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JR北海道への400億円の支援が意味する「JR北海道への監督命令」

2018/07/30

さて、今回国土交通省が発表したJR北海道への支援内容には「監督命令」が出されたという報道を多く見かけます。監督命令と聞けば、なんとなく悪いことした生徒にお目付役がついた的な印象を持つわけですが、実際「監督命令」とはなんなのか記載したメディアは見当たらなかったように思われます。

「監督命令」とはなにか

さて、国土交通省がJR会社に出す監督命令なるものは、何を根拠に、どういう時に出されるのでしょうか?
これはJR会社法(旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律)が根拠になります。現在は上場していないJR旅客会社2社(北海道・四国)とJR貨物だけに適用される法律です。ここでは「監督権限」を持つ者として国土交通大臣があてられています。JR会社法では鉄道事業以外の事業を行う場合や役員人事について国土交通大臣の認可が必要です。そして国土交通大臣は「特に必要があると認めるときは、会社に対し、その業務に関し監督上必要な命令をすることができる。」としています。

JR北海道がはじめて「監督命令」を受けたのは

国土交通省 2014年1月24日
輸送の安全に関する事業改善命令および事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令
http://www.mlit.go.jp/report/press/tetsudo07_hh_000054.html


になります。JR会社法が成立以来国土交通省が監督命令を出したのはこれが最初です。それほどに「監督命令」というのは非常に重きを置いた、これを確実に実行しなければならないという「命令」なわけです。
ですので、この後JR北海道は四半期毎に

JR北海道
「事業改善命令・監督命令による措置を講ずるための計画」実施状況の報告
http://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/safe/08.html


という報告書類を国土交通省に提出しているのです。
この「実施状況の報告」を読むと「やれ」と言われたことに対し細かく報告し、進捗率を出していることがわかります。

今回出された「監督命令」の内容

今回付けで出された監督命令は

国土交通省 2018年7月27日
事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令
http://www.mlit.go.jp/report/press/tetsudo05_hh_000085.html


となります。今回の監督命令と、前回2014年の監督命令は随分中身や文体が異なっていることがわかります。前回、国土交通省は安全確保に必要な設備投資の原資として600億円の無利子貸付および助成金を出しています。しかしながら、このときは「緊急的な安全確保」を意味する内容であり、経営面での独立性に関する内容までの踏み込みはありませんでした。しかし今回の命令内容は


収支を改善して、経営自立を図る必要がある。その上で、関係者による相互の連携及び協力の下で、将来にわたって持続可能な交通体系を構築するとともに、他の輸送機関とも適切に役割を分担して、必要な輸送力の確保に努め、地域において求められる輸送サービスの提供を的確に行っていく必要がある。


という内容を記しています。財務面や経営面での緊急性を考慮した命令であるということになりますね。JR北海道の「経営自立を図る」道筋として強権発動、必ず達成せよというお達しな訳です。

とはいえ、後ろ側の「持続可能な交通体系を構築するとともに、他の輸送機関とも適切に役割を分担して、必要な輸送力の確保」などは「命令」いうイメージとは随分違った印象を受けます。本来地元自治体とJR・バス会社など運行会社が協議して自主的に決める内容な訳ですし、JR北海道の努力だけでは解決できない問題であります。

ここから今回の命令書がJR北海道の一定の自立のためには、北海道の運輸事情を大幅に更新しなければ達成しないし、大幅に変えるつもりでいるという、国の固い意識があることを伺えさせているわけです。目的のためには既存の路線をただ維持するだけでは無理であるから、JR北海道の支援の名の下にJR北海道からの提案という形を作って一部路線の縮小や交渉による減便廃止等も行うという意思を感じるわけです。

命令が達成されなかった時はどうなるのか

今回の監督命令はJR北海道に向けられたものですからJR北海道が行うべき経営努力を以下の8つ定義しています。


札幌市圏内における非鉄道部門も含めた収益の最大化
新千歳空港アクセスの競争力の一層の強化
インバウンド観光客を取り込む観光列車の充実
北海道新幹線の札幌延伸に向けた対応
JR貨物との連携による貨物列車走行線区における旅客列車の利便性の一層の向上及びコスト削減
経営安定基金の運用方針の不断の見直しを通じた運用益確保
JR北海道グループ全体を挙げてのコスト削減や意識改革
地域の関係者との十分な協議を前提に、事業範囲の見直しや業務運営の一層の効率化


このうち上7つは正直言えば「言われなくてもやってること」なわけです。もちろん加速させる必要がありますし、改善できるところもありますが、今までやってきた道筋そのものなわけです。

最後の1つが、地元協議による事業範囲の見直しと効率化ですので、ここがもっとも「できないだろうな」と国交省が思っているところな訳です。今まで約2年にわたりJR北海道と地元対応を見てきて、建設的な形で協議ができている路線は皆無に等しく、どこの自治体も国がJRがやるべきで地元負担はできない、駅廃止も無人化も減便もまして路線廃止は認めないというスタンスを見てきているわけです。
ここに対して「監督命令」の報告をJR北海道に求めているということは、非常に厳しい選択をJR北海道はしなければならないことを示唆しているのです。しかも報告は四半期毎です。「○○線協議何も進みませんでした」は認めないとしているわけです。
今後JR北海道は命令に対する国土交通省への回答を公開しますから、今までの「非公開」を前提にしてきた協議会では見えなかった内容を一定レベル表に晒されるわけです。どの町がどのような支援活動をしたのか、それが表に出ます。

報道で、このことを考えて記事にした社は無いように思います。

毎日新聞 2018年07月27日
8線区支援 国、年最大50億円検討 自治体も同額負担
https://mainichi.jp/articles/20180727/ddr/041/020/004000c
 経営難のJR北海道が維持困難と表明した13路線・区間(線区)のうち、国が8線区を対象に毎年40億~50億円程度を支援して維持する枠組みを検討していることが26日、明らかになった。北海道と沿線市町村にも同額の負担を求める方向で、年間の支出は計80億~100億円程度になる見込み。
 留萌線など残り5線区について国は、バス転換などによる廃線を容認する。
 複数の関係者によると、JR北単独での維持が困難とした13線区のうち石北線など8線区で、車両維持や鉄道施設の設備投資に支出する。第三セクターや上下分離方式などによる公的資金の受け皿作りも検討する。ただ、道は国に対して自治体負担を軽減するため、地方債など地方財政措置創設を要請しており、道や市町村が国の求めに応じるかは不透明だ。
 一方、石井啓一国土交通相は27日、JR北に対し、JR会社法に基づく監督命令を出し、経営を監視する方針を発表する見通し。2019、20年度の2年間に無利子貸し付けを含む総額400億円程度の支援を表明するとみられる。


このような具体的な数字が国交省側からはリークされています。8線区の維持に国と地元自治体で80から100億円というのは8線区の赤字額(2016年度△111億円)に近く、これを想定しているものと思われます。つまり、直接的な路線赤字の補助は1/2しか国は見ないし、それも地元が拠出することが前提としているわけです。

NHK 2018年07月27日
国がJRに財政支援 監督命令も
https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20180727/0001857.html
菅官房長官は、記者団が2年間の支援を終えたあとの政府の対応について質問したのに対し、「JR北海道と地域の関係者が、2年間、しっかりとした取り組みを行い、目に見える成果を上げたうえで国の支援を継続するための法案を国会に提出することについて検討することになるだろう」と述べました。
白糠町の棚野孝夫町長は、「JR北海道に対して監督命令が出たことを重く受けとめる。国の監督責任が明らかになったのだから、徹底した経営改善の矛先が道内の路線の廃線や自治体の負担にはつながらない」と述べました。
そのうえで、今回、国が宗谷線や釧網線など維持に向けて新たな仕組みが必要だとした8つの路線をめぐって自らの支援と自治体の支援を同水準としていることについて、「法的根拠が明確でないこと、道の特殊性などを考慮し必ずしも地域が国と同水準にはならない」とした上で、「国が中心的役割の支援を果たした後、地域に支援を求めるべき」と述べました。
もうひとつの課題は道、そして沿線自治体による支援の行方です。
今回、国は支援にあたって「地元による支援」を前提としました。
しかし、JRとの協議に慎重な自治体もあり、「オール北海道」で対応できるのか、見通せない状況です。
さらに、財政事情が厳しさを増す中、そもそもJRを支援する余力があるのかや、この部分で国のサポートが受けられるかどうかも不透明です。
待ったなしの改革を迫られるJRと、難しい調整が待ち受ける地元。
国から巨額の支援を受けることで、両者は一層、取り組みへの“本気度”が問われることになります。


国の中枢ではこの命令について、クリアできれば支援を継続する「法改正」の検討をするとしています。それに対しての自治体側の反応は非常に素早く「出せない」を明言しました。

NHK記事では「本気度」という言葉を使いましたが、現実に自治体に年間50億円程度出せる余力があるのかは微妙なところだとは思います。しかしながら、一銭も身を切らず国が維持すべきだという立場も無いだろうとも思います。どう考えても「国が中心的役割の支援」はあり得ないわけで、30年前と同じ輸送密度を維持できてるならまだ言い分はあれど、これだけ自分達が鉄道を使わなくなってしまっているのを数字出だされて、本当に必要なのかを問われてしまうと厳しい話ではあるわけです。

個人的な感想を言えば、国土交通省は少なくとも8線区の一部も廃線せざるを得ないと考えていると思われるのです。

そして「命令違反」はJR北海道の取締役や執行役員らに100万円以下の過料が科せられます。それがどのような形でされるのかはわかりませんが、地元との協議が進まなければJR幹部の懐から抜かれる。これを地元自治体は人質とは思っていないでしょうが、最悪の結果はこうなるわけです。

個人的には第三のJR北海道の経営幹部の「死」すらありうる、非常に厳しく、非常に問題のある「命令」とも言えると思っています。

国とJRが責任を取ればそれでいいのか?

最後に、沿線自治体や北海道庁の言いたいことはわからないでもありません。今まで一切負担を求められず「運行されている」利便だけを享受し、文句だけを言い続けることができたJR問題に、降って湧いたようにJR北海道だけでなく、国からも廃線提案と金銭負担を言われたわけですから、もう逃げ場が無いわけです。
拠出せずに路線を廃止すれば、金をケチって住民の足を壊滅させた首長として名前を残すことになりますし、現実に住民がろくに使っていないのに拠出すれば、税金の無駄遣いといわれることになりましょう。いずれにせよ茨の道です。

しかし、いままで鉄道利用に関して何の興味を持たず、道路開通に湧き、ここ2年ほどで「何もしてこなかった」自治体にできることはもう無いでしょう。もう求めていることは「利用促進」なんて生ぬるいものではないし、利用促進すらろくにできなかった沿線自治体に国は「もうできることは無い」と考えたとも言えそうです。

北海道新聞 2018年07月28日
国がJRに400億円支援発表 「2年で利用促進」難しい 沿線に不安と危機感
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/213088
 国がJR北海道に対し、2019年度からの2年間で約400億円台の財政支援を行うことを正式に発表した27日、JRが「単独では維持困難」としていた道北の路線沿線自治体からは「2年間で利用促進につなげられるだろうか」と不安の声が聞かれた。一方で、支援対象から外れた路線の沿線では「廃線につながる」との危機感が広がった。
 「前向きに受け止めているが、利用拡大は一朝一夕ではできない」。石北線、富良野線、宗谷線が集積する旭川市地域振興部は気を引き締める。富良野線は夏休みの観光客で混み合うが、「利用者が減る冬季の対策を考えたい」と話す。
 国は2年間の経営改善状況を見極め、支援を続けるか否かを判断する方針。石北線沿線の上川町の佐藤芳治町長は「利用促進には時間がかかる。2年で結果を出せるのか。場当たり的な対応だ」と疑問を投げ掛ける。生徒の8割が列車で通学する上川高の小原茂教頭も「さらに国に手厚い対応を求めたい」と注文した。
 宗谷線では6月から、稚内商工会議所や稚内市などが月に1回、特急での特産品の車内販売にも取り組んでいる。同会議所の鈴木雄一事務局長は、国の支援策に対し「一つ前進した。地元でも利用促進に取り組んでおり、今後も安定的に運行してほしい」と話した。
 一方で、輸送密度(1キロ当たりの1日の輸送人員)200人未満の根室線富良野―新得間と留萌線は支援対象から外された。
 2年前の台風被害で一部区間の運休が続く南富良野町の池部彰町長は「事実上の廃線と受け止められかねない」と怒りをにじませた。「食糧基地北海道で道北と道東を結ぶ鉄路を切り捨てて良いのか」と反発する。
 富良野市内に通院する占冠村の無職男性(67)は、運休中の東鹿越(南富良野町)―新得間で運行する代行バスを利用している。「暑い中、バスを待つのは大変。これから先はどうなるのか」と不安を口にする。
 留萌線では、沿線4市町の首長が来週、今回の支援策について協議する予定。留萌市は「その場で4市町の統一した考えがまとまればいい」としている。


この出てくる全ての人たちの言っていることが、既に国は「想定して」いてなおかつ求めに応じる気が無いわけです。

30年前、国鉄再建法で「輸送密度が4,000人/日未満は廃止」という「法律」でこれを判断しました。廃止を行ったのは国そのもので、このときに行われた「国鉄経営改善計画の策定」と今回の命令は非常に近い意味合いを感じます。

国土交通省(旧運輸省)
日本国有鉄道経営再建促進特別措置法に基づく再建対策
http://www.mlit.go.jp/hakusyo/transport/shouwa59/ind000502/001.html


このときと違うのは、JRのままでも地元自治体が拠出することでこの路線を「助けられる」という意味で、国は温情とすら思っているようにも見えるわけです。国鉄再建法では鉄道を残すには第三セクター鉄道を構築しなければならなかったわけですから。

ただ、何度も書いていますが、私たちはJR北海道を助けて欲しいのでは無く、北海道の交通網を一定維持し、移動できるようにして欲しいという想いがあります。札幌圏だけの鉄道を維持されてJR北海道を維持しましたと言われても意味が無い。一定の周回路線くらい維持できなくてなにが「JR北海道」だとも思うわけです。

そういう意味でも、国土交通省は2年の後にもう一段判断して欲しいし、沿線自治体、利用者も含めて声を上げていく必要があります。

今、国やJRを諦めさせてるのは「鉄道?使わないねぇ、クルマ使うからね、鉄道使うのは酔狂な人だよね」なんて言っている道民一人一人の考え方です。鉄道を使うんだ、必要なんだという声が大きくならなければ、誰も本気で維持しようと手助けしようとは思わないのです。

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