北海道の交通関係

JR北海道社長の「維持困難8線区廃線可能性」発言の顛末

2018/06/29

ちょっとこの発言は長引き、昨日の道議会にJR北海道社長が参考人として招致される事態となったわけですが、この発言はどういう意図があり、どういう結末を迎えるのか、ちょっと考えてみたいと思います。

まず、例によって今日は北海道新聞の社説から。

北海道新聞 2018年06月29日
社説)JR社長招致 沿線の不信拭う努力を
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/203995
 JR北海道の路線見直し問題で、島田修社長がきのう、道議会北海道地方路線問題調査特別委員会に参考人として出席した。
 島田社長が先の記者会見で、路線維持が前提となっている8区間について、収支が改善しなければ廃線となる可能性に言及したことが最大の焦点となった。
 島田社長は「真意を伝えることができず、深くおわび申し上げる」と繰り返し陳謝した上で、発言を訂正したことを強調した。
 だが、沿線自治体に生じた「JRの本音が漏れた」との疑念を払拭(ふっしょく)できたとは言い難い。
 今後、JRは地域に対し、一層丁寧な説明を尽くして、信頼回復に努めるべきだ。
 島田社長は「(8区間は)地域と一体となり、全力で鉄道維持を目指す方針に何ら変わりはない」とも述べたが、喜多龍一委員長は「言葉だけでは信じられない」と不信感をあらわにした。
 8区間は、道の交通政策総合指針で「維持に努める」とされた路線だ。沿線自治体は存続を前提にJRと協議を続けてきただけに、発言に対する衝撃は大きい。
 路線存続に向け、JRは沿線自治体にも財政支援や無人駅の管理といった負担を求めている。
 信頼関係がなければ、負担に踏み込む議論などできないことを、JRは忘れてはならない。
 JRが廃線とバス転換を求めている5区間の協議の進め方については、島田社長は「期限を設けていない」と説明した。
 5区間の中には存続の可能性を探っている路線もある。社長の言葉通り、地元が納得するまで協議を重ねる必要がある。
 JRが単独で維持が困難とする路線は、道内全域にまたがる。
 道内各地の選挙区から選ばれた道議が、地域の実情を吸い上げ、まさに正面から論議すべきテーマと言えよう。
 昨年末、路線問題のために特別委員会を設置したにもかかわらず、これまで期待に応えるような審議をしてきただろうか。
 今回の島田社長の招致についても、聞きっ放し、言いっ放しで終わるようでは困る。
 議論を踏まえて、道内の公共交通体系の将来像を描き、必要な国や道の施策を提言していく姿勢こそが求められる。
 特別委員会だけでなく、本会議の代表質問や予算委員会などを通じて知事部局とも意見を交わし、道議会としての意思を積極的に示してもらいたい。


北海道新聞が意外とまともな論調だったなというのは、やはり「道内の公共交通体系の将来像」という部分で鉄道さえ維持できればいいという話しでは無いことがはっきりしているからでもあります。
どこか北海道議会議員には未だ他人事で、JR社長を吊し上げ「維持」を言わせればそれでいいという観点が見え隠れするのですが、そんなもので将来の北海道内の交通網が安泰であるというわけがないのです。
社説も言うとおり、今まで北海道知事にせよ北海道議会にせよJR北海道問題だけではなく、地域の交通問題に非常に後ろ向きな姿勢であるように私には見えています。国交省が「JRと地域の話し合い」について言及しているのですから、当然JRと当該路線だけで無く、北海道としてどう向き合うのかが問われているわけです。

そんななか路線維持の難しい5線区は夕張のように独自に決定、札沼線のように熟慮を重ねて結果を出した自治体に対してもどうにも「その後」の支援が見えないわけです。JR北海道からの支援内容は目に見えるのに、それを決断した地域に北海道としてどのような支援をするのかが見えないし、先行する江差や増毛についても目に見えたものがあるのか伝わらない。

つまり、議員氏が「JRは札幌偏重で地方切り捨てだ」といっているそのものを北海道自体が行っていないか?という印象をもつわけです。

●JR北海道社長の「8線区」言及

北海道新聞 2018年06月18日
深川―留萌などJR5区間に国の支援なし 6者協議 社長、8区間存廃にも言及
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/200354
JR北海道の路線見直し問題を議論する国、道、JRなどの第2回6者協議が17日、道庁で開かれた。JR単独で維持が難しい10路線13区間のうち、JRが廃線とバス転換を求めている輸送密度(1キロ当たりの1日の輸送人数)200人未満の5区間は、今夏にもまとまる国の財政支援の対象外とすることが固まった。JRは、輸送密度200人以上2千人未満の8区間では国に支援を要望し、収支が改善しなければ、将来の廃線も含めて検討する考えを示した。


最初の記事はさらっとしていました。この6者協議で5区間は廃止前提での財政支援対象外、8区間は対象としながらも収支の改善状況で将来の廃線もあり得るというかなり踏み込んだ発言をしたように思います。
この発言の意図に財務省の「維持困難線区を全部廃止して北海道新幹線の赤字無かったらJR北海道は黒字」というトンデモ発言の意図を汲まざるを得ないと言うのもあったのでしょうが、言っている内容は至極当然で、どんな事業も資金を投入した以上それが成功か失敗かは評価されるべきで、金が入るというのはそれだけシビアな要求を突きつけられるという意味でもあります。

北海道新聞 2018年06月19日
「真意は」自治体困惑 JR社長の8区間廃線検討発言
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/200678


北海道新聞 2018年06月19日
国の長期支援、想定崩れ JR社長、8区間「廃線検討」発言
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/200679
8区間について、収支が改善しなければ将来の廃線も含めて検討する考えを示したことが波紋を広げている。2020年度までの支援しか認めない財務省の方針が急浮上し、長期の支援を求めていたJRの想定が崩れたためとみられるが、突然の表明だけに今後の地元との調整は難航必至だ。
 島田社長は国、道などとの6者協議後に開いた会見で、輸送密度(1キロ当たりの1日の輸送人数)200人以上2千人未満の8区間について「一定期間での検証をしていく。5年が一つのめど」と発言。バス転換の見通しを問われ、「(収支改善などの)効果が十分に現れない場合、選択肢はいろいろなものがある」とし、可能性を認めた。
 だが複数の関係者によると、財務省は財政支援について厳しい姿勢を崩さず、8区間のバス転換を求める強硬論も出たという。財務省は4月、財政制度等審議会の分科会で17年度の北海道新幹線の営業損益が103億円の赤字になる見通しを公表し、JRの赤字体質を厳しく批判。もともとJRの経営にも強い不信感を持っていた。



このJR社長発言は当然国交省も理解していたと思われるわけですが、反響の大きさ(というか伝わり方がおかしいようにも思うが)から国交省では8線区維持重視という追加の発言をすることになります。

北海道新聞 2018年06月19日
国交相「路線維持重視」 JR8区間廃線検討 地域と協力求める
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/200807
石井啓一国土交通相は19日の閣議後記者会見で、JR北海道の島田修社長が輸送密度(1キロあたりの1日の輸送人数)200人以上2千人未満の8区間について、収支が改善しなければ将来の廃線も含めて検討する考えを示したことに関し「国としては、路線維持に努めるとした道の指針を尊重したい」と述べ、路線維持を重視する意向を明らかにした。
石井氏は「まずは線区ごとに地域の関係者とJRが一体となり、収支改善努力を行うことが先決」と強調。島田社長が示した考えを巡っては沿線自治体から戸惑いの声が上がっており、石井氏の発言には早期に火消しを図ることで路線維持に向けた地域協議を進める狙いがある。


しかしここでも国交省は「線区ごとに地域の関係者とJRが一体となり、収支改善努力」という文言を付けています。つまり、収支改善努力の結果が維持であり、その結果が見えなければ維持などとうていできないだろうとも言えるわけです。維持しましたが収支は悪化しましたでは意味が無いし、金を出す理由が無いわけです。
個人的にはこの発言を単純な維持の発言とは思えず、30年前に当時の運輸大臣が「長大4線は維持」と言ったのと同じような臭いを感じます。これで安心してはならないわけです。

北海道新聞 2018年06月20日
JR北海道社長が知事に陳謝 8線区廃線可能性言及で
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/201218
収支が改善しなければ将来の廃線も含めて検討する考えを示した自身の発言について、「私の真意が伝わらず、誤解を与える報道につながり、知事や関係者にご心配とご迷惑をおかけしたことを深くおわび申し上げます」と陳謝した。


北海道新聞 2018年06月21日
「8区間廃線検討」発言撤回 JR社長、知事に陳謝
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/201390
知事は会談で「(島田社長の陳謝に)ほっとした。真摯(しんし)な議論を続けている地域の思いを、これまで以上に踏まえてほしい」と述べ、JRとして沿線自治体に対し、社長発言の真意を直接説明するよう求めた。


で、結局知事に謝ったって話になるんだけど、これを聞いた知事が「ほっとした」ってのもまたズレてるっていうか、違うんじゃないかなぁと思うわけです。

北海道新聞 2018年06月21日
JRと道、沈静化最優先 「8区間廃線検討」撤回 予想超える反発「手打ち」演出 国の支援不透明、論議再燃も
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/201457
鉄路維持が前提となっている8区間の廃線の可能性にJR北海道の島田修社長が言及した問題は、20日の高橋はるみ知事との会談を経て、島田社長が発言を撤回する形で収束を図った。赤字路線の将来的な維持に不安を抱えているJRだが、地域との信頼関係が揺らげば当面の収支改善への協力も得られない恐れがあるためだ。ただ、発言に反発した沿線自治体との協議にしこりが残りかねない上、財政支援を巡る国の姿勢も依然として厳しく、先行きは見通せない。
■危機感共有狙う
 発端は17日の国や道などによる6者協議だった。国土交通省の藤井直樹鉄道局長が「2020年度までの取り組みの中でいかに効果を上げるか。早期に効果を出すことが重要だ」と発言。国交省は国が今夏にもまとめるJRへの財政支援を巡って財務省と交渉を続けており、財務省が20年度までの支援しか認めない方針であることが地元関係者の間で急速に広まっていた。
 JRは藤井局長の発言に財務省の強い意向を読み取り、6者協議後の会見で島田社長が8区間の将来的な廃線の可能性にまで踏み込んだ。20年度までに徹底した収支改善や路線の利用促進が図られなければ、JRが求める30年度までの長期支援を望めないことから、沿線自治体や道にも危機感を共有してもらう狙いがあった。
 ただ、反発は予想以上だった。道には沿線自治体から「道は島田社長の発言を認めるのか」と苦情や問い合わせが相次ぎ、道幹部は「JRのためになると考えて地域協議にも参画してきたのに、JRにはしごをはずされた」と憤った。
 島田社長の発言から3日後には知事が島田社長を呼び、発言の真意をただす事態に発展。陳謝を受け道幹部は「これで手打ちだ」と、問題の収束を強調した。
 JRは当初、陳謝はするものの、社長発言の撤回はしない方針で知事との会談に臨んだ。ところが、会談やその後の報道陣とのやりとりなどから反発の強さを目の当たりにし、陳謝だけでは持たないと判断し、方針を転換したとみられる。それでも、JR関係者は「8区間の廃線に言及することで、収支改善や路線見直しを徹底する姿勢を示す狙いもあった。その目的は果たせた」と話す。


この記事もまぁ、話半分程度に認識するけど、とかく財務省の支援が路線維持を潤沢にするものでは無い以上、出来る範囲での維持になるのもある程度仕方ないわけで、それ以前に北海道の情報収集能力(というかこの問題に取り組む姿勢そのもの)が弱い印相を受ける。北海道庁と国のやりとりが全くできていない事もにじませてるわけですね。

北海道新聞 2018年06月29日
JR社長「廃線言及」陳謝 道議会特別委で批判相次ぐ
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/204003
道議会北海道地方路線問題調査特別委員会は28日、JR北海道の島田修社長ら経営陣4人を参考人招致した。島田社長は輸送密度(1キロ当たりの1日の輸送人数)200人以上2千人未満の道内路線8区間の廃線の可能性に言及し、後に撤回したことについて「大変なご心配とご迷惑をおかけしたことを深くおわび申し上げます」と陳謝。道議からは「信頼回復は容易でない」などと批判の声が相次いだ。
 島田社長と西野史尚副社長、小山俊幸副社長、綿貫泰之常務の計4人が出席。全5会派の6人が質問し、質疑は約4時間に及んだ。
 島田社長は、3月にまとめられた道の北海道交通政策総合指針を尊重し、JRが「単独では維持困難」とする路線の沿線自治体との協議に期限を設けない考えを示した。8区間については「鉄道の維持に向けて全力を挙げる方針は従来と変わらない。皆さまとともに頑張りたいと申し上げるべきだった」と述べた。
 また、輸送密度200人未満の5区間に関し、国に財政支援を求める対象としない考えを示した発言に関しては「(地域での協議で)維持という最終的な結論が出れば、維持に向け全力を注ぐと思う」と述べるにとどめた。
 委員からは「社長が暴走したのなら、資質に疑問を抱かざるを得ない」(自民党・道民会議の三好雅氏)などの批判が上がった。
 一方、JR側は17日の国や道などとの6者協議で示した「経営再生の見通し案」についても説明。収支改善策で新千歳空港へのアクセス強化などを打ち出したことについて「郡部にまったく目が向いていない。根本は地方路線切り捨てだ」(民主・道民連合の沖田清志氏)などの指摘があった。これに対し、西野副社長は「札幌圏以外の全道に目を配る覚悟をしている」と述べた。


で、本日の記事。しっかし「「郡部にまったく目が向いていない。根本は地方路線切り捨てだ」(民主・道民連合の沖田清志氏)などの指摘」って沖田氏は苫小牧から出てる議員さんでこの認識ですからねぇ。

4時間かけた道議会で、どのような結果になったのかはあまり報道からは伝わりません。

hbcnews 2018年06月28日
8区間“廃線可能性”発言をJR北海道社長が撤回 道議会で路線見直し問題を集中審議
http://news.hbc.co.jp/6a606646374e2558bf2e5a0a57f5a825.html?time=1530229897946


UHB 2018年06月28日
「廃線検討」発言の"余波"… 北海道議会でJR島田社長が"弁明"
https://uhb.jp/news/?id=5022
三宅真人記者:「議員による追及にはっきりと廃線は検討しないと言い切らない島田社長。利用が少なければ、廃線はやむを得ないという思いが透けて見えます」


意味のわからない記者発言。

NHK 2018年06月28日
JR社長“維持方針変わりなし”
https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20180628/0001088.html
また委員会では、委員が経営再建の見通しについて具体的なデータが示されていないと指摘したのに対し、JR側は「支援が検討されている中で金額を出すのは差し控えるべきだ」として明らかにしませんでした。


毎度、この議員が要求する「具体的なデータ」とは何を意味してるのかが明確じゃ無いんだよな。幾ら金が国から当たるの?って話なら、単純な赤字補助での補助金拠出は無いって国交省は言ってるんだからJR北海道とて応えようが無い。

JR北海道の決算上、北海道新幹線があろうがなかろうが、基本的に経営安定基金運用益で路線赤字を埋められない。埋めるためにやってきた車両更新、設備投資の延期はもうできない。線路、車両整備の手抜きももう認められない。そして大事なのは国はもう単純な「鉄道維持の支援」をする気が無いという話です。

そうなったときに、8区間に限らず、現在維持できるとした路線ですら今後の利用如何によってはどうなるか誰もわからないわけで、では、どうするのか。鉄道をどうしても維持するなら使わなければならないし、運賃値上げも受け入れる必要があるし、程度の路線廃止は致し方ないわけで、鉄道以外も含めて「交通網を維持する」なら、そのような統合的な観点で、空港設備、道路設備も含めた、さらには物流面も含めた運行乗務員の確保なんかも観点にした「維持」の必要性があるわけです。

特に鉄道の維持だけでなく、今後バスも含めた交通関連人材の確保とその研修が難しいという面があります。
道と国交省でJR北海道の研修センター付近にそれも含めた「総合交通研修センター」を設置し、トラック、バス乗務員の研修体制の確立、運行管理者育成なども含めた人材育成と養成期間中の道職員地位での採用なんかも考えなければならないでしょう。既にバス会社単独で人材確保、研修をやれるような規模のバス会社は少なく、鉄道職員も同じです。鉄道だけが残れば良いということはありません。

知事も道職員も、本当にJRが8線区維持するだけで終わるなんてことは絶対に無いので、その先をどんどん考えていかなければなりません。しかし、議論に見られるのは未だ地方切り捨てだのというレベル。本当に地方のことを考えるなら鉄道維持では得られないサービスの部分も大きいわけです。

いずれにせよJR北海道の島田社長。針の筵ではあっても淡々と話す。心臓が強いのかはわからないが、このままでは島田氏の心労が不安であります。

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