北海道の交通関係

JR北海道への国の支援メニューを北海道はどう考えていたのか?

2018/06/19

昨日に引き続きJR北海道の支援関係です。昨日は4月に発表になった財務省の財政制度等審議会でJR北海道に突きつけた「赤字解消メニュー」には北海道内の交通網維持なんて観点はこれっぽっちもなかったという話を書きました。
何度か書いていますが、JR北海道が各路線を廃止したがっていたとするのは危険で、基本的にどの路線も廃止の「提案」だったり維持の「提案」なわけです。考え方を変えればJR以外の方法で維持することも可能だし、それに関して道南いさりび鉄道にある程度の補填をしているのも含めて、必ずしもやめたいとしているわけではない。とはいえ無い袖は振れない以上どうもならん路線は廃止を提案しているという認識です。

国鉄改革の失敗とするのは簡単ですが、以前書いたとおり、赤字転落した1996年頃、そして極端に基金運用益の減った2008年頃も含め、何度も「ご提案」のチャンスがあったのを潰してきたJR北海道の怠慢の結果でもあるし、逆に沿線の自治体が本当に「もっと早く言ってくれれば」と思ってるのだとすれば、今「当社では維持~」の発表のあってから2年近くたって何も動いていないのはやはり批判されて仕方ないところでもあります。

17日に行われたJR北海道の記者会見での内容を各社が報道しているわけですが、そもそも島田社長がどのような内容を記者に語ったのか、一般の人は聴くことができません。あくまで報道機関のバイアスのかかった形で聞かざるを得ない。その内容をそのまま公表して欲しいとはJR北海道には何度か「お問い合わせ」という形で投書していますが、その予定は無いようです。

北海道新聞 2018年06月19日
JR社長8区間「廃線検討」発言 国の長期支援、想定崩れ 収支改善、調整難航も
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/200679
鉄路維持へ国、道、沿線自治体に支援を求める8区間について、収支が改善しなければ将来の廃線も含めて検討する考えを示したことが波紋を広げている。2020年度までの支援しか認めない財務省の方針が急浮上し、長期の支援を求めていたJRの想定が崩れたためとみられるが、突然の表明だけに今後の地元との調整は難航必至だ。
島田社長は国、道などとの6者協議後に開いた会見で、輸送密度(1キロ当たりの1日の輸送人数)200人以上2千人未満の8区間について「一定期間での検証をしていく。5年が一つのめど」と発言。バス転換の見通しを問われ、「(収支改善などの)効果が十分に現れない場合、選択肢はいろいろなものがある」とし、可能性を認めた。
 JRは北海道新幹線札幌開業の30年度までの12年間の長期の支援を国に求め、JRが31年度から経営自立する方向で国土交通省や道とも一致。国が今夏にもまとめる財政支援のあり方について、国交省と財務省とが調整を始めていた。
 だが複数の関係者によると、財務省は財政支援について厳しい姿勢を崩さず、8区間のバス転換を求める強硬論も出たという。財務省は4月、財政制度等審議会の分科会で17年度の北海道新幹線の営業損益が103億円の赤字になる見通しを公表し、JRの赤字体質を厳しく批判。もともとJRの経営にも強い不信感を持っていた。
 交渉が膠着(こうちゃく)状態に陥る中、落としどころとして浮上しているのが20年度までの国の財政支援。国がJRを支援する根拠となる国鉄清算事業団債務等処理法の期限が20年度末であることを受けた案で、17日の6者協議で国交省の藤井直樹鉄道局長も「20年度までの取り組みの中でいかに効果を上げるか、目に見えるものがなければ、法改正もおぼつかない。早期に効果を出すことが重要だ」と呼び掛けた。
 財政支援については、なお省庁間の協議が続いている。仮に21年度以降、支援が続く結果になったとしても、各区間の大幅な収益改善は必須。決着の見通しは不透明だが、JR幹部は「これから試練の2年間になる」と表情を引き締める。


長く引用したが、4月の財政制度等審議会の公表資料については当時も私はいろいろ書いたのだが(現在検索できない)これが2ヶ月ほど経って亡霊のように復活したのは、国土交通省にしてみても、彼らの意識を変えるだけの説明もできなかったし、金を出したくない財務省側にしてみても地方の路線維持など興味が無いという意識が変わらなかったというわけです。

昨日も書いたとおり、JR北海道の経営安定化、黒字化などはっきり言えば「どうでもいいこと」であって、鉄道を残せないのなら各地域に安定した交通機関を確保しなければなりませんし、物流面でも鉄道に変わる輸送機関を構築しなければならないのです。
しかしながら、現実的に他社でまとめ上げることも、地域が立ち上がることも無い。せめて北海道選出の代議士はもう少し知恵を絞らなければならないでしょう。このままただ無くすことは避けなければならないことです。単純なバスでは無く、地域がより利便が高い交通網を構築することとセットでなければならないのです。

北海道新聞 2018年06月19日
「真意は」自治体困惑 JR社長の8区間廃線検討発言
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/200678
 道は沿線自治体の地域協議に参画し、議論を主導してきた。9割の沿線自治体が負担に理解を示しているが、各線区の協議が相次いで中断することを懸念する。道幹部は「廃線になるかもしれないのに、負担に応じる自治体があるとは思えない」と懸念を示す。


いや、それは違うだろう?廃線にするなら負担など求めないし、廃線になりたくないから負担させるわけだ。その負担額がそれなりの場所をわざわざ廃線にし難い。とはいえ自治体にせよ「国が国が」と期待していた国がまともに金出す気が無いというならJRとてこう言わざるを得ないだろう。国が2020年まで、単年度しか負担しないとなれば路線が維持できないのはわかっているのだから、長期で出すと勝手に思っていたJR側も国交省側も自治体側ももう少し考えないとだ。
毎度言っているが本当に地域が残したいという気持ち、そして自らが利用する気があるのかが問われているのだよ。そもそも税金を出すのに結果を見ないというのはおかしい。路線バスの各種補助金だってちゃんと利用数の下限決まってるだろう?

日本経済新聞 2018年06月19日
JR北、国支援に5線区盛らず 6者協議で表明
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31909730Y8A610C1L41000/


NHK 2018年06月18日
維持したい区間も5年毎存廃判断
https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20180618/0000848.html
JRは、この8区間について、これまでの方針を改め、今後は自治体とともに収支を厳しくチェックし、5年ごとに残すか廃止するかを検証していく意向です。
利用を促したり、コスト削減を行ったりしても、収支の改善が見込めなければ、鉄道をなくしてバスに転換することもあり得るとしています。
一方、JRをめぐっては財政支援が協議されていますが、公的な支援だけに額が膨れあがることに慎重な意見もあります。
今回、JRが「維持したい」としてきた8区間についても残すか廃止するかを検証すると踏み込んだのは、財政支援をめぐる調整を進展させたいという狙いもあります。


これまでの動きが遅かったことも、この状態になった要因とはいえそうで、特に北海道の動きは結局各地域でJRと自治体が協議するところにオブザーバ的に行くだけというのを繰り返していた以上中央省庁には「北海道は多くの路線を要らないと思っている」というメッセージが伝わった感もあるんですよね。
特に「土壇場になったら維持される話になるんじゃないの?」と余裕な態度(にみえる)石北線や宗谷北線の沿線あたりは個人的にはもっと早く何らかの表明はあってもよかったのではないかともおもいます。

思い出して欲しいのが1980年代の特定地方交通線廃止の議論。名寄本線や池北線標津線等の長大線など、それなりにまだ利用客がいたこともあって「廃線にならないだろう、いざとなったら国と道が助けてくれるだろう」という意識があったのではないかという印象があります。名寄線あたりの反対運動は乗車運動だけでもかなり頑張った印象で、冬期の輸送事情に課題があると廃止論議が一時保留されるという「実」を勝ち取ったかに見えました。しかし、これで安心しきった沿線は結局元通りの輸送人員に戻り国は廃止容認に戻ったわけです。もちろん冬期のバス輸送に問題が無かったという話でもあったわけですが。

さて、その後も反対運動が続く名寄線はJR北海道が引き継ぐ形にはなりました。しかし、あくまで特定地方交通線の廃止路線にノミネートされている以上廃止は時間の問題。ここで国は第三セクター鉄道転換案を出します。このときは輸送密度の比較的マシな名寄方と遠軽方を三セクに、中間をバス転換という案だったわけですが、沿線はここで驚くべき態度に出ます。「全線三セクにするべきだ」そして、自分達のことなのにその判断を北海道に委ねました。当時の知事は社会党系の横路氏。北海道は池北線の三セクに関しては進めましたが、名寄線については拒否、そして沿線は「全線でないならバスで良い」という結論になります。

池北線-ふるさと銀河線の経緯を見てもわかるとおり第三セクターでの鉄道維持は非常に難しいことははっきりしているのですが、結局地元がどうしたいのか?という点が重要になるのではないかと思うわけです。池北線は陸別町が最後まで廃止を反対し頑張ったが、結局費用負担の面では難しかった。

この経緯から考えた時に石北線はどうしても残したいのだ、宗谷線をどうしても残したいのだという観点から「国がなんとかしてくれる」「国が金出せばJR北海道は残してくれるだろう」という意識では路線が残るとはとても思えないわけです。

北海道にしてみても「国がJR北海道を助けるのは既定路線」で、当然「2030年の北海道新幹線札幌開業まで赤字を全て面倒見て」ある程度「路線維持され」今の「廃止提案路線も数年猶予があって」というイメージがあったと思います。しかし蓋を開ければ2020年まで、しかも未だメニューがまともに出てこない。そしてもう廃止に非公式的に「同意」している4路線だけでなく、8路線も廃線の可能性が出てくるという事態は全く想定していなかったのではないでしょうか。

先の名寄線沿線のような一度は「廃止論議が保留になった」と同じような状態が急展開したわけです。北海道にしてみればワーキングチームで維持すると明言してしまっていますから、国が金を出さない前提が無かったわけですよね。

北海道新聞 2018年06月19日
JR路線問題焦点 定例道議会19日開会
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/200687
JR問題では、JR北海道は単独維持困難路線のうち、輸送密度200人以上2千人未満の8区間について国に支援を要望し、収支が改善しなければ将来の廃線も含めて検討する考えを示している。沿線自治体から反発の声が上がっており、道の対応に注目が集まっている。


この道議会の前にJR北海道は発表せざるをえなかったかもしれません。さて、道議会はどのような内容で審議し結論を出すのでしょうか?

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