北海道の交通関係

北海道地区7空港の運営事業優先交渉者決定

2019/07/04
候補者決定という報道だけが多く行われていますが、その前に北海道内7空港の運営民営化というのはどういう事なのかというのをおさらいしておきたいと思います。

基本的な考え方

空港民営化とは基本的に国や自治体などが保有する空港の基本施設(滑走路・誘導路など)、空港利用者、貨物などが使用する施設事業者(ターミナルビル施設事業者)そして駐車場を運営する事業者が別々に運営していることから、これを空港全体として一体的に運営する。また、民間資金の活用による「機動的な空港運営」を行うことを目標にしています。

この考え方は
民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)
民間の能力を活用した国管理空港等の運営等に関する法律
に基づいて行われています。

 

国土交通省
民間の能力を活用した国管理空港等の運営等に関する法律案
http://www.mlit.go.jp/common/000994705.pdf

例えば着陸料収入ですが、今までは全国の空港でプール管理していますので、利用の少ない空港にはメリットがあるものの利用の多い空港の改善が進まない、また、官と地元の感覚のズレが不要な投資に繋がること、さらには官が管理する部分と民間のターミナルビルの経営が分離してることから、その意思疎通が図られていないなどの問題があったわけですね。

北海道に関しては7空港を一体での運営となり、黒字が予想される新千歳空港と、赤字が予想される他の空港を一体で運営することで北海道全体として広域観光ルートの構築や空港間の補完をできるとしています。

対象施設

・空港基本施設(滑走路・誘導路・エプロンなど)
・空港航空保安設備(誘導灯など)
・旅客ビル施設
・貨物ビル施設
・空港取付道路
・駐車場
・給油施設(新千歳空港のみ)
・用地管理
・付帯施設(土木・電気・消防など)
に及びます。つまりは空港まるごとを管理下に置くということになります。事業期間は30年で35年を越えないとしています。

国と事業者のリスク分担

PFI法の観点として国と運営業者のリスク分担という問題があります。運営業者は着陸料などを自由に設定できるわけですから事業のリスクは基本的に全て事業者が負います。ただし不可抗力によるものを除くとしています。

北海道地区7空港の運営事業優先交渉者決定

対象空港

国管理4空港
・新千歳空港
・釧路空港
・函館空港
・稚内空港
北海道管理1空港
・女満別空港
各自治体管理2空港
・帯広空港
・旭川空港

入札事業者

2018年に入札が行われ、4事業者が名乗りを上げました。そのうち2次審査に進んだのは以下の3事業者でした
・北海道空港・東急電鉄・三菱地所・日本政策投資銀行などのグループ
・バンシ・エアポート・オリックスなどのグループ
・パリ空港公団・加森観光・東武鉄道・東京建物などのグループ
なお、選に漏れた1事業者は
・チャンギ・エアポート・グループ
でした。チャンギはシンガポールのチャンギ国際空港を運営する企業でした。
そしてバンシ・エアポートとオリックスのグループは運営する関西国際空港の災害対応を名目に辞退。
最終的に北海道空港グループとパリ空港公団グループの一騎打ちとなったわけです。
そして2019年7月3日優先交渉権者の決定がなされました。

 

国土交通省
北海道内7空港特定運営事業等の優先交渉権者の選定について
http://www.mlit.go.jp/report/press/kouku05_hh_000137.html


優先交渉権を獲得した北海道空港グループとは

●北海道エアポートグループ
・代表企業:北海道空港株式会社
・コンソーシアム構成員
三菱地所株式会社
東京急行電鉄株式会社
株式会社日本政策投資銀行
株式会社北洋銀行
株式会社北海道銀行
北海道電力株式会社
株式会社サンケイビル
日本航空株式会社
ANAホールディングス株式会社
三井不動産株式会社
三菱商事株式会社
岩田地崎建設株式会社
株式会社道新サービスセンター
株式会社電通
大成コンセッション株式会社
損害保険ジャパン日本興亜株式会社

構成員を見ての通り、元々新千歳空港ターミナルビルを運営している北海道空港に地元地銀、電力、マスコミ、建設会社を連ね「北海道の企業グループ」を打ち出した感があります。これに東急、日本航空、ANAという大手運輸会社も巻き込んでいますので、まぁ、言い方は悪いですが出来レースな感じもいたします。

なお、次点となったSky Sevenは東京建物が代表企業で、構成員を
ADP INTERNATIONAL
東武鉄道
東武トップツアーズ
加森観光
前田建設工業
という構成になっていて、こちらも北海道の観光大手加森観光と地場建設会社前田建設工業が入っているものの、やはり相手が悪かった感があります。

今後のスケジュール

8月頃基本協定の締結
10月頃運営権設定・実施契約の締結
令和2年1月15日7空港一体のビル経営開始
令和2年6月1日新千歳空港運営事業開始
令和2年10月1日旭川空港運営事業開始
令和3年3月1日稚内空港・釧路空港・函館空港・帯広空港・女満別空港運営事業開始
となっています。
元々新千歳空港ビルの管理業者が管理しますので、ビル経営に関しては大きな変更は無いものと思います。
6月以降の空港全体の管理についてどのような形になっていくのかは注目されるところです。

北海道地区7空港の運営事業優先交渉者決定

報道

本件を北海道内メディアはどう報道したのかを追ってみます。

 

日本経済新聞
道内7空港民営化、事業者にHKKグループ 赤字脱却なるか
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46912360T00C19A7L41000/
新千歳空港は国管理の空港民営化では最後の目玉案件と注目を集めた。国管理空港では羽田に次ぐ収益力を持つためだ。一方で残りの6空港はいずれも赤字経営。民営化後は地方空港の収益改善が課題となりそうだ。
空港からの2次交通の充実も波及効果を左右する。女満別空港と世界自然遺産の知床を結ぶ知床エアポートライナーを運行する斜里バス(北海道斜里町)の下山誠社長は「LCCが新規就航すれば増便も検討する」と前向きだ。運行は現状、1日3往復。バスの本数が増えれば地元住民にとっての利便性も高まりそうだ。

なんかズレてるのが斜里バスのコメントだけど、LCCに何を期待してるのかは知りませんがLCCが就航しようがしまいが各空港間の2次交通の必要性がこの空港民営化の胆ですからね。LCCを待つような姿勢ならダメだろうなぁという印象を持ちます。地元企業が空港民営化自体がどのようなものか理解していないのではないでしょうか。ダメ空港とされたら民間の感覚なら撤退ですよ。元々今回の空港民営化は「黒字空港による赤字空港の補填を行わない」ということが明記されていますので、枠組みの維持という形は守られても逆に「運行してれば良いんでしょ」状態までされる可能性もあるのではないか。
これまで以上に地域が空港に対して興味を持って利用していく姿勢が問われているわけです。LCCが来れば幸せなんて事はあり得ませんし、LCCが来たら何かやってやるなんて姿勢ではダメでしょうね。

 

北海道新聞
地方空港てこ入れ課題 HKK連合7空港運営へ
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/321834
7空港の一括運営では、新千歳の利益で6空港の赤字を直接埋めることはできないが、6空港の設備投資や路線誘致活動などに回すことはできる。地方にとって願ってもないチャンスで、稚内市の川野忠司副市長は「国際線も含めた新規路線の就航で、空港を軸にした経済活性化につながれば」、旭川市の西川将人市長も「旭川空港と函館、釧路との路線復活を望む市民の声がある」と早くも路線増への期待を高めている。

これは自らのグループも名を連ねる北海道新聞としては釘を刺しておきたかった「赤字を直接埋められない」という観点。この観点もJR問題と一緒なんですけどねぇ。地方にとってチャンスとまで書いていますが現実的にそこまで投資できるかは不明ですし、地方空港同士の路線開設に関してはエアトランセに対して地元がどうしたかなんかももう一度思い出してほしいものです。

 

北海道新聞
函館は路線拡充に期待 道内7空港運営HKK連合に 「観光客さらなる増加を」
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/321818
経済界も民営化への期待は大きい。函館空港ビルデングの水島良治社長は、格安航空会社(LCC)のバニラ・エアの路線撤退や韓国LCCの就航延期があったことを踏まえ、「函館発着のLCC復活や東南アジアなどへの国際線就航にも期待したい」と話した。

着陸料の実質的な補助があってLCCを就航させたのに結果的に撤退された函館を思うと、恒久的なLCC路線維持は空港着陸料、ターミナル利用料の低減くらいしかないのですが、それを運営会社が(新千歳空港の黒字を使って)負担できるか?という観点も必要です。函館は新幹線では直通できない関西圏への就航を優先した方が良さそうに思うのですがどうなんでしょうね。

 

北海道新聞
HKK連合、4200億円投資へ 道内7空港民営化、来年度受託
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/321862
関係者によると、HKK連合は運営委託期間最終年度の49年度までに新千歳空港に2900億円、残り6空港に1300億円を投じる計画。総額4200億円のうち、運営開始から5年間で1200億円を集中投資し、ターミナルビルの更新や商業施設整備などを行う。

新千歳空港はともかく他の6空港ターミナルの運営事業を引き継ぐにあたっては当然設備の改修が必要になります。単純に6空港に1300億円ですから各43億円、単年7億円ですか。思ったより投資額は多くないように見えます。当初5年の投資はターミナルビル投資として、今後空港設備自体の更新等も考えなければなりませんね。また、30年後、少なくとも35年後には運営権は手放すことになりますのでその頃の情勢がどうなってるかにもよるのでしょうが。
ただ、この投資はその分国の投資額が減るという意味がありますので、今後空港の拡充などを行う際にはどういう形になるのかも気になるところです。二次交通アクセス拡充によるJR北海道新千歳空港駅の改善などもありますし、これをだれがどの程度予算するのかという問題もありますね。


管理者の思うこと

多くの記事は取り上げませんがこの枠組みから外れた北海道内の他の空港(丘珠、中標津、紋別、奥尻、利尻、礼文)はどのようにしていくのかという先を見据えた議論も必要です。離島空港に関してはまだしも紋別は厳しい運営を強いられることに変わりはありませんし、実質的に赤字補填をしないとしつつも紋別をこの枠組みに加えれば入札しようという事業者はいなかっただろうとも思うほど状況が悪く感じます。これは国、自治体の運営社への出資は行わないというルールから当然のことでもあります。

しかし、運営会社は道などの自治体投資は受け入れませんから、道はこれから丘珠空港を軸とする道内空港便の維持については運営会社と協力してやっていく必要があります。言い方を変えれば新千歳空港ベースの道内便と競合するということです。丘珠空港の滑走路延長が進まない以上丘珠空港はこの後ジリ貧になっていくことは免れません。

さて、新千歳空港以外の6空港については、現行で赤字運営の空港となります。「黒字空港による赤字空港の補填を行わない」というのは難しい文言で、結果的には黒字の新千歳空港の黒字で各空港の赤字を埋めることには違いありません。国土交通省も各空港の黒字化を求めているわけではありません。これは裏を返すと各地方空港に必要以上の投資はできないという意味にもなります。赤字の改善ができる事業に投資はできますが、赤字事業そのものの損失補填に投資はできないということです。これはJR北海道問題に近いことで、地元が赤字事業でも「駅無人化するな」「車内販売無くすな」などと言い続けてもJRはそれに投資ができないというのと同じ事です。

つまりは赤字6空港は今後バラ色な乗客数増と赤字解消が「新事業者によってなされるはず」などという幻想は捨てなければならないわけです。先の斜里バスではありませんがLCCで増えたら等と言ってるようではダメで、先に空港の利便を上げるにはどうすれば良いか地元自治体と企業で先に考えるくらいの必要性があるとも思うのです。

もちろん運営会社は各空港の振興策を提案していくとは思いますが、空港自体ができることは限られるのもまた事実です。着陸料をいくら減免して新たな就航先を呼んでもその搭乗客をもてなすのは空港ではありません。そこからの二次交通、そして各自治体と地元民間企業が共同で満足できるだけの提供ができるか。地元以外からの観光客を増やすというならあなたの街で観光客が困らないだけサービスや情報を提供できるかが問われるわけです。これもJR問題と一緒です。観光列車で来た客を駅で放置するようなことはしてはならないのです。

カテゴリ: 空港民営化 航空 LCC 観光

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