北海道の交通関係

北海道の地方は「札幌」に行ければよいのか?

2019/09/26

札幌に在住の人は「北海道」を「札幌」として捉えて地方に目を向けないという話を昨日書いたわけですが、逆に地方部も「札幌」にさえ移動できることが大事であるという観点もあるわけです。

北海道が陥っている「札幌至上主義」を考える
https://traffic.north-tt.com/09_article.php?article=905


日高線の沿線自治体のうち、日高町が日高門別駅までの復旧を求めたことと、浦河町が全線の復旧を求めたこと。それ自体を批判する気は私にはありません。

日高町にしてみれば、日高門別までの線路面での被害は比較的少なく、苫小牧直行列車が運行できるなら苫小牧まで約1時間で移動が可能です。これが路線バスなら日高町役場付近から苫小牧駅まで約1時間半は見なければいけない。比較すれば大きな差があるからでもあります。仮に自家用車で日高道を経由しても1時間程度でしょうから、鉄道が残る利便は充分享受できます。ただし、対札幌に関しては沼ノ端東ICを経由する高速道路経由なら1時間半程度で行けてしまいますので、苫小牧を経由し乗換を要する日高線経由では大きな差になってしまいます。

浦河町は、形的に日高線があれば便利ということはありません。苫小牧への直行便が現状無いことを考えると必要性は言い分としてはわかりますが、現実的に仮に日高線が復旧しても苫小牧まで2時間半はかかります。現状では直行するバスはありませんが、仮に停留所を絞った直通便があれば同等の所要時間で結ぶことが可能でしょう。以前も書きましたが札幌へは高速バスペガサス号ですら3時間40分はかかります。自家用車ならかなり余裕を見ても2時間50分程度と大幅な短縮が可能です。これは高速バスが鵡川まで一般道を経由することで著しく低速な運行を強いられているわけです。
ならば浦河町はなぜ鉄道の復旧をそれほどに主張するのか。

それは「鉄道が町のランドマーク」になるから。

日高自動車道は現在新ひだか町静内までの工事が進められています。計画的には浦河までの延伸を予定はしていますがまだ事業を行っていません。日高道の開通が「いつになるのかわからない」という苛立ちがあるわけです。高規格道路は「札幌」と繋がるものです。北海道内の多くの地域は「札幌」に繋がる手段が必要なのです。逆に言いましょう直通列車が無くても「札幌」という表示が駅にあれば、逆に札幌方で「浦河」という表示が駅にあってきっぷが買えればいい。そういう心理的な面が大きいとも言えるわけです。

高速バスの本数は限られ、札幌も苫小牧さえも非常に遠く、また地域に高校を持たない様似にとっては鉄道より実利がある高速バスの延伸や地域路線バスの維持の方がよほど重要で(そもそも日高線現役時代も高校生の多くは路線バスで通学という面がある)線路よりも実質的なバス路線の充実の方が大事。

新ひだか町は目前に迫った日高道での札幌方面への接続さえ担保され、高速バスの「高速化」がなされることが一定確約されているのなら鉄道の必要性は低いという判断。(日高道経由で車を出した方が早いというのも含め)しかも地元に高校があるのでその通学便の確保の方がよほど大事とも言えます。


こうして見ていくと、多くの町は「札幌」を向くというのがあります。北海道の地方部にとって大事なのは札幌への所要時間と利便性。間に大きな町があるとはいっても「札幌」の巨大さにはかなわないわけです。「札幌」との時間距離を減らすために高速道路の陳情に余念はありませんし、逆に多く人が住む札幌からの観光客をどれだけ確保できるかを知恵を絞るわけです。トイレだけでも立ち寄れば「観光客数」として計上できますから「道の駅」は大事。当然道の駅を町の最大限のおもてなしポイントとして整備することになります。

鉄道駅があって、町を通るだけでは、下車して何らかの施設利用をしなければ「観光客」として計上できませんから多くの地方では鉄道利用客が「観光客」として認知されないわけです。駅を降りても観光地へのバスが無い、駅前にトイレ一つ無い、そういう状況は「町として駅からの導線を整備する積極的な必要性が乏しいから」起きているわけです。

この状況では、いくら「観光列車」をJR側が運行しても町が歓迎しない理由になりましょう。日高線には災害運休以前優駿浪漫号という札幌からの直通快速が運行されましたが、これで駅を降りても何の歓迎行事も無く、勝手にタクシーでも乗って観光地行けば?というあからさまな対応をされれば次回から鉄道を利用する人はいなくなるのです。

そして、日高道の開通は札幌からの時間距離を大幅に短くすることが可能になります。札幌から片道2時間以内ならドライブコースとして一定の需要があることでしょう。新冠町や新ひだか町はちょうどこのギリギリのところになります。日高道に期待する部分が非常に大きい。そうなると鉄道の必要性を大きく見ることは無いわけです。
もちろん鉄道と高速道路は需要も利用者も違うという意見はあるでしょう。しかし、多くの町幹部、町長が地域の列車やバスを利用することは無く、地域の住民がどのような交通機関をどう利用しているかわからない以上、自分が想像できる高速道路に関しては理解できますが鉄道利用は理解できないのです。

なので、地元自治体がJRに行った利用促進が

日高報知新聞 2016年05月27日
経費が収入を上回る
 今回示されたJR北の収支想定検討結果は、町側の要望事項をJR北の現状を踏まえて収支想定したもので、①新駅の設置(浦河町内に設置と想定)②札幌への直通列車(札幌~静内間を毎日運転と仮定。高速走行できる車両と予備を含めて2編成で計8両を新製)③サイクルトレイン(苫小牧~様似間を夏期週末48日運転と仮定。新型車1両を新製)④イベント列車(札幌~様似間を、夏期を除く週末を中心に年48日運転と仮定。千歳線直通となるため4両を新製)⑤行き違い設備の新設(ホーム増設と用地の費用除く)―で年間経費は3億3800万円掛かるのに対して収入は5200万円と想定している。


このような自分達が使うものではなく札幌からの観光客を連れてくるサイクルトレインだの特急列車(高速走行できる車両)だのベント列車だのしか「想像もできない」わけです。そして自分達の非常に過大な要求に対して試算した結果を

日高報知新聞 2016年05月27日
経費が収入を上回る
 会合は非公開で行われ、各町長からは収支検討結果について「かなり厳しい内容」、「災害復旧の観点で考えてほしい」との声が上がったという。意見交換の結果、①鉄道事業者のノウハウを生かして収支のバランスを保てるような方策②日高線を持続的に維持するための取り組みの提案―の2点をJR北が再度検討した上で次回の協議会で説明してもらうこととした。
 記者会見で日高町村会長の小竹国昭新冠町長は「利用促進策について回答をいただいたが、車両を新しくするとは想定しておらず、既存の列車も使いながら対応してもらえると考えていたが、できないとの説明だった。なるべく経費をかけない中で持続的に運行できるような案をJR北に考えてほしいとお願いした」と話していた。


このように断じることになるのです。自分達が考えた利用促進が大間違いなのにJRが考えるべきだなどと言う最悪な結果です。


これも含めて、とかく「札幌」がキーワードです。沿線にしてみれば札幌にさえ繋がっていればあとはどうでもいい。自分達が自分の圏内でどのような利用があって、どう利便を高めるのかという真に住民が求め、住民のためになるような交通網の作成や交通政策を行うなんて事は微塵も感じていない。それが日高だけでなく多くのJR沿線で起こっているわけです。


札幌にいて、札幌圏のこと以外はあまり考えの及ばない「札幌の人」だけでなく、地方在住の方も「札幌」に行ければ良いのだという観点からしか交通面を考えない。これは恐ろしくまずいことだと私は思います。

現に日高には医療面でも地域だけで受け入れられず、浦河ですら年間100件以上の地域外への患者搬送がある状態です。既に拠点病院があっても地域で医療を維持できない状況。それがさらなる高規格道路の延伸、維持に動くことに繋がっています。しかし、どんなに高規格道で早く搬送できても片道2時間以上となると救急搬送体制もそのように維持しなければなりません。1台が札幌に出てる間、地域を守る救急車は何台残るのか?2台目が地域外に出たら?助かる命も助からないわけです。地域に高規格道で1時間以内の箇所にどう医療集積施設を置くのか。結果的に地域外に搬送という状況は本当にマズいし、地域の医療が崩壊する状況です。


実際起こってることは日高線を復旧するとかしないとかの問題ではないのです。そして高度な医療を受けるために地域の拠点病院をどう集約、維持し、さらに強固なものにしていくのか、または地域で行えない緊急性のある治療に一定の気象条件でも搬送可能な空路など、考えることはもっとたくさんあるのではないかとも思うのです。

これは日高を例にしてるだけでそれは他の地域でも大差はありません。

北海道の交通関係 JR北海道 日高線 人口減少 地方と札幌

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