北海道の交通関係

北海道内路線バスの現状

2018/05/31

JR北海道の諸問題は大きくクローズアップされて報道されていますが、報道があまりされない中、特に地方でのバス路線維持が難しい現状があります。
もちろん人口減少、学生の減少、そしてモータリゼーションで路線バスを使わなくなったということは理由の一人ではあろうかと思いますが、特に最近では路線バスを維持するための乗務員不足もこの傾向に拍車を掛けています。

NHK 2018年05月29日
路線バス会社6割 廃止減便検討
https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20180529/0000391.html
地域の公共交通である路線バスがいま深刻な事態に直面しています。
NHKが行ったアンケートで、道内のおよそ6割のバス会社が、利用客の減少や運転手不足などを理由に、今後、路線の廃止や減便を検討していることがわかりました。
人口が減る地域で、バスは公共の「足」であり続けられるのでしょうか。
NHKは、今月までに道内で路線バスを運行する31のバス会社にアンケートを行い、25社から回答を得ました。
この中で、今後、路線の廃止や減便を検討しているか尋ねたところ、「廃止と減便を検討」が8社、「減便のみを検討」が8社、「路線を維持、または増やす」が8社で、廃止や減便を検討する会社が全体の6割あまりにのぼっています。
さらに、「廃止や減便を検討」と回答した会社のうち7割あまりが、すでに始めていたり、1年以内に検討を始めたいとしています。
廃止や減便の理由を複数回答で尋ねたところ、「乗客の減少」を挙げた会社が9割、「運転手の不足」が7割、「補助金の削減」が5割となっています。
一方、会社の経営の見通しについては、「将来も十分経営できる」が5社だったのに対し、「会社の維持は不安、困難」が20社にのぼり、人口減少が進む中、事業の継続が見通しにくくなっている実態が浮き彫りとなりました。


この記事内で理由に挙がっている
「乗客の減少」
「運転手の不足」
「補助金の削減」
はいずれもここ10年くらいで極端な形で表に出てきたように思います。たとえば補助金の削減について輸送人員が一定以下になると支給対象にならないことで、支給対象から外れれば、もうその路線の維持は難しくなります。

このバスに関する補助金は回数券を水増し購入し住民や利用者に還付しておらず実際の利用が無いにもかかわらず輸送人員をクリアしたと見せかけ、補助金を不正に受給していた問題がありました(ほぼ報道されていません)
会計検査院・国土交通省「地域間幹線系統確保事業」
http://www.jbaudit.go.jp/report/new/all/pdf/fy28_05_13_18.pdf
ここでは「1日当たり輸送量が15人以上150人以下」である補助対象に対して、算定が「輸送収入」であることから「市町村が運賃補塡の目的で回数券等を購入しており、運送収入に市町村からの運賃補塡額が計上されていた。そこで、これらの市町村の補塡が輸送実態を伴っているか確認したところ、次のとおり、回数券等を利用した住民等のバス利用がないなど、市町村の補塡が輸送実態を伴っていない事態が見受けられた」と結論づけている。
なお、調査対象になっている北海道のバス事業者は網走バス、宗谷バス、網走観光交通の3社。このうち網走バスの事例では「補助対象となる15人以上の輸送量を確保するために必要となる運送収入をあらかじめ算定」し「各市町は同額の回数券を購入していた」この回数券は住民配布していないため「運送収入に計上された回数券による輸送実態はなかった」と裁定された。小清水町に至っては回数券を1年で廃棄処分としており、路線バスを維持するという理由があるとはいえ、あまりにも杜撰な対応ではないかと思うところです。

今日平成30年5月31日をもって網走と斜里を結ぶ網走バスの路線が廃止となりますが、この地域間幹線系統確保の補助金不正で、利用者数としてもこの補助を受けられなくなったことでの廃止となります。6月1日からは斜里町が単独補助で斜里バスが1往復運行することになります。しかし、1往復では通勤、通学利用は期待できず、今後の路線の維持はかなり難しくなったと考えられます。

もちろん「最後の砦」としてのバス路線維持は必要なことです。しかし、全く使われないバスにいくら支援しても住民の利便も上がりませんし、税金の無駄になってしまうわけです。

経済の伝書鳩 2018年05月31日
存続に向け周知に力 網走のコミュニティバス「西山通線」
http://denshobato.com/BD/N/page.php?id=108609
網走市内の公共交通“空白地帯”に対応しつつ、中心市街地などの活性化にもつなげる「コミュニティバス西山通線」は、運行開始から5年目を迎えた。1日の平均利用者は18.6人で、目標値に届いていない。地域住民を対象にしたアンケート調査では路線の存続を求める声も目立つといい、運行する同市地域公共交通活性化協議会は改めて周知に力を入れている。


網走市内の市内バスについても、なかなか厳しい現状があります。コミュニティバスとして市内の公共交通空白地域に走らせている路線ですが、1日20人という目標も難しいわけです。現在が18人なので、正直地域の方があと数人利用すればというところなのですが、これは地域の「意識」の問題でもあります。日中5往復と買い物、通院需要用ではありますが、商店街がバス割引券を発行するなどの行っていても伸びないのが現状です。

名寄新聞 2018年05月31日
風連市街地から日進・東生で 名寄市地域公共交通活性化協・10月から本格運行開始 風連御料線バス一部デマンド化
http://www.nayoro-np.com/news/2018-05-31.html
路線バスの風連御料線(名寄駅前~御料7線)の一部デマンド化を承認。10月1日から風連町市街地から日進・東生地区までデマンド型交通として本格運行を開始することを決めた。
協議に入り、風連御料線の一部デマンド化を承認。9日に開催した専門部会では、昨年12月1日から今年1月31日まで実施した実証運行のアンケートで、乗り換えの不便さや予約の煩わしさを指摘する意見もあったが、自宅前まで送り迎えしてもらえることなどで利便性が向上し、おおむね理解が得られたことから、交通手段の確保には予約型デマンドが有効と判断したことを報告した。


北海道新聞 2018年06月01日
沼田町が乗り合いタクシー1日運行開始 高齢者ら対象 町民100円で
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/195035
> 【沼田】町は1日から、地域の新たな交通手段として、高齢者などが対象の乗り合いタクシーを運行する。ほろしん温泉を除く町内全域と隣接する北竜町碧水市街、深川市多度志市街をエリアに、自宅と38カ所の指定停留所との間や各停留所間で利用できる。
■予約制バスは廃止 町はこれまで、町営バスのほか、乗り合いタクシーと同じ範囲を走る予約制バスを運行。加えて昨年度は市街地循環バスも実証運行した。その結果、町営バス以外は1便当たりの利用者は多くてもタクシーで運べる3人程度にとどまった。


「バス」が必要のないほど利用が少なくなった最後の砦がデマンド輸送になります。乗合タクシーや予約型デマンドであれば、ある一定の好きな時間で乗れるタクシーに近く、なおかつバス並の運賃という形です。
もちろん町の持ち出しは多いものの、路線バスと違い「客がいなければ運行しなくて良い」点だけでも運行経費は大きく削減されます。
ただ、多くのデマンド輸送は地元タクシー会社等への委託となります。予約優先になるのでその間タクシーが使いにくい状態になる可能性がありますね。
なお、沼田町の碧水-石狩沼田間は1970年代まで鉄道の走っていたところです。現在鉄道が走っている地域であっても、現状はこのようなタクシー輸送可能なレベルの路線は多々あります。鉄道の運行経費負担は地元で一切行わないので「鉄道を残すべき」なのであって、利用があるかないかなんて全く自治体にとっては関係ない話なのです。これが、鉄道撤退、路線バス撤退、そして町営バス運行になってコスト意識を再確認し、今回デマンド輸送に切り替わるわけです。碧水-沼田はここ数年で町営バス-デマンドバス-乗合タクシーと変更されました、この数年で通学輸送が無くなるなど急激に沿線人口が減ったのもありますが、それだけコスト面が無視できないのもあるわけです。

経済の伝書鳩 2018年05月19日
27日・バスの運転無料体験会網走自動車学校で
http://denshobato.com/BD/N/page.php?id=108370
>バスの無料運転体験会(網走バス主催)が27日(日)午前9時半~、網走自動車学校で開かれる。参加対象はマニュアル車を運転できる60歳未満の市民。当日は自動車運転免許証を忘れずに持参すること。


バス乗務員不足は、結局のところバス運転免許(大型二種)の取得費用と難しさ、そして取得後の乗務員として働いた時の給与の低さ。これが大きな問題です。先日もとある会社の求人情報を見ていましたが時給1000円の準社員での募集。拘束時間は長いが休憩時間は無給になるので(例えば朝のラッシュ時4時間運転、昼間4時間休憩、夕方から夜の4時間運転として拘束12時間でも給与としては8時間分になります。こういう面も含めて「なり手」が少ないのが現状です。本来は道路輸送のプロなのに、あまりに低い給与ではどうしても集まりにくい。
また、免許はどの会社でも有効ですから「引き抜き」もあるわけです。路線維持にきゅうきゅうする北海道の事業者と、関東の事業者では当然年収も大きく変わります。

ただ、給料を上げればバス運転手になるのか?といえばこれもまた別な話です。勤務評価制度や乗務員の働きやすさの面も必要なことです。一般的な路線バスは運賃収受や高齢者、障害者などの乗車サポートなんかも含めて運転手1人で対応しなければなりません。これを簡便にするためにIT利用を利用できるか?は考えていかなければなりません。いずれにせよ一度採用した職員が給料面ややりがいのなさで辞めていく状況を改善しなければならないわけです。

北海道新聞 2018年05月30日
洞爺湖とニセコ結ぶアクセスバス運行へ 胆振7市町が実証事業
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/194268
> 【室蘭】白老町以西の胆振管内7市町でつくる北海道登別洞爺広域観光圏協議会(事務局・登別市)は29日、室蘭市内で総会を開き、胆振管内の洞爺湖エリアと後志管内のニセコ倶知安エリアを結ぶアクセスバスの実証運行を本年度初めて実施することを決めた。


最後に考えたいのが「乗客の減少」をどう抑えていくか?という面です。JR北海道の問題でも沿線人口の減少が利用者数の減少に繋がっているのが現状です。北海道の地方ではここ30年で人口が半分になった地域も少なくありません。その結果子供の数は更に減少。今まで列車が何両も連結して走っていた路線も今やバス1台でも空きがあるという地域もあるのです。
そのなかで、バス利用者の減少を最小限にするためにはどうするべきか?という話があるわけです。

簡単に「本数が少ないから」「バスの運賃が高いから」という声を聞く。では、バスの本数を今の倍にし、運賃を半額にしたらあなた方は乗るのか?というと乗らないでしょ?というのもあるわけです。今や高齢者の多くは運転免許を持ちます。今の高齢者が若かった1970年代。高度成長期で車を持つことがステイタスだった時代を生きてきた方々。その当時の高齢者は免許を持つ人が少ない。また、子供の数も多い。公共交通はそのような1970年代の利用が多い時代を生きてきてるわけです。しかし、今、高齢者はそのまま免許を持ち続け車に乗り続ける。子供は少ない。これでは公共交通に乗るのは少ない高校生だけとなっているのが現状なのです。

結局は1人1人が自覚を持って「公共交通に乗る」ことしかないわけですが、個人に押しつけているだけでは利用が上がるわけも無いのです。ここで必要なのは「公共交通を使うインセンティブ」と「自動車を使うペナルティ」という考えです。札幌都心で買い物する時、クルマで行って駐車場待ちしても駐車場代はただになる。バスや地下鉄で行けば人数分の運賃がかかる。この運賃額はちょっとした食事ができるほどになる。これでは公共交通は使われません。

また、好評が伝えられる高速バスですが、これとて安泰ではありません。現在高速道路網が伸びる北海道内ですが、「拠点間」で考えると直行できるクルマの方が早く着きます。これは高速バスも拠点間だけでは乗客を集められず途中の停留所での取り扱い、また、乗務員の休憩時間確保で途中のパーキングエリアなどでの休憩を余儀なくされるからです。
今まではある程度一般道を走ることで時間競争が少なかった高速バスとクルマが、今では大きな差になっている例があるのです。

一例を挙げましょう。札幌から浦河への高速バス「ペガサス号」3時間40分ほどでこの区間を結びます。このバスは日高自動車道が延伸開業した後も鵡川ICから延々一般道を経由します。これは途中の富川や新冠、静内といった各地域を経由して客を集めるからで、札幌と浦河だけをただ結ぶだけでは乗客を確保できないからです。
それでは単純にこの区間を車で走りましょう。道央自動車道、日高自動車道を目一杯使って172km2時間46分(北の道ナビでの表示)1時間も高速化できました。
移動時間を優先、バスの運行本数、運行時間にとらわれないことも考えると勝負になりません。料金面でもバスの運賃は2930円、しかし、高速道路の料金は札幌南-沼ノ端西で1360円です。ETCの割引で休日なら960円となります。これは沼ノ端西からの日高道は通行料金が無料だからです。
今後日高道が延伸されるにつれバスとの時間差が開き続け、いつかバスの運行が困難になっていくと思われます。

これを解決して行くには、本当に必要な人以外はクルマを使わず公共交通を使った方が安く快適という形作りが必要です。そのためには先の「公共交通を使うインセンティブ」と「自動車を使うペナルティ」という考えは必ず必要になります。
現状を維持していくならば多くのバス路線は残りませんし、JRも含めた公共交通が維持できません。

北海道の交通関係 JR北海道 路線バス 免許返納

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