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北海道の交通関係
札幌市電、市営地下鉄は今後も運行し続けられるのか
2018/10/24
なんか「いいこと」のように書いてある記事なんだけど、違和感があるんですよね。
北海道新聞 2018年10月24日
正職員で雇用、運転士の身分保障図る 札幌市電、20年度「上下分離」へ ベテランから若手へ技術継承期待
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/240926
札幌市が市営の路面電車事業(市電)について、施設は保有しながら運行を民間事業者に移管する「上下分離制度」を導入する方針を決めたのは、累積赤字が続く市電事業のコストを抑えつつ、運転士の7割を占める非常勤職員を正職員として雇用するためだ。移管先は市の第三セクター「札幌市交通事業振興公社」を想定する。非常勤の運転士を公社の正職員として雇用し、身分保障することで、他社への運転士流出を防ぐ狙いもある。
市電の累積赤字は昨年度末で4億1400万円。市は、経済界などに市電廃止論もあるため今後もコスト増は回避すべきだとの立場だ。一方、現在71人いる運転士のうち、40代以下の49人は全員、1年契約の非常勤職員。人件費抑制のため正職員採用をストップしているためだ。だが非常勤職員は身分が不安定なため、将来的に他の交通事業者に移る懸念があるという。
市は、上下分離導入を2020年度と想定しており、導入後、非常勤職員は希望に応じて公社の正職員として再雇用する考え。公社の正職員は、市の正職員の待遇とは大幅に異なるものの身分は保障される。市正職員の運転士は身分を保障したまま公社に派遣する方針で、ベテランと若い世代の職員間の技術移転が進むことも期待できるという。
市は12月の定例市議会で新制度導入後の長期的な収支予測、安全管理体制などを報告し、来年2月開会予定の定例市議会に関連議案を提案する予定。
一方、市議会には、さらなる効率化のため、市電運行の移管先は公社でなく、JR北海道など民間事業者にすべきだとの声もある。22日の市議会特別委で、細川正人氏(自民党)は「経営が厳しいなら民間に引き継ぐべきでは」と指摘した。ただ、市によると、他の交通事業者に市電運行の意向を調査したところ、希望する事業者は公社以外にはなかったという。
現在札幌市交通局の市電、市営地下鉄の「職員」とされる人は、市職員である交通局職員と「民間」とされる「札幌市交通事業振興公社」の職員に分けられます。
札幌市交通局
職員募集 非常勤職員(路面電車運転手)
http://www.city.sapporo.jp/st/syokuinbosyu/romen_hijoukin.html
報酬は任用初年度月額184,120円。
※交通局が必要として、かつ、勤務成績が良好な場合には、任用が更新されます(更新の限度は最長で60歳に達する日の属する年度の末日。ただし、知識、経験、技能等の活用を図ることが行政運営上適当であると認めるときは、65歳に達する日の属する年度の末日)。
※非常勤職員から正職員へ登用されることはありません。
(正職員採用試験を受験することは可能です。)
あくまで1年の期間雇用、そして更新ありとなっていますが、非常勤職員の「5年ルール」を考えると正職員への採用試験を受けなければそのまま失職するわけです。
札幌市電に関しては既に40代以下の全ての運転手が非常勤職員で1年更新という非常に不安定な雇用を継続しています。そして、試験を受けて正職員になったとしても、今度は「人件費」の面で運転手を続けられるかは未知数なところです。
今回札幌市交通事業振興公社に支援の運行を委託、運転手を札幌市交通事業振興公社職員として正社員採用するという面は職員の待遇に関しては一歩前進しますが、それは札幌市交通事業振興公社が正職員の給与を一定額保障できるかという話でもあります。市職員はもとより一般的な企業の社員より低い待遇で今後も運転手を確保できるのか?という観点はもっと議論されなければなりません。
地下鉄職員については駅職員、定期券売場職員は既に全駅が札幌市交通事業振興公社への委託です。駅職員として表に出ている人は市職員ではないということです。その待遇ですが
札幌市交通事業振興公社
採用情報
http://www.stsp.or.jp/recruit/
※正職員への登用を前提とした契約職員です。正職員への登用は、勤務成績及び社内試験で決定します。
1年間(第一種契約職員として最大2回まで更新する場合があります。)
月給145,000円
※地下鉄駅員の給与支給実績例(宿泊勤務10回の場合):月166,300円 この他に通勤手当、扶養手当等別途支給
こちらは正職員登用を前提としながらも2回(3年)以降は正職員採用が無ければそのまま退職です。しかもこの給与は時給換算の最低賃金並みで、これで運行に関わる重要な業務に就かせるのか?という金額です。
地下鉄列車に乗務する運転士、車掌は交通局職員ではありますが、こちらは交通局の正職員として募集されます。
札幌市交通局
職員募集 交通局職員(正職員・地下鉄車掌)
http://www.city.sapporo.jp/st/syokuinbosyu/tikatetusyasyo.html
動力車操縦者運転免許に関する省令に規定する身体検査の合格基準を満たす方
こちらは車掌としていますが、現在地下鉄には車掌が乗務しておらず「動力車操縦者運転免許に関する省令に規定する身体検査の合格基準を満たす方」の文言があるため基本的に将来の運転士候補であるということになります。
札幌市交通局の職員数は615人、そのうち地下鉄運転士は189名、地下鉄車掌は13名、市電運転手は23名、駅員は0となっています。市電運転士の平均年齢は53.3、地下鉄運転手の平均年齢は48.3と高く、長く運転士を採用してこなかったことが伺えます。これは2004年の市営バス廃止でバス運転手を地下鉄車掌、市電運転手へ転属させ、その後地下鉄運転士への登用などがあり、地下鉄ワンマン運転化で地下鉄車掌の廃止など新規採用が約10年行われなかったことがあります。
このため、地下鉄運転士は若手が少ないという歪な構造になっています。市電運転手にしても交通局正規職員は少なく、指導できる職員は少ないわけです。「市電が赤字であり」コスト削減とか言っているような状況では職員給与のアップは難しく、その給与で人が取れるのかという危機感が無いと言わざるを得ません。列車の運転に必要な免許を取得するには長い年月がかかり、その養成費用もかかるわけです。適正のある人材を採用するには広く募集する必要があり、こんな給与でどの程度の応募があるのか疑問もあります。
札幌市電に関しては長らく存続、廃止に揺れ、廃止になった時に首を切りやすい非正規職員で運行してきたことが問題を根深くしているわけです。いざ存続、ループ化等と言っても今や車両更新にもカネがかかり、職員は非常勤だらけで常勤職員からの技術移転もままならなかったわけです。今決めたからまだ間に合ったとも言えますが、このあと職員を辞めさせないための工夫と少なくとも待遇アップは必要です。
問題は交通局直営ならコストがかかり、公社委託ならコストダウンできるという試算です。実際には公社委託料が低減されるということはその職員の給与を低く抑えるという意味です。それでは維持できるだけの人員が確保できないのではないか?そういう疑問を覚えます。バカの一つ覚えのようにJR北海道のコストダウン=給与削減を言う北海道知事と同じ観点で考えると将来電車を運行できなくなる可能性が高いのです。
札幌市交通事業振興公社は職員数593名となっており、平均年齢38.4歳その多くが非正規職員です。こちらは正規職員化でコストアップになります。しかし、交通局からの委託料が抑えられるなら、公社としてもやっていけないわけです。他の企業が市電運行に興味を示さなかったのは当然その額が全く実情に合っていないからです。アルバイト以下の給与で働かされている地下鉄職員、市電運転士が札幌の交通を担っていることを札幌市民はもっとしっかり意識し、報道もその観点を伝えなければなりません。
今回の「上下分離」は札幌の交通の未来を必ずしも明るくはしないのです。交通に掛けるコスト試算をもう少し精査し、本当に上下分離が最も最適なのか。そもそも交通従事者の職員数や給与面待遇を改善する必要があるのかという面で議論をするべきです。
市電が赤字だからコストを削るんだという単純バカ的な議論は札幌の交通行政の破綻を意味するのです。