北海道の交通関係

北海道が陥っている「札幌至上主義」を考える

2019/09/25

北海道は地理的にも広く、北海道という「自治体」としても広いと言えます。

北海道の面積は83,424km2これは東北6県+新潟県を加えてもまだ北海道の方が大きい、これに栃木県を加えてやっと北海道を越えます。そのくらい北海道は広い訳です。そして「県庁所在地」としての札幌があるわけです。

北海道には530万人の人口があります。これは東北で言えば青森・秋田・岩手に福島を加えたくらいの人口。東北と比較してもそれ以上に住んでいる人が少ない。人口密度が低い地域とも言えます。

そして、「県庁所在地」にあたる札幌だけで約200万人住みます。これは福島県全域で190万人ですから、福島県を中心として東北全体を管轄しているみたいな感じに思っていただくと広さが理解いただけるんじゃないでしょうか。(逆にわかりにくい?)

さて、行政としての「北海道」を思いますと、これだけの広い地域を管轄しますが、そのうち多くの決定事項は「札幌」で行われます。そして北海道が単一自治体でありますので、マスコミや交通網についても「札幌を中心」に行われます。稚内でテレビを見ても札幌と同じものが放送されていますが、裏を返すと稚内で本当に必要な情報は札幌から放送して貰うしかないわけです。

たとえばNHKは北海道を札幌・函館・旭川・帯広・釧路・北見・室蘭の7放送局で運用していますが、基本的な放送は札幌から送信、天気予報や数分の地域ニュース以外が各局制作で放送されることはまれです。これを言えば福島・青森も3局ありますし、山形も2局持ちますので、北海道が優遇されているわけでもありません。

札幌でも昨今は朝、夕方のワイド番組が放送されています(これは逆に北海道はこのような独自ワイド番組の取り組みは他の県より早かったとも言えます。東京の店の紹介等をされても実質的に行きにくい北海道ではオリジナルな放送が求められていたためです)しかし、このような番組で札幌以外を取り上げることはそう多くはありません。札幌にしか拠点を置かず、各地方には数名のスタッフしか置かない民放局では特に地方の紹介は難しいものがあるわけです。

新聞も北海道のブロック紙として君臨する北海道新聞は各地に支局こそ持ちますが、取材力はやはり北海道内でヒト・モノ・カネが集中する札幌に手厚くなりますので、札幌を中心とした記事が多くなる面があります。過去は輸送事情で札幌からの新聞到着が遅れることもあり地方新聞は各所にありましたが、今は地域有力紙である十勝毎日新聞、苫小牧民報などを除けば旭川クラスの都市ですらタブロイド紙レベル。北見ではフリーペーパーに地域ニュースが掲載されるなどはありますが、どうしても地域からの発信が少ないという面があります。

そうしますと、札幌在住の記者は北海道には「札幌しか無い」ような記事を書いてしまうわけです。

北海道新聞 2019年09月25日
<みなぶん>札幌から空港 新千歳IC、実は不便?
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/348043
札幌方面と新千歳空港を高速道路で行き来する時、道央道の千歳インターチェンジ(IC)と新千歳空港ICのどちらが便利か―。札幌市の60代男性から「空港連絡バスは新千歳ICを使う気配がない」と疑問を訴えるメールが届き、現状を探った。2013年の開設当初は「札幌から空港まで4分短縮」とPRされていたが、時間短縮は実感できず、利用台数も千歳ICの3割以下だ。道などが36億円を投じたICは、税金の無駄遣いではないのか。
■道担当者 当初4分短縮PR
■連絡バス 時短なし使用せず
■記者試走 平日逆に4分遅く
 まず男性の疑問を解消するため、札幌方面の空港連絡バスを北海道中央バスと共同運行する北都交通に取材した。同社は「新千歳ICの開設当初、試行的に利用したがメリットがなく、千歳ICを使っている」と説明した。


この記事は北海道新聞の社会面最終面に掲載されました。つまり全道の読者がこれを見ることになります。百歩譲って札幌地方面ならともかく、道央道新千歳空港ICが札幌から使いにくい、時間短縮要素も無い、だから税金の無駄遣いではないか!とぶち上げたわけです。
さて、空港連絡バスが使わないとした新千歳空港ICですが、実際には使っている便があります。札幌からではなくて室蘭や登別からの便です。室蘭と新千歳空港を結ぶ高速はやぶさ号、登別と新千歳空港を結ぶ高速登別温泉エアポート号がこの新千歳空港ICを使います。単純です。札幌側からは先のインターチェンジになる新千歳空港ICも室蘭側から見ると逆に手前のインターチェンジであって、千歳ICを経由するのは遠回りで高速料金も多くかかります。
こんな単純なこともわからないで「税金の無駄遣い」と書いたわけです。予想された利用数である1日4300台には満たないにせよ1日3000台以上が千歳空港ICを使用し、その分千歳ICの混雑が緩和されたことは間違いの無い話でもあります。
実際に札幌から空港へ行く時に、朝の混雑時間帯は千歳IC出口で既に列ができているような状態もありますし、特に冬期は千歳ICからの千歳市内の渋滞も少なくありません。もとより千歳ICは市街地を通過する必要がある経路ですから、混雑を避けて千歳市内の朝日町あたりをとんでもないスピードで走り抜ける車も少なくないのです。

この記事を書いた記者にしてみれば「札幌」の人が便利にならないインフラは税金の無駄であるという観点がある。しかし、このIC一つ取っても、新千歳空港から白老民族共生象徴空間へ最小の時間でアクセスできるのは新千歳空港IC経由など、全道で考えればこのICひとつでも利便が高まる地域は数多くあるわけです。

北海道新聞は「札幌新聞」ではない視点で北海道全体を見渡した記事を書くことが求められます。北海道新聞はJR北海道問題で毎度地方切り捨てと書き立てていますが、当の北海道新聞が札幌以外の地域を無視した記事を書くのはあんまりだとも思うわけです。

これも含めて、札幌に住んでいれば「札幌からの距離・所要時間」を重視して考えてしまうのは、ある程度仕方ないとはいえ、メディアが率先してそれを行ってはならないのです。


その「札幌至上主義」的な観点は北海道庁も含めた政治的な場所でも起こります。単純に人口の多い札幌さえ掌握していれば他の地域も掌握した気持ちになれる、そう考える人も少なくは無いでしょう。その最たるものが政治家です。全道が選挙区である北海道知事選挙、参議院選挙など札幌でだけ票を集めればよいという観点が生まれます。札幌の人に耳障りの良い公約を行うこと。これは逆に言えば北海道の地方部に対しての政策が疎かになると言うことを意味します。もちろん敵対するわけではありませんが、札幌に予算をつぎ込めば枠がある以上地方に予算を割くことはできません。ゆえに札幌圏では廃線問題の起こりにくいJR北海道問題に関しては積極的に関与されない部分があるわけです。

北海道新聞 2019年09月25日
日高線存廃10月にも判断 鵡川―様似間 7町長臨時会議で5町バス転換主張
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/347990
 会議では、JRが全線復旧の条件とする年13億4千万円の地元負担の重さや、高波で壊れた護岸の早期復旧の必要性などから、全線バス転換は「避けられない」との意見が大勢を占めた。一方、浦河町の池田拓町長は「災害復旧を求めるのが当然」と主張したという。
 坂下会長は会議後の記者会見で「7町が肩を組んでゴールに入れない状況。(次回会議での多数決という)苦渋の選択をせざるを得なかった」と述べた。
 日高線は2015年1月の高波被害で不通となった。JRは海岸浸食対策工事にかかる約100億円の費用を負担できないとして復旧せず、廃止・バス転換を求めている。


この記事にはもう一つの当事者になるはずの「北海道」の姿は一切見えません。日高線の問題は日高の自治体だけの問題では無く、札幌や新千歳空港、苫小牧を含めた広域的な交通問題の一つであります。当然北海道は一定の関与をして地元自治体と協議し先に進む必要がありましょう。
しかし、北海道知事は

hbcnews 2018年11月09日
北海道のJR日高線存廃は?地元から高橋知事に不満の声 鵡川~様似不通のまま…もうすぐ4年
http://news.hbc.co.jp/63029c14d4e1ecebde4c7f216bc40adf.html
JR日高線の鵡川~様似間の存廃をめぐり、9日、高橋知事が地元の7つの町と初めて直接意見を交わしました。
「地域の皆様方が必要とする情報を提供しながら議論をしていきたい」(高橋はるみ知事)
JR日高線の鵡川と様似の間は、3年前の1月の高波から今も不通のままです。
会合では、道の姿勢に厳しい意見が相次ぎました。
「この現状を異常だと思わない、国や道の議員も含めて関係者の方こそ、異常ではないか」(様似町・坂下一幸町長)
「鵡川から日高門別までなぜ鉄道を再開できないのか。『JR北海道はおかしいんじゃないか』というぐらいの発言をしていただきたいと思っている」(日高町・大鷹千秋町長)
そもそも道が3月に発表した指針に、日高線の「維持」が明記されていないことにも不満の声が出ました。
「総合指針の中にも明記しているとおり、これは一つの方向性であって、個別具体的にはそれぞれの線区ごとに、地域の皆様方と道が膝詰めで議論して方向性を出していきたい」(高橋はるみ知事)


「個別具体的にはそれぞれの線区ごとに、地域の皆様方と道が膝詰めで議論して方向性を出していきたい」の方向については何も決められず前知事は辞職。それ以前には日高線についての財政支出は行わないと明言しているわけです。

知事定例記者会見記録 2015年12月17日
北海道知事定例記者会見記録(2015/12/17)
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/tkk/hodo/pressconference/h27/h271217gpc.htm
(日本経済新聞)
 今の質問に関連してなんですけれども、日高線の復旧工事費に関しては、道としても応分の負担をするという話を知事がされてますけれども、今回出てきた運行そのものに対しての赤字の補填(ほてん)であるとか、運行費補助とかいった、そういった運行面でも道庁に対して費用負担を今後JRが求めてきた場合には、どのように対応されるおつもりでしょうか。
(知事)
 地元自治体ではなく、道に対してそういう要請があったらどうするかということですか。全くその気はございません。


新知事である鈴木知事も日高線については特段の表明は行っていませんから、少なくとも北海道庁として、北海道のトップとしてJR北海道問題特に廃線問題について関与するという意思を持っていないことになります。

これは只見線の復旧に沿線自治体以上に関与し基金積立なども行い、さらに上下分離も呑んで災害からの路線復旧を決断した福島県の姿とは大きく異なって見えます。仮に只見線が北海道同様沿線自治体だけで熟慮し復旧とバス転換を天秤にかけるような状況であったならば結果は日高線同様の廃線受け入れをせざるを得なかっただろうとも思うのです。

もちろん日高線などバス等への転換を示唆する5区間について2区間は廃線、または廃線が決定し、日高線もその方向に進んでいるのは、国やJR北海道の立場なら喜ばしいことかもしれません。しかし、沿線利便を考え一部区間だけでも復旧、維持を考えるのも北海道の役割の一つで、沿線自治体だけでは利害が対立して解決できない状況であった日高線に関してはもっと積極的な関与があっても良かったのでは無いかとも思うわけです。

これも札幌に住む、特段日高に関係の無い人には「遠い地域の特に自分も使わない路線の存廃」など興味も無いのです。しかし、それを政治的に、行政的に行ってはならないのです。札幌から見たら日高はどうでも良い。それが北海道庁の考えならそんな寂しいことはないでしょう。そしてそれが蔓延するなら「札幌以外の地域はどうでもいい」に繋がっていきます。

国がJR北海道を助けるメニューに出した青函トンネル・北海道新幹線・新千歳空港アクセスは「本州から見て大事だと思う区間」の話です。それ以外の地域は半分どうでも良いと思われているわけで、そこを「そうではない、○○地域も必要なんだ!」と叫ぶのはその沿線自治体ではなくて北海道庁、北海道知事が行うべきものではないのでしょうか。

私は北海道が「札幌至上主義」に陥ってるのではないかと少なくとも交通網の維持に関しては思うのです。そしてそれを指摘も報道もろくにしない北海道のメディアも陥ってるのではないかとおもうのです。

続き

北海道の地方は「札幌」に行ければよいのか?
https://traffic.north-tt.com/09_article.php?article=906


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