北海道の交通関係

北海道以外の「維持困難に準ずる路線」沿線自治体がやっていること

2018/12/11
「地域公共交通シンポジウムin北海道」での名古屋大学加藤教授の講演。約3分にわたり木次線の沿線自治体が作成した動画を「北海道の皆さんに見て欲しい」と上映しました。そして「北海道のありとあらゆる路線でこのような動画を作れたら救えるのではないか」と言うわけです。「今だったら作れないでしょ!」「簡単じゃないですよ」という

 

木次線利用推進協議会
みんな大好き木次線
https://www.youtube.com/watch?v=1z56pjBz22M

確かに乗客や鉄道職員を入れ込んだ動画を作るのは簡単なことではありません。鉄道会社との入念な打ち合わせ、そして関係性が無ければこういう動画は簡単に作れないです。

JR西日本は関西圏の優良路線や山陽新幹線などを持ち、売上高1兆5,165億円、経常利益1,740億円という会社です。しかし、鉄道運輸収入の52%を新幹線で稼ぎ、35%を関西圏の路線で稼ぎます。広島や岡山などの都市を含めてもそれ以外は13%しか稼ぎはないわけです。各路線収支は開示していませんが木次線の鉄道運輸収入は6400万円。1日17万円しかないわけです。木次鉄道部だけで8両の車両を持ちます。車両の維持費用にすら足りないわけです。

木次線の輸送密度は204。花咲線(264)よりも乗っていない路線です。しかし、近くを走る三江線が今年廃止、このままなら近隣の営業成績の悪い路線は廃止を打診される可能性があるということで沿線自治体が動き始めていたわけです。大事なのは「まだJR西日本は何も言っていない」うちに始めているということです。

さて、木次線の前に廃止された三江線について。三江線の廃止がJR西日本から打診されたのは2015年のことです。それ以前から「三江線改良利用促進期成同盟会」という地元自治体組織があり2012年には増便実験(列車本数・沿線バスを含め2倍程度まで増便する社会実験)2014年には輸送密度は50まで下がり、大規模災害による長期間運休もあり廃止が決断されたという経緯があります。
観点は3つです
・輸送量の極端に少ない路線であった
・増便実験など乗客を増やす努力が行われたが乗客は思うように増えなかった
・災害リスクが高くその復旧費用に多大な支出が見込まれたこと
そしてJR西日本は強い言葉で三江線を廃止するとの発表を行ったわけです。

 

JR西日本
三江線鉄道事業廃止の意思表示について
https://www.westjr.co.jp/press/article/2016/09/page_9174.html
(1)三江線はエリア内の短区間の流動が太宗を占め、かつ僅少な輸送密度を踏まえると「拠点間を大量に輸送する」という鉄道の特性を発揮できていないこと。
(2)通院、買物などの市町内で完結する少量かつ多様な移動が、この地域の移動実態であり、輸送モードとして鉄道が地域のニーズに合致していないこと。
(3)三江線活性化協議会において、5カ年の取り組みにもかかわらず、利用者の減少に歯止めがかかっていないこと。
(4)三江線において過去10年において平成18年と25年の二度にわたり大規模な自然災害が発生した。さらには強雨発生回数の増加傾向をはじめとする自然災害リスクの高まりは当線区においても無関係でなく、バスにて代替可能な鉄道に対し、被災と復旧の繰り返しは社会経済的に合理的でないこと。
 こうした4つの理由を踏まえ、当社として三江線の鉄道事業はどのような形態であっても行わないという判断に至りました。

さて、この4つの理由のうち、3つはJR北海道が留萌線の留萌-増毛の廃止を行った時に地元に説明した内容と非常に近いことがわかります。

 

JR北海道
留萌線(留萌・増毛間)の鉄道事業廃止について
https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2015/150810-2.pdf

言葉は非常に優しい。しかし、利用が極端に少なく、輸送モードが実情に合わず、災害が多いという鉄道会社がどうにかできるような状態では無いのも事実です。留萌線に関しては増便実験どころか地域が鉄道利用を推進するようなバックアップは一切されることがありませんでしたので、三江線の取り組み以下という惨状です。

さて、木次線沿線はこの近場の廃線劇を見てどう感じ取ったかです。木次線は宍道駅(島根県松江市)と備後落合駅(広島県庄原市)を結ぶ82kmほどの路線。1998年からは奥出雲おろち号という観光列車が運行されています。2017年に全通80年となり、2018年には奥出雲おろち号20周年という記念の年を迎える。そんななかで聞こえてきたのがお隣三江線の廃線問題。当然増便実験などの行動は知っていただろうけれど、それまで一定の観光需要があると思っていた木次線が「次」のターゲットになるのは避けたい。

木次線自体が国鉄改革法による廃止対象路線を沿線道路未整備を理由に除外された経緯があり、当時ですら輸送密度663という惨状。これが現在200そこそこですから、いつJR西日本が「木次線の鉄道事業はどのような形態であっても行わない」と言い出してもおかしくないと思ったのは当然のことでしょう。しかも三江線同様に毎年のように大雪による長期間運休が発生しているわけです。

木次線の観光列車「奥出雲おろち号」は最初はJR西日本の単独による観光列車でしたが2009年からは沿線の出雲市・雲南市・奥出雲町・飯南町による地域連携組織「出雲の國・斐伊川サミット」が運行費用を負担しています。車両の定期点検・整備費用もここで負担しているわけです。そして2016年には「木次線開業100周年実行委員会」が設立。木次線の列車運行、路線運営を行っているJR西日本の「木次鉄道部」も含めた官民あわせて合同で立ち上げられた運営組織です。この委員会が「木次線全線開通80周年記念事業実行委員会」そして「木次線利用推進協議会」と名前を変えて、現在木次線のPR活動を行っているわけです。

ここで大事なのはJR西日本の「木次鉄道部」も含めた会であるということです。沿線各自治体の首長が役員を務めるこの組織に現業であるJR西日本の組織が入っていること。これが冒頭の動画で社内の映像がふんだんに使われ、運転士、駅員氏などが笑顔で写っている理由ですし、加藤教授が「北海道ではできない」と断言していることでもあるわけです。

JR西日本の鉄道部制度は地域毎に一つの鉄道のように職員を固定し意思決定や臨時列車運行などをやりやすくするという意味があります。このような地域と一体でのキャンペーン活動などがしやすい面があります。

実のところJR北海道も日高線・花咲線・宗谷北線で「運輸営業所」といわれる同様の地域路線運行組織を立ち上げて、各路線は専用車両、列車運行などの効率化、臨時列車等の運行の権限移譲などが行われていたはずです。日高線、花咲線では直営バス路線の営業所も傘下に入れていましたが、宗谷北線運輸営業所は2017年廃止、他も現状名前としては残っていますが権限を持っていないように見えます。それは地域の「協議会」に結果的に運輸営業所では無く本社などからの職員が派遣されている(それなりに立場のある人が必要という意味もあろうが)ところからも明かです。

さて、木次線は2018年夏の豪雨で大きな被害を受けました。線路事態の被害は少なかったものの、他線の鉄橋流失による信号ケーブル切断などで運休を余儀なくされ、このまま復旧できないのでは無いかという危惧がありました。結果的に1ヶ月程度で復旧したのは路線事態の被害が軽微だったとはいえ、地域と鉄道部の一定の結びつきがあってのことではないかとも思うのです。

 

産経新聞
【西日本豪雨】JR木次線、スピード復旧 「奥出雲おろち号」も運行再開
2018.8.8 23:05
https://www.sankei.com/west/news/180808/wst1808080099-n1.html


木次線の沿線協議会のサイトを見てみましょう。

 

木次線利活用推進協議会
http://kisuki-line.jp/
乗って応援!通勤チャレンジデー
食べて応援!木次線応援弁当
山陰中央新報の広告欄をご覧になられた方はコチラ
備後落合駅の清掃活動
第1回 加茂新そば祭り
音楽列車の旅

トップページだけでこれだけイベントなどが書かれています。また、利用促進助成などもここからわかりますので「ワンストップ形」サイトとなっています。意外と内容が多いので読むのに時間がかかります。沿線が木次線への危機感を持ち、広報しようという気持ちがあることが伺えますし、「山陰中央新報の広告欄をご覧になられた方」というのは新聞広告も打ったということがわかります。

では、振り返って、北海道の自治体の取り組みはどうなっているのかです。木次線の観光列車より湿原ノロッコ号の利用客の方がずっと多い、釧網線や花咲線の利用客の方が輸送密度上多いんです。だからどうでもいいのか?ノロッコ号の運営に沿線自治体は一銭も出していないし、沿線の商品を販売するなんてこともしていないわけです。少なくとも私が利用した限り塘路駅では観光バスとカヌー事業者、JR関係者以外沿線で何かイベントをやっているような様子はありません。
花咲線の「観光列車」にも乗りましたが、根室駅で何かがあるということはありません。

 

釧網線活性化委員会
http://senmouhonsen.com

 

根室市
地球探索鉄道 花咲線
https://www.hanasaki-line.com

クラウドファンディングで3億円集めたと各メディアで取り上げられた根室市の取り組みは、3000万円でサイトと動画を行い、googleのリスティング広告も効いているようです。でも、中身は格好いいってだけなんです。そこに地域がどうしたいのか?地域がどのように訪問者をもてなすのか?地域の人にどう使って欲しいのか?
まだサイトがあるだけマシなんですよ。他の沿線ではそのようなサイトも存在しない。

何度も沿線は各路線をどうしたいのか発言するべきで、必要なら必要な理由や内容を表に出してほしいと思っています。しかし、何も伝わってこない。

木次線が必ずしも素晴らしいわけではないけど、まだJR西日本から何の打診もされていない沿線がすでにこれだけのイベントを行い、JR西日本と一定の関係を築き上げている状態を見ると、どれだけ北海道の各路線の沿線が何もしていないのかという話です。

花咲線の観光列車も、釧網線のノロッコ号や過去の足湯めぐり号も「降りても地域に無視される」列車では地域は要らないと思ってるんだろうなぁ、地域は観光客がウエルカムじゃ無いんだろうなと思ってしまうんですよ。

そういう「この程度」とおもうようなことをやってるかやってないかで変わるんじゃないかなとも思うのです。

カテゴリ: 北海道の交通関係 JR北海道 日高線 留萌線 釧網線 観光列車 花咲線

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