北海道の交通関係

JR北海道への400億円の支援で北海道は「国の言いなり」で良いのか?

2018/07/31

さて、今回のJR北海道への国側が考えた支援メニューについていくつか書いてきたわけですが、とはいえ今回国土交通省が発表した支援内容や、JR北海道の進む道とされているさまざまな「命令」も、本当に私たち北海道民、そして北海道を訪れる全ての方にとって利便が高まる未来になるのか?本当に国のやっていることが必ず正しいのか?疑問を持たなければならないとも思うわけです。

今回、国からのメニューについて、国の政策といえる青函トンネル、北海道新幹線の整備、維持管理への拠出は非常に合点のいくことであって、これが実現したことはよかったことと思います。(ここに関してはもっと早くに出てもよかったと思われます)
そして、貨物会社からJR北海道に支払われる線路使用料が実状を反映していない安価である部分に関して、国からの拠出が発生したことも、評価されましょう。これにより、現行貨物列車の走る路線は維持8区間を含めて、ある程度の道筋が立ったとも言えるかもしれません。(ただし、石北線、根室線滝川-富良野に関しては、貨物列車の本数面で「辞める」という選択肢を捨てきれない部分です)

つまり、本州と北海道を結ぶ基幹ルートである青函トンネル・北海道新幹線・貨物輸送を確保した。そして、これも本州と北海道を結ぶもう一つのルートである航空接続の快速エアポートをはじめとする札幌圏輸送の強化について、一定の拠出がされたことは「本州側から見た時にも」大切な輸送ルートを確実に確保するのだという強い意思を感じる拠出ともいえるわけです。

反面、地方の鉄道を守るためには地元の支出を条件にする、最初から5路線の廃線を前提にするという面は、本州側から見て興味の薄い地区に関しては「どうでもいい」という認識をしているのではないか?という印象も改めて思うわけです。

地方はどう「路線維持」をアピールしたのか

今までここ2年近くに渡って話の進展に進まなかった、JRとの協議をしなかった一部の沿線自治体は「何の意見もありませんでした」という印象を与えてしまった面はありましょう。報道でいくら「協議を行わない理由」を述べたところで、国土交通省に伝わるのは「議事録」なわけですから協議を行っていない路線は「意見無し」という認識しかできないとも思えるわけです。
もちろん地元選出議員などを含めて、各方面への要望書などは渡りましょう。しかし、そこには個別案件は記載されませんから、抽象的な「北海道の移動手段を確保せよ」では、意地悪く言えば「じゃあ数字で足切りね」となってしまうわけです。

詳細な利用者数、利用動向を議事録に付けて「人数は少ないけれど鉄道で無くてはいけないこれだけの理由があるのだ」というアピールをし続けることは重要だったと思うわけです。JR北海道も国土交通省も好き好んで鉄道を廃止したいわけではないが、金銭面で背に腹は代えられないという意識、そして財務省も「路線廃止すればJR北海道は黒字化する」とわざわざ報告書を出している以上、今のままというわけにはいかないというのが現状でしょう。

実際覆すべく自前での調査を行い、対案を出し続けた自治体もあったわけです。その対案が幼稚であると一蹴するのは簡単ですが、何の対案も出さなかった自治体よりはよほどマシなのです。
私は何度か日高線沿線の対応を批判しますし、実際出てきた提案内容は笑い話のような幼稚なものとは思っています。しかしながら、地域が一度は「日高線」を認識し、どのような利用があって、どうあって欲しいかを考えただけマシでもあるのです。DMVだBRTだと夢物語を言ってコンサルタントに依頼して、意に沿わない結果が出ても、それを数字として残すことができただけ他の地域よりよほど考えたとも言えるのです。識者は「一瞬考えればわかること」と思います。しかし「ちゃんとした数字を残した」ことは結果が廃線であったにしても私は地域が頑張った証として誇っていいことだとも思うのです。
少なくとも、何もせず協議への不参加をさも当然のようにアピールするような沿線より、よっぽど考えたわけですから。

私はこれらの、早くから動いた地域には鉄道が残らないまでも一定の成果として国からの金銭面でのサポートなどはあると見ています。しかし、逆に最初から「廃止になるわけが無い」とタカをくくっていたような沿線は、もしかすると厳しい現実が待っているかもしれないとも思うのです。

「利用促進」ができなかった理由

約2年前に沿線自治体としては突如言われた感のあったJR北海道の「路線見直し」そのときに現状を見て、各沿線自治体が「鉄道を維持するには乗車数が必要だ」とすぐ考えられなかったのは、どこか「乗車促進策はJR北海道の仕事であって、自分達は何もできない」という考えがあったのではないかとも思います。

北空知圏振興協議会
16項目の利用促進策
http://www.kitasorachi.net/pdf/H291213_JR.pdf
(見ることができない場合)
https://traffic.north-tt.com/txt/20180731_01.pdf


たとえば留萌線沿線、近郊の深川市、妹背牛町、秩父別町、北竜町、沼田町で構成された北空知圏振興協議会が考えたJR留萌線の利用促進策です。笑ってはいけませんが、沿線で考える利用促進策はほとんどが「JR北海道が金を掛けてなにかをしなければ実現しない」内容な訳です。現実に行われたのは地元で行われた町内買い物客への乗車券プレゼントくらいで、これは「今の鉄道利用者が単純に無料券を使った」ことになるので、単純な鉄道売上が下がる愚策に近い内容です。これで「利用者数が増える」と思っているならどれだけ脳内お花畑なんだと思うわけです。そもそも「広報誌に掲載」すら反故にしている沿線自治体に最初から留萌線を守り維持しようという気概が全く見えません。
極端言えば、北空知地区人口3万5000人が回数券で買い支えるとしたら1億円の収入、35万回利用、輸送密度だけで言えば500近く上げることも可能なんですよ。現実にそれは無理だとしても、地元が乗らない「利用促進策」なんて何の役にも立たないわけです。

地元の人が使わない路線に限って「高校生が使う」「年寄りが使う」「観光客が使う」で、現実に「使う」人たちが使いやすいようにもしていなかったわけですよね。自転車積める列車作ったって輸送密度は1も増えないんですよ。そういう非効率で無意味な「利用促進策」に時間を費やす時間はないのです。

一例ではありますが、各沿線の議論でとても残念だったのが「利用促進」に関する手段が全く確立されなかったことです。分割民営化以前、国鉄時代から利用者数を落とし続けてきた地方の路線で、何故鉄道が使われなくなったのか?という最初の分析からスタートした自治体は皆無ではないでしょうか。
例えばJR北海道では国鉄時代を含めた輸送密度の推移を別表にして11路線区間で発表しています。

JR北海道
輸送密度の推移
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/koumoku/01_2019.pdf




多くの路線が国鉄再建法に基づいた廃止対象ラインの「輸送密度が4,000人/日」をクリアしていませんでした。

留萌線も羽幌線廃止後の輸送密度は当初ですら418です。これ以降ピークは1989年の433なわけです。4000どころか1/10しか無かったわけで、いつ廃線論議が起きてもおかしくなかった中運行が継続されてきたという歴史があります。ちなみに1990年頃はJR北海道が留萌線のテコ入れ策として「快速るもい」を新設して特急接続で留萌-札幌の速達化と割引切符による攻勢を行った時期になります。その後キハ54導入で普通列車全体のスピードアップし快速を廃止、1994年と1997年にはさらなるコストダウンのために石狩沼田の交換設備撤去、信号の自動化による峠下駅無人化を行っています。ワンマン運転化も早くから行っています。コストは既にぎりぎりで運行しているわけです。
ちなみに1999年(平成11年)の輸送密度の増加はNHKドラマ「すずらん」の影響です。SLすずらん号の運行も2006年まででした。

ここまでで「利用促進」のヒントはいくつかあったはずなんです。しかしながら、コストをもう落とせないところまで落としてしまい、臨時列車も運行できない、いざ運行しても沿線はろくにそれに興味を示さない。それではどんな列車を運行しても意味が無いのです。

そして、現実には補助金を拠出している沿線路線バスが無くなることの方がずっと怖いこと。留萌線沿線でも深川-沼田を運行する空知中央バスは全体で地域間幹線系統補助で2100万円以上の交付が出ています。(もちろん深川-滝川などの路線も含む)地域間幹線系統補助は利用数の下限が決められていますので、一定以下の利用では補助が受けられなくなり路線廃止となる恐れがあります。「バスから鉄道へ移転」は避けなければならないわけです。

運行本数補助・スピードアップの観点

もし、各沿線が「利用促進」で2年以内に成果を上げて一定の需要増、そして地域交通の再編を実現したらどうでしょう?「次の2年」またはその先のJR北海道への補助の中に、必要な路線は維持することが含まれるでしょうか?

既に国が維持しないと決めた5路線区間は難しいかもしれませんが、個人的には、利便アップのための運行増加とスピードアップに補助をするという考え方はあってもいいと思っているわけです。多くの地域で「鉄道を使わない理由」を聞けば、本数が無いことと遅いことを言われるわけです。現実にほぼ歩かず車で移動すればドアtoドアでの移動で鉄道等公共交通に勝ち目はありません。しかしながら、本数とスピードの確保さえできれば、一定の利用客の増加を図れることはわかっているのです。

・早い鉄道と細かく停車するバス「両方使える」策
例えば地元負担での維持を検討する8線区の一つ、室蘭線苫小牧-岩見沢ですが、岩見沢-三川ではバスと鉄道がほぼ並行に走ります。
鉄道時刻とバス時刻を平均化し、どちらの定期・乗車券でもどちらも使えるという策を考えたらどうなるでしょうか?
ある一定の期間を絞り、各定期利用客はお互いを利用でき、時刻表も共通化する。沿線自治体は利用相手の運賃補助を行う。(鉄道定期の人がバスに乗ればそのバス代金、逆なら鉄道運賃を各社に補填する)もちろん、現在のほぼ同じ時間にお互いが出発するような非効率を各社で調整し一定の運転間隔を確保する。この成果でバス、鉄道合わせた利用がどの程度増えるかは社会実験の価値があるわけです。

この方法は本来で言えばあり得ない取り組みかもしれません。しかし、バスも減便が続き、列車も減便され、両方に金銭的負担を求められるということ、どこかで互いの長所短所を補い利便の高い交通機関を創るのだという仕組みは必ず必要になると思うのです。

そして、このような広域での施策はやはり単独の市町村ではむずかしいわけで、北海道庁、この場合でしたら空知振興局が関与してお膳立てしていく必要はあると思うのです。鉄道が残るにせよ廃止になるにせよ避けられない話でもあるのです。

・駅「休止」による列車のスピードアップ
また、利用の本当に少ない小駅に停車することで、列車の速度が著しく下がっている現状があります。宗谷線名寄-稚内で、普通列車に乗る人は非常に少ないのが現状です。しかしながら3往復の特急には一定の利用があります。そして、特急列車の運行間隔の間に普通列車の無い時間帯、逆に普通列車が続行するような時間もあります。結果普通列車には乗客が皆無、特急だけは乗っているという状態になるわけです。

そこで、名寄-稚内の小駅を「休止扱い」として、旭川-名寄の快速列車を含めた旭川-稚内の「快速」として運行。また、この快速と特急の通勤・通学定期利用を許可し、定期券発行箇所のみ停車する形など工夫する。

これは相当な反発があるでしょうが、現実に宗谷北線が生き残る策として現状の特急も普通列車もは無理です。一定の優等列車増加で列車利用客が増えるかどうかという観点は必要なことです。少なくとも宗谷北線利用者にとっては旭川も札幌も行きやすい状況になります。通学に関しては定期券の発行枚数的に美深・幌延・豊富以外は非常に少ないこともあり、現状の名寄-音威子府の通学列車以外は一定のバス運行も視野に入れる必要がありましょう。

これらは、沿線自治体さえ本気になればできることです。JRが言い出すことはありません。というより、JRが言い出せば沿線は大きく不満を述べるでしょう。ですが、鉄道の本来の目的は都市間を高速に移動できることにあります。この策はいつかは取らなければならないことかもしれません。宗谷線沿線はすでに地域の路線バスが少なく、バスに移転させることも難しいのです。

今そこ見せたい「北海道の知恵」

鉄道を残すべきだ、JR北海道の衰退は国の政策の誤り、JR北海道の自助努力が足りない、現実に自治体は金銭面の負担はできない・・・・
いままでも報道で何度も聞いてきたセリフです。言いたいことはわからないでもありません。しかしながら、実際にJR北海道が窮地であり、何らかの援助が無ければ列車の運行もままならないことは事実で、仮に基金等を清算しても数年しか運行できない状況になります。

であれば、やはり知恵を絞ってどう運行するか、そして、沿線と協力して「必要である」というところを国に認めて貰い、一定の地方路線も維持するという形にできなければ何のための協議かもわかりませんし、なんのために「JR北海道」であるのかすらわかりません。
今必要なのは、JR北海道と北海道庁、沿線自治体が本気で考えて利用を増やし、そして国と協議していく姿勢です。

そして、昨日も書いたとおり道民一人一人の意識が大事なわけです。年に一度「道民乗車デー」でもいいですよ、550万道民が一人年間5000円鉄道に乗れば275億円ですよ。最終的に道民一人一人が鉄道を、公共交通を利用する意識が必要なわけです。

もちろんそのためには、JR北海道をはじめもっと利用しやすく、使いたくなる鉄道、公共交通網を作っていく必要があります。しかし、それを待っていては手遅れになるわけです。
なので「この週末家族で出かける時に小樽まで汽車使ってみようか」こんな1日を年1回でも作ってみて欲しいわけです。「今回荷物無いから札幌出張はJRにするわ」こういう会社が増えて欲しいのです。

そして、何度も言うとおり、北海道民が望むのは「JR北海道の維持」ではなく、北海道民が使いやすい交通機関の維持であることを忘れてはならないわけです。それを国に訴えていかなければならないのです。

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