北海道の交通関係

続:北海道以外の「維持困難に準ずる路線」沿線自治体がやっていること

2018/12/12

前回JR西日本の木次線沿線の取り組みについて記載しました。観光列車の運営費や車両検査費用まで地域が負担して、路線営業部との関係性の構築、サイトなどでの外部への広報体制。そういう面で北海道の各沿線自治体が参考にできることがあるかもしれません。
(もちろん、これをコピーするだけではダメで、北海道は北海道のオリジナルな広報の場や費用負担の考え方があるとも思います)

只見線鉄道復旧の事例

さて、今回取り上げるのは2011年の新潟・福島豪雨の影響で運休が続いている区間を持つJR東日本の只見線です。
只見線は福島県会津若松市の会津若松駅から新潟県魚沼市の小出駅を結ぶ135.2kmの路線。途中の会津川口駅から只見駅の27.6kmは不通となっています。
この区間の被災内容で大きなものは、只見川に架かる第5、第6、第7只見川橋梁が流失しており、第8只見川橋梁付近では盛土の崩壊も起こっています。つまり、少なくとも鉄橋3つを新たに架け直さなければならないという大きな被害でした。

この区間についてJR東日本は

JR東日本
只見線 鉄道復旧について - バス転換について
http://www.jreast.co.jp/railway/pdf/20161130-1201tadami.pdf
不通区間の収支
運賃収入0.05億円
営業費3.35億円
営業損益△3.29億円
復旧費約81億円


資料ではかなり細かい収支、利用実数などを公表しています。JR東日本は最初から鉄道での復旧を提案しないという認識だったことがわかります。

鉄道軌道整備法の壁

JR東日本は鉄道運輸収入1兆8367億円、経常利益3589億円という黒字企業です。連結決算では2兆9501億円の売上、4399億円の経常利益です。このような黒字企業の場合災害復旧費用の国庫補助が適用されないという問題がありました。先のようにいくら黒字企業であっても復旧費用を出資し、その後毎年億単位の赤字を生み続ける路線の維持は店頭公開企業として株主説明が難しいという現状があります。逆に、路線維持費用が低額であれば、一定の「ボランティア」として運行できるのが東北等のローカル路線が現状維持できている理由とも言えます。
この法律は2018年に路線単位で赤字である場合復旧費用の1/3を国庫補助できるよう(これは特例で通常は1/4)改訂されました。この特例は上下分離など黒字事業者の管轄では無くなる場合に適用されることになります。

さて、国の補助が発生したとはいえども、全額ではありませんから鉄道事業者と沿線自治体が1/3づつ負担が必要になります。

JR只見線復旧復興基金

2013年から福島県と沿線自治体など会津地方17市町村は只見線の全線復旧を目指した「只見線復興推進会議」を発足。その中で基金を創設し、被災区間ではない新潟県・魚沼市からも支援を得て21億円を積み立てました。

しかし、JR東日本は要望を拒否、費用対効果の面から「バス転換」を譲りませんでした。2016年からは「只見線復興推進会議」に国交省とJR東日本をオブザーバとして参加させ、協議を行った結果、復旧費用を当初予定の108億から81億円への減額(工事方法の変更等)そして「上下分離方式」での運営方針が決定されたわけです。

上下分離

上下分離は福島県が線路設備や鉄橋等の鉄道施設を保有し、JR東日本が列車運行を行うという下(設備)と上(運行)を分離し、鉄道会社が運行する費用を抑えるという方式。線路設備や駅等の鉄道施設はJR東日本から福島県へ無償譲渡され、県は鉄道施設の維持管理を費用負担しJR東日本へ委託するという形になりました。

この方法の提案で、JR東日本ははじめて「鉄道での復旧」という条件が提示されることになります。

各負担額は81億円の復旧費用のうち27億円をJR東日本が負担。残りの54億円のうち国が半分である27億円(全体の1/3)負担。残り27億円は先の只見線復旧復興基金から21億円、残りを寄付金などで賄うとしています。

これにより2017年6月只見線は鉄道での全線復旧で合意。2021年中の復旧を目指し2018年ついに着工にこぎ着けました。

沿線自治体の費用負担

さて、復旧費用ではまとまりましたが、上下分離式を採用した結果、地元自治体は「下」部分の線路維持管理に関わる費用を拠出しなければなりません。年間2億1千万円と試算されています。このうち福島県が7割を、沿線市町村が3割を負担することになります。沿線で約10キロ近く只見線を有する只見町の負担額はおよそ年間1900万円となります。先の不通区間の収支に当てはめると、JR東日本は500万円の収入で、3億3000万円の赤字でしたからおよそ1億1500万円の赤字を見込むということになります。それでも赤字額が1/3になったわけです。実際にはJR東日本の負担額は年7100万円とされています。

見ての通り福島県の拠出金額が非常に大きいことがわかります。当初は鉄道軌道整備法改正前でありましたので、福島県は最大33億円の復旧費を負担する必要があった中で上下分離とともに只見線への拠出を決断し復旧への足がかりを作りました。県のリーダーシップが前進させたといういい方もできそうです。

反対意見

さて、簡単に進んだとみられる只見線の復旧ですが、実際には反対意見が多く、頓挫の可能性もあったと思われます。

河北新報(WEBアーカイブ) 2016年12月01日
<只見線>上下分離に反対や慎重意見相次ぐ
https://web.archive.org/web/20170330091305/http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201612/20161201_63049.html
上下分離方式は復旧費81億円のうち、3分の2が地元負担となるほか、年間運営費の負担が生じる。会津若松市や会津坂下町の住民からは「半永久的に膨大な費用がかかることが心配」「子どもたちに大変な負担になる」などと反対や慎重な対応を求める意見が相次いだ。
一方、柳津、会津美里両町の住民からは「只見線を観光資源のシンボルとしてアピールしたい」「防災のためにも鉄道を通してほしい」といった鉄路復旧を望む声が上がった。


只見線沿線である会津若松市や会津坂下町でも反対意見があったように見えます。決して地域が一枚岩で復旧にこぎ着けたわけでは無いのです。特に現実に運休区間とは関係ない会津若松市などが復旧費用や上下分離負担に慎重になるのは理解できる部分です。

JR東日本の対応

さて、当初から鉄道復旧には前向きでなかったJR東日本がなぜ鉄道復旧に舵を取ることになったか。
只見線復興推進会議が何度か開かれていますが、その資料を見てみます。

福島県
只見線復興推進会議検討会資料
・第1回
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/223431.pdf
先のJR東日本資料がついている。これまでの利用状況が厳しいという資料。
・第2回
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/223430.pdf
・第3回
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/223429.pdf
JR東日本からバス転換を色濃くした資料を添付。
・第4回
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/223428.pdf
上下分離方式の比較検討資料添付。
・第5回
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/223427.pdf
第8只見川橋梁の工事方式変更で工期短縮と費用減額の説明。
・第6回
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/223426.pdf
住民懇談会の結果添付。上下分離費用試算。
・第7回
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/223425.pdf
上下分離による復旧方針をとりまとめ。


これは上下分離方式での只見線復旧を決めた会議ですが、過去に行われた会議の内容が見れます。この誰もが見ることができる形で透明性を持って復旧方針が検討され実施されると決まったことが大きいと思います。

JR東日本はバス転換以外の受け入れをしないという方針から、沿線自治体、特に福島県からの要望で上下分離など他の方法との検討を行い、先例となる事例を集め協議し、費用負担までまとめ上げたからこそ、JR東日本は上下分離による只見線復旧に舵を切ったとも言えるわけです。

北海道の場合

2015年から鵡川-様似が災害のために休止されているJR北海道日高線ですが、JR北海道からのリリース文以外の検討資料、会議資料などは出ていないこともあり、正直外部にはどのような検討がなされたのかわからない部分があります。そのなかで報道ではJR北海道が単年度赤字分と老朽対策費等年間16億円を地元負担する必要がある等の報道が出ていますが、その根拠となる資料が見当たらないわけです。(これはJR北海道側の負担額も含まれているようにも書かれているが、はっきりしない)

北海道新聞(WEBアーカイブ) 2016年8月9日
日高線維持に16億円 JR、地元に分担要求
https://web.archive.org/web/20160809082020/http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/society/society/1-0302342.html


日高線沿線自治体協議会については議事要旨すら公開されていないため、なにが検討されて、どのような資料が提示されたのかもわからないわけです。そもそも13億円を負担せよと言ったのかもわからないわけです。

このような状況で、沿線町民は報道から概要を知る以外に日高線の状況を知る術が無く、なおかつ、現実に沿線では利用が少ないことから既に興味も失っているという状況に見えます。日高線について交渉内容を広報ですら取り上げない以上、町民が発言する機会も無いわけです。

大切なことは、どのような結果となったにせよ、交渉経過、交渉内容、一定の添付資料を誰もが見られるようにすること。それが住民の納得を産むことになりますし、わがまち、わが路線の未来について考えることにも繋がるのだと思うのです。

北海道の交通関係 JR北海道 日高線 観光列車

検索入力:

記事カテゴリ