線バスは実質的に「上下分離」として運営されています。バスが道路に対して支払うコストは車両の重量税と燃料税のみとなります。しかし、その路線バスすら赤字となっていて自治体補助を受けて走っているわけです。
鉄道は燃料に税金は払わないものの、自前の土地の固定資産税を支払い、自前で線路を維持し、除雪し、自前で車両を維持し列車を走らせることになります。他の路線よりコストがかかっていないとはいえ、この路線を維持するためにバスに比較してどれほどのコストを掛けているかは一目瞭然です。そして、JRの赤字に対して道も自治体も一切支援していない状態で、JRの責任で復旧せよというのはさすがに道も自治体も虫が良すぎます。

JR等の「公共交通機関」は公共に尽くすべきだというのは当然と考えるかもしれません、しかし、それは本当に公共交通を利用する人がいるから維持できるわけで、現実に利用客の少なくなってしまった日高線は既に福祉の領域で運営するレベルになってしまっています。採算以前に福祉は地域で行わなければ地域の役割を果たしているとは言えないのです。

日高線問題でイニシアチブを取るべきは北海道です。元々地域公共交通活性化再生法は地方公共団体が先頭に立って関係者と合意形成し持続可能な地域公共交通ネットワークサービスを形成するとしています。
北海道はこの地域で「持続可能な地域公共交通ネットワークサービスをを形成する」ことを放棄し、完全にJRと地元市町村に丸投げしている状態にあります。JR北海道もこの地域を統括して「相談」できる部門が無い以上各市町村に個別に協議する形にしかならないのは当然で、形としては「JR日高線沿線自治体協議会」と銘打っているものの、このままJRが悪いと言い続けたところで現実に「持続可能な地域公共交通」は維持できないわけです。そして、会に参加した北海道総合政策部交通政策局長は「道は(日高線への)財政支援を考えていない」と言い放ったわけで、北海道としてはこの地域の公共交通に対して全く関与しないスタンスをとり続けるわけです。


●日高管内に必要な交通機関とは
現在日高管内の公共交通はJR北海道の鉄道路線と道南バス・ジェイアール北海道バスの路線バス、そして地元自治体による町営バス・福祉バス(バス・タクシー会社委託含む)となります。各交通機関は少しづつリンクしていますが、重複している箇所もあるわけです。
必要があれば重複しているのはかまいませんが、現実には都市規模から考えるととても複数の交通機関を維持などできない状況であることは明かです。

そして、高速道路の延伸とともにJRが行っていない札幌や新千歳空港と日高管内を結ぶバスが便利になるという状態もあります。バスも非常に厳しい状況を走っていることは否めませんが、バスはあくまでも自前での走行路線の管理は不要でありますので、損益分岐点が鉄道より低く、少ない輸送量でも大きな赤字を生みにくい構造があります。

その代わりバスは赤字路線の撤退が比較的簡便になります。それが鉄道の廃止とは大きく異なることなのです。沿線自治体もJRは廃止しにくいだろうという目論見があったことは否めません。既に沿線のバスも幹線系統しか残っていないのが現状で、多くの枝線は民間バスの廃止後自治体バス等で代替されているのが現状です。そして、その代替バスもデマンド型タクシーなどさらに輸送量の少ない手段になりつつあります。

このことから考えると日高管内の公共交通機関はバス等道路交通に一本化することが最善と考えることに異論はありません。


○鉄道が無くなる事への問題、懸念
・バスは時間がかかる問題
鉄道に比較するとバスは大きく迂回する部分があり、所要時間が長くなる部分がある。ただし、これは鉄道代替バスが国道から離れる小駅を経由することと、路線バスが苫小牧市内の利便を高めるために市内各停留所での取り扱いを行うなどの問題があり、これは必要なら直行便を運行することで鉄道と遜色ない所要時間で運行できる可能性のある部分である。

・地図から鉄道が消えることの問題
多くの国鉄廃止線がそうだったように、地域から鉄道路線が消えてしまうと全国版の時刻表からも地図からも自分たちの地域が消えてしまいます。これは観光へのダメージもありますし、どうしても鉄道の消えた街は「ネガティブ」になってしまうものです。

・バス業界が受け入れられない問題
国鉄末期と大きく異なるのはバス業界自体も疲弊していることです。運転手のなり手も少なく、観光需要は旺盛なためそちらに手が取られている。そして、バス自体が儲からない事業になっている現状もあります。これは鉄道代替バスが多く出せない理由にもなっています。
また、大型二種免許の所持者の不足と、免許制度の厳格化で将来の取得者も減っている状況もこの問題に拍車をかけています。

・そもそも地元が公共交通機関を利用しない問題
地域で公共交通機関を利用しない理由に、通学、通院等で利用する本来公共交通を利用する層が自家用車や学校・病院などのスクールバス等での輸送を利用することが上げられます。地域の高速道路は無償であり、まして直行することで鉄道より高速で移動できる以上この流れが収まることは無いものと考えられます。
また、免許を持つ用務客が公共機関を利用することは少なく、ビジネス利用も社用車等によるものが多くなっている。これは新幹線のような圧倒的な高速交通が確立されていなければほぼ公共交通に戻ることは無いのです。


○公共交通が共存する状態の確立
・同一区間同一運賃・相互乗車の確立
日高管内と苫小牧とはJRと路線バスがあるわけですが、その両者には何の連携も無い状態です。運賃精算等の問題はありますが、同じ区間を同一運賃、共同運行とし、どちらに乗っても良いという形にすることで、運行便数が飛躍的に増加することになります。
特に浦河地区は現状3社が並行に走る状況が続いています。同様の時間に走る便もあり非常に効率が悪い状態です。これを各社で調整を行うことで便数と利便性を確保します。

・地域時刻表の発行
また、今までは市販の時刻表を見てもその地域でどのような交通機関があるのかがわからない状況でした。そのため鉄道が無い地域への移動手段が非常にわかりにくい状況にあります。
これを改善するためには北海道が各振興局単位で交通網を記載した時刻表を作成するべきでは無いかと思っています。
既に時刻表を金を出して買う時代ではありませんので、当然スマートフォンなどで対応する必要もありますし、主要なターミナルには配布版を置く必要があります。
また、地域毎の乗車マニュアルを作成することが必要になります。子供の頃から一度も公共交通を使ったことのない市民は大人になっても公共交通を使わないのです。そして、高齢の方も公共交通を使うことで事故リスクが減るわけですが、その利点をもっと活かした取り組みをしなければなりません。

・公共交通接続拠点の確立
日高地区が恵まれているのはほぼ中間の静内駅と駅前でのバス乗り継ぎ拠点を持っていることです。JRは今のところ有人で、バスの案内所も入っています。同様の乗り継ぎ拠点を鵡川・浦河・様似に整備することで拠点交通化を図ります。浦河は現浦河駅よりも高校、病院と近い東町駅付近に作成することが必要でしょう。
JRが復旧する可能性は非常に低いものの、JR代行バスが必ず拠点ターミナルに入ると言う形にしなければならないのです。
また、病院の自家用バスやスクールバスもここを起点とするよう働きかけることで、自家用バスの距離を狭める必要もあります。
そして、クルマの運転に自信が無い人のための駐車場設備、そして、この拠点を中心に学校や病院、役所などの施設を集約することで、中心街をもう一度構築する必要があるのです。

・地図から消えない方法
時刻表や地図から消したくない、しかし鉄道は維持できないというなら、その区間はバスに転換するしかありません。しかし、現在のような単純なバスによる鉄道代行ではありません。東日本大震災で被災した東北では一部区間がBRTと呼ばれる高度バスシステムへの転換を行いました。しかし、日高では鉄道路盤が破損しているためBRTにはなりにくい問題があります。このため、JRの路線として日高線を運営し、しかし、運行はバスによるという方法になろうかと思います。東北BRT同様JRの運賃としては通算せず、運賃体系を別途に設定します。
これにより沿線既存バスと一体化運営し、しかも外国人観光客の利用するJR企画乗車券が利用できることになります。当然地図から路線は消えません。

・日高は全道のモデルケースになる
日高管内は海岸線沿いに集落が点在しており、国道が整備されています。そして、その「本線」に対して枝線のように内陸地域への道路が延びている形になります。
これは鉄道の本線支線の関係と似ており、本線に接続拠点を設けることで支線へのネットワークを構築しやすい状況にあります。
つまり、支線から高速バスなどへの乗り継ぎ、支線から支線への乗り継ぎを拠点とし、その拠点を中心に学校、病院、社会基盤施設を集約することで、地元はどの地域に住んでいても交通機関で移動でき、観光客も拠点までの交通機関が明確であるため利用しやすく、その拠点は定期観光バスなどの二次交通拠点にもなるのです。

この方法はどこの地域でも多かれ少なかれ同じような問題を抱える地域のモデルケースになります。鉄道をなくすことをネガティブにするのではなく、ここから新しい街作りにしていくツールとして活かさなければなりません。


●さいごに
道新の記者がどのような意図でこの社説を書いたかはわかりません。
そもそそもJR日高線沿線自治体協議会については議事録も公開されておらず、設置要旨によると国はオブザーバーとしての出席にとどまるなど、道が主体となっているはずなのですが、その道も議事録を出さず、また、この会についてのマスコミ報道についても当然バイアスのかかったものしか出てきませんので、もう少し議論の中身を知りたいところです。
また、復旧工事については災害復旧事業費補助金により国と道が1/4ずつ、JRが残り半分を負担となっており、とてもJRが飲める内容ではないが、これをJRが飲めば復旧できるということを言っているのだと思われるが、その調整をするのもJRの仕事では無いわけです。
日高線の復旧を望むのは地元の自治体なのですから、地元自治体はここまでは負担できるという額を公表するべきだと思います。その上で北海道は国、JRの負担額を算定して公表するべきです。国も北海道もJRや地元自治体が出せないことなど分かりきった話で、そのなかでも地元に鉄道が必要なのだという熱意が無いことには誰の心も動かないのです。

現実に誰も負担したくない、JRが負担しろと言い切るならば当然この話は動くわけもなく、JRは粛々と日高線の廃線に着手するでしょう。そうなったとき現在のJRに任せっきりの代替バスの運行も自治体の責任に変わるわけです。協議会は日高線を復旧させるか否かなんていう会議では無いはずです。本当に利用する人が今後も継続してこの地域を移動できる「持続可能な地域公共交通」構築のための会議でなくてはならないのです。

JRは維持するのはこれだけ必要と提示しました。北海道と地元自治体が飲めないことはわかっているはずです。でも、JR北海道の現状が許さない状態になっている以上、北海道も地元自治体も腹を決める時期に来ています。これ以上判断を長引かせることは誰にとっても有益ではありません。

カテゴリ: 北海道の交通関係 JR北海道 日高線 路線バス 免許返納

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