北海道の交通関係

北海道新幹線の「改善しなければならないこと」

2019/03/15

さて、ここ数日、リンクこそ張りませんが元いすみ鉄道社長鳥塚氏や一部評論家による「北海道新幹線が乗られない理由」という文章を読ませていただいておりますが、正直なところどれも前提の条件やその理由などが正しく認識されていない。元のデータがダメなのにどれだけ改善点を言ったところで共感できないわけです。

もちろん北海道新幹線が現在の利用状況であってはいけないことです。しかしながら実態が東北新幹線の末端である北海道新幹線そのものの利用数が少ないと言ったところで、現に函館周辺渡島管内の人口で45万人ほど、青森が青森市だけで29万人、青森県で138万人の人口と思えば、利用が少ないのはわかりきっていることですし仕方の無いことです。

とはいえ、もっと北海道新幹線を利用させることを考えないと、折角延伸した効果を得られないわけです。北海道新幹線は航空と戦って航空を駆逐するためのものではなく、航空では得られない広範囲の集客をもたらすためのツールであるわけです。現に函館空港は本州方面へは東京、名古屋、大阪にしか飛んでいないのですから、東北、北関東からの集客という意味では効果があるわけです。実際北海道新幹線1年目の実績では航空需要は減らず、フェリーは増加。つまり北海道新幹線の分そのまま流量が増えたと言えるわけですね。

航空と新幹線を戦わせたところでそれほど利点は無いわけです。航空と新幹線の守備範囲が異なるわけですから、お互いのメリットを考えて利用できれば良いのですね。
その中で私が北海道新幹線に非常に不満を持っているのが「使いたい時に使えないじゃ無いか!」ということなんです。

航空は基本的に予約して乗る交通手段です。年間通じての搭乗率が7割を越えなければ撤退する可能性があるほど満席に近い状況で無ければ運行コストを賄いきれず、収益を得られない航空では、早くから予約を受付て席を埋めることを是とします。早期に割引を行い、搭乗日が近づくにつれて高くなる。そして当日は非常に高額な「普通運賃」でしか乗れない航空は1便あたりの運航コストに対して総売上がいくらかという出し方ですから、搭乗3日前程度の割引運賃額で満席になればコスト的には問題無く、当日飛び込みで乗る人の運賃はそのまま利益の積み上げと言えるわけです。

新幹線が1ヶ月前からしか予約を受け付けないのは、その本数もありますが、基本的にそれ以前から予約するような客層が少ないとしてるんだとも思うんですね。よほどの繁忙期か人気列車でも無い限り当日出発直前まで満席にならないというのが前提になるわけです。これはコスト的に座席利用率が高率でなくてもある程度収益が確保できるという面があります。たとえば東海道新幹線は1列車1300席を用意していますし、東北新幹線の車両も10両で700席以上を用意します。これは航空などに比べると非常に席数が大きく、運行に必要とする人員も少なく燃料費としての電力費用も比較的安い。そしてなにより設備は基本的に自前ですから特にターミナル駅の設置コストを低く抑えられるわけです。
結果東京に近いJR東海、JR東日本は新幹線に大幅に収益を依存できるという面があります。仮に新規に「新幹線」に参入しようとしても首都圏のターミナルの建設費をとても運賃ではまかなえません。また航空にしても羽田空港等の整備費用を負担させられたなら今の運賃で飛ばすことはできません。

このことから既存の新幹線の「収益が高い」ために、ローカル部分である北海道新幹線の改善が進まない部分でもあるわけです。

北海道新幹線の最大の問題点は「乗りたい時に満席で乗れない」ことです。えっ?北海道新幹線は利用率20%そこそこでガラガラなんでしょ?というのは新青森と新函館北斗の「北海道新幹線だけ」の部分です。実際には週末や連休というレベルですら対首都圏では満席になっており、多くの列車が北海道区間だけガラガラで、東北新幹線区間を満席で走っているということなのです。

たとえば、昨年の9月の新函館北斗13:35発東京行き「はやぶさ28号」です。当サイトでは前日の21時頃に空席情報を取得しますが、前日の状況で満席になってる便があります。そして当日には多くの予約が入りほぼ満席で東京に向かうわけです。



しかし、同じ列車の新函館北斗-新青森です。全て空席有りです。この列車の主な利用者は新青森以東の方ということになります。そしてこのはやぶさ28号という列車、新青森-新函館北斗を途中無停車で運転するにもかかわらず、新青森-盛岡の各駅に停車するため、所要時間は4時間30分程度(今回改正で4時間25分)という鈍足列車です。しかし、盛岡以東では他の最速列車と同じく走ります。この列車は新青森-盛岡の各駅から最速で首都圏を結ぶ列車を申し訳程度に新函館北斗に延長しただけの列車なのです。

つまり、新幹線の最大の利点である「乗りたい時に乗れる」が機能していないことが北海道新幹線の最大の問題なのです。

仮にJR北海道がこの空席を活かして何らかのキャンペーンを行うにしても「対東京」へのキャンペーンは「今高額な運賃・料金を支払って東北新幹線区間に乗っている」客をないがしろにすることに繋がるわけですからJR東日本は難色を示すでしょう。また、JR北海道が対東京への速達列車を増やそうとしても、JR東日本にしてみれば岩手県、青森県の各駅に停車させ、速達する列車を新たに増発しなければなりませんから難色を示すわけですし、現実にその様な列車を作っても乗車率が落ちるわけですからコストアップになると思っているわけですね。

北海道新幹線が開業して3年、ダイヤの見直しは行われておらず、せっかくJR北海道の努力での青函トンネル区間の数分の時間短縮も、青森県、岩手県の各駅停車でスポイルされているわけです。何故こんな状態で北海道新幹線が「使われる」と思ってるのか?という話です。

ですから、北海道が「北海道新幹線の利便を上げるべきだ」と訴える相手はJR北海道では無くJR東日本なのです。北海道観光キャンペーンや、旅行商品なども東京側での販売を行うには東京側の事業者であるJR東日本の協力が不可欠なわけです。

当然JR東日本は北海道新幹線札幌開業には大きな期待があると思われます。今のまま延伸すればいいとは思っていないでしょうし、仙台や盛岡と東京の間の旺盛な需要と一定の直通需要が見込める札幌との列車は分けなければ1列車で複数の機能を兼務することはできないと思っているでしょう。しかし、新函館北斗止まりのうちはそうではない。乗っても乗らなくても自分達にはたいした影響は無く、そして、新函館北斗の利用客は基本的に東北新幹線区間も利用するのだから1日5000人程度であっても自社の利益に積み増されるわけです。

しかし「北海道」の立場はそうではありません。できる限り利用を増やしたい、首都圏からも東北からも北海道に来て欲しいと願い様々な活動をしても、結果列車の運行系統や利用可否の段階で「門前払い」にされているわけです。

そのあたりを無視して、北海道新幹線ガラガラと北海道側で騒いだところで、本州側では痛くも痒くも無いわけです。本当に北海道に観光客を呼び、また、北海道から本州に行きやすく、なおかつ交流人口を増やそうと思うなら、まず、北海道側の意見を本州側が飲むまで訴え続ける必要がありましょう。今のままでは(形的に仙台以東も割引になる)北海道側からの割引切符はろくに出せませんし、逆に本州側からの割引切符も時間帯の悪い、仙台・盛岡への便としては不便な早朝便などに偏らざるを得ません。それではダメなんです。

関係各位の奮起を期待します。

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