北海道の交通関係

「自動運転」で公共交通問題は解決するのか

2018/10/09

新聞や政治の世界では「新しい物」に妙な期待感があって、それさえあれば解決みたいなイメージが出されることがあります。

十勝毎日新聞 2018年10月07日
未来の乗り心地 自動運転バス試乗【上士幌】
http://www.hokkaido-nl.jp/article/8021
自動運転バスの一般向けの試乗会が7日午前、町役場敷地内で開かれた。運転席やハンドルのない電気バスに乗りながら、最先端技術の乗り心地を体感した。
AI(人工知能)などをテーマにした町の生涯学習講座「かみしほろ塾」の一環で実施した。


もちろん、10年20年で自動運転技術は大幅な発達が進み、条件さえ整えば現状でも一定の自動運転バスの運行はできる状態になっています。しかし、その条件はかなり厳しく、人間が判断しない自動運転車というものがそう簡単にできないのははっきりしています。

鉄道の世界では札幌市営地下鉄は3路線全てで自動運転(ATO)を行っています。地下鉄の自動運転の研究は1976年の東西線開通時に遡ります。このときに運転士だけのワンマン運転を行う予定だったものが頓挫し、ひばりヶ丘駅から車庫までの自動運転による回送が行われたのみになりました。逆に言えば鉄道の自動運転は1970年代に解決していたわけです。
現在、札幌市営地下鉄は全線でワンマン運転を行っており運転士の仕事は扉の開閉と機器監視のみです。扉を閉めて出発ボタンを押せば列車は予定されたダイヤに添って次駅まで自動で運転しブレーキをかけ、所定の位置に停車します。停車位置を確認して運転士はドアを開けるわけです。

線路内に人が立ち入らない、ホームでも柵を設けて人が立ち入らない環境においては自動運転は一定の実績があります。神戸のポートライナーなど無人運転を行っている鉄道もあるわけです。昨今では東京メトロも既存路線での自動運転に踏み切っています。これは将来的な運行人員の減少を見越したものです。

ハンドルによる「曲がる」操作が不要な鉄道は基本的にアクセルとブレーキのみの制御になりますから条件は少なく、このような導入事例もいくつかあるわけです。

自動車の「自動運転」には段階があり
レベル0 全てを人間が運転
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レベル1 システムがステアリング操作、加減速のどちらかをサポート
レベル2 システムがステアリング操作、加減速のどちらもサポート
----------ここまで運転「支援」
レベル3 特定の場所でシステムが全てを操作、緊急時はドライバーが操作
レベル4 特定の場所でシステムが全てを操作
レベル5 場所の限定なくシステムが全てを操作
では、路線バスを「自動運転」し、運転者を乗せないとすれば少なくともレベル4の自動運転技術を載せる必要があります。
現行でも路線バスの運転は基本1人でワンマン運転ですから、レベル3では運転者を乗せることを条件にするためです。

現在実験されているのはレベル4ですが、日本の法規制ではレベル4でも公道での無人運転は許可されておらず、特認を受けた場所だけに留まっています。
逆に言えば無人運転に対応する法整備がなければ路線バスの無人運転は難しいわけです。

ただ、レベル4自動運転の実証実験は各地で行われており、一定の条件や閉じた空間であれば実用化できるレベルに近づいているのは間違いないことです。

自動運転バスは地方バス路線の救世主になるか

さて、地方の路線バスの抱える問題。それは大きく分けて2つあります。
・運行コストを運賃でまかなえない
・運転手のなり手がいない
バスの運行コストに占める人件費の割合は約50%と大きく、なおかつ担い手が少ないわけですから、バスの自動運転化は大きな意味を持つとも言えましょう。車両費、燃料費、修繕費など人件費以外の費用で運行できた時に収支改善効果は非常に高いとも言えます。

もう一つは運行時間の問題です。運転者の休憩時間などを考えるとバス会社では車両はあるけれど動かせる人がいない、動かせば別の人員が必要などという面があります。自動運転車ならば1路線を何度往復しても燃料費、消耗品費が増えるだけですから地方路線でも本数を増やすことが出来る可能性はありそうです。

このように明るい面はあれど、現実には路上駐車やバス停前にいる人を客と認識するかなども含めて公道を走行するハードルはまだまだ高く、また、当然その場合は設備投資として車両購入、バス停等のIT投資なども必要になります。そもそも無人運転バスに気軽に乗って貰える環境にするまでのハードルは高そうです。身障者などの対応も現実的に無人運転ではできないわけです。

また、北海道で言えば雪による道路面と路肩の認識ができないような場所、吹雪などの前方視界不良時にどこで運転を中止するかなど、さらに一歩進んだ条件があるわけです。少なくてもここ数年以内の実用化は難しいかもしれません。またGPSの受信が難しいトンネル区間が連続する区間なども課題になるかもしれません。

もちろん新技術に期待するのはいいことなんですが、現状で導入できないものに対して期待するのもやり過ぎなわけです。現在ある条件、できる条件で公共交通を検討する必要があります。既にバス運転者や鉄道運転士の給与は北海道地区では大幅に安くなっています。この状態では「なり手」不足は否めません。また、どれほど自動運転が進んでも一定の「乗務員」の必要性が無くなるわけではありません。

ちなみに先の自動運転レベルはあくまでアメリカ企業の考えたものです。渋滞や首都高速のような極端な分岐併合のある日本で考えれば自動運転レベル3を実現するにはレベル4程度の実装は必要で、レベル4に対応させるには物理的に他車が無い閉じた空間では無い限りレベル5の技術が必要になるはずです。そういう意味ではハードルは非常に高いのです。それを考えると一部メーカーの唱える「自動運転」として売ってる車など詐欺レベルであります。(自動運転技術という言い方で消費者を誤認させているように私は思う)

個人的に上記で言うレベル2に類する運転支援のある車を所持していますが、北海道の田舎道や高速道路での巡航は非常に快適で、前車についていく間隔でアクセルだけは一定の任せはできます。これは一定の条件のよい日だけです。とはいえ、このような機能がトラック、バス等職業運転の車にも搭載されるようになれば労働条件は大きく変わる可能性があります。まず運転支援技術を多くの車に搭載し、一定の事故抑止効果を発揮するところからスタートしているわけで、自動運転で誰もが無人バスで出かけられる時代はまだちょっと先になるように思います。

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