北海道の交通関係

札幌駅「北5西1・西2」再開発と日高線廃線協議

2019/11/13

ここ数日の北海道交通関係の話題はこの2つ(と藻岩山ロープウェーの事故運休・再開)が占めておりますが、いずれにしてもJR北海道に対して批判的な論調をいくつか見かけます。もちろんJR北海道が完璧に批判されないような運営をしてきたとは言えませんが、この2つを絡めて、ビル建てるなら日高線直せってのは個人的に納得できないなぁとも思うわけです。


札幌駅再開発のこれまで

JR北海道は過去に「国鉄」だったわけですが、国鉄とJRは連続していながらも「別な組織である」とされます。会計的にも組織的にもです。なので、国鉄時代はどうだったってのはとりあえずは考えない方向が良いでしょう。

とはいえ国鉄末期には札幌駅の高架新線での開業は決まっていましたので、その後の「駅ビル」開発も当然自社で行うことが決まっていたわけです。ただ、国鉄という組織、民間ではありませんでしたから副業に制限を持っていました。札幌駅の再開発は1978年に遡ります。

1978年(昭和53年)9月1日 札幌駅の東側、旧国鉄バスターミナルの跡地に「エスタ」を開業させます。この建物現在のビックカメラが入っているエスタそのものです。もう40年以上前の建物になりますね。当時核テナントは百貨店の「そごう」でした。このエスタ開業とほぼ同時に札幌駅の高架工事が開始されています。
当時エスタを運営していたのは「札幌ステーションビル株式会社」(鉄道弘済会、日本食堂、当時のステーションデパート協同組合などが出資)これは1971年に国鉄の出資できる事業範囲が広がり、国鉄と民間の出資で駅ビルを建設・運営できるようになったということも大きな要因です。国鉄としては一つの事業の柱として(乗客数の増加が期待できる)駅ビル事業も魅力的であったわけです。当時の札幌は商業地は大通地区、ビジネスは札幌駅地区と別れていました。しかし、古くから駅前に存在した五番館(後の札幌西武、現在更地)、1973年開業のさっぽろ東急百貨店(現在の東急百貨店さっぽろ店・このあたりは中央バス買収騒動も含めた東急の北海道戦略の話でもあるので、いつかの機会に書きたいと思っている)そして地下鉄と「札幌ステーションデパート(現在のアピア)」を絡めたショッピングゾーンが地下で連絡し合う形ができ、大通地区との熾烈な争いが発生するわけです。ステーションデパートは地下鉄南北線開業と前後し移転を伴う再開発もあり、ほぼ現在のような駅西側も含めた「地下デパート」が完成します。

札幌駅高架開業は1988年。既に前年に国鉄はJR北海道に引き継がれています。このとき駅直下にパセオがオープンします。運営していたのは「札幌ステーション開発株式会社」もちろんこの会社はJR北海道が出資します。そして同じくJRが出資する「札幌駅南口開発株式会社」が運営する2003年3月JRタワー、ステラプレイス、大丸札幌店開業。

2005年にはJR北海道がJR札幌駅周辺の専門店街の運営会社4社を合併し、「札幌駅総合開発株式会社」とします。ステラプレイス(札幌駅南口開発)・エスタ(札幌ターミナルビル)・パセオ(札幌ステーション開発)・アピア(札幌駅地下街開発)が一体運営できる土壌になったわけです。

2016年、JR北海道の経営問題を受け、JR北海道は札幌駅総合開発の一部株を日本政策投資銀行・北海道ガス・北洋銀行に売却。現在の持ち株比率は2/3程度となっています。札幌駅総合開発の昨年度の売上は216億、営業利益は34億円となっています。JR北海道の関連事業の全体の営業利益が99億円ですからその多くを札幌駅の不動産事業で稼いでいると言っていいでしょう。JR北海道の連結決算上約112億円を関連事業から補填している形になっているわけです。それでも決算が赤字になるほど鉄道事業本体の赤字が大きいということになるのですね。

「札幌駅にビル建てるより日高線を直せ」は本当か?

ここから、新しく行われる新幹線札幌駅に関わる札幌駅再開発を見てみましょう。

日本経済新聞 2019年11月11日
札幌駅前に50階規模の複合ビル、新幹線&五輪へGO
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52033370R11C19A1L41000/
>JR札幌駅前に2棟の大型複合ビルが誕生する。11日、駅南東側に隣接する「北5西1、西2」街区地権者のJR北海道と札幌市を核とする準備組合が発足した。2029年秋の完成を目指す新ビルは市内で最高の50階級を想定しており、ホテルやオフィス、商業施設が入居する。30年度に予定される北海道新幹線の札幌延伸を見据え、札幌駅前が生まれ変わる。


JR北海道 2019.11.11
「札幌駅交流拠点北5西1・西2地区市街地再開発準備組合」設立のお知らせ
https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/20191111_KO_sapporosta_jyunbikumiai.pdf


現在エスタが存在する北5西2と、駐車場として利用している北5西1を一体的に再開発し、バスターミナル、新幹線駅、タワー、創成川を渡るデッキと課題としては東側の新幹線改札を含むことになります。

交通面で考えますと、まず、バスターミナルを現エスタ側を市内線、創成川側を都市間バスに分けることは創成川沿いの都心直通高速道路の開業も当然意識しているものと思われます。旭川方面のみならず、苫小牧・小樽方面もこちらを経由する方が時間距離的に近くなることから、現在札幌駅始発で大通付近を経由するバスが、逆の方向になることが予想されますし、その場合すすきの方面など市内南側への延長も可能でしょうからかなり利便が高まります。
地下鉄はこの2棟(2つの街路は一体の建物となろうが)直下には東豊線のさっぽろ駅があることになります。現在札幌駅利用を考えると狭い通路を通り疎外感すら感じるほど東側にある東豊線がついに直下です。これも含めて「札幌駅」の範囲を東側にも延伸し、回遊性を高めるというのがこの案には現れています。現状JRタワーが東の終点で、ここから東側は非常にアクセスがし難いし、特段用事もないので行き交う人も少ない。当然東側まで店舗設備ができればそこまでの回遊が期待でき、さらに創成川の東側の再開発も期待できるわけです。
当然西側になる南北線への距離は出ますが、今のエスタ位置になる新ビルとステラプレイスとの接続箇所も当然増えますので、西側へのアクセスも行いやすくなることが期待されます。特に地下に関しては通路の拡大も期待できましょう。

多くの人が「大東案は不便になる」とした新幹線札幌駅ですが、その駅も含めた大規模な再開発で駅自体を拡大するという形になるわけで、駅の中心地が地下鉄南北線・東豊線のちょうどあいだのJRタワ-・現エスタと駅前広場のところになるわけですね。在来線の停車位置を東側にずらすことで東側にも改札を新設することになると思われますので、新幹線から在来線乗換が不便という懸念にも一定の解決を考えているように思われます。なによりバス乗り継ぎが確実に便利になるのは朗報です。これはJR北海道としてもバスを排除するのではなく公共交通のパートナー的に考えている表れとも思います。今のバスターミナルでは狭すぎて都市間バスですら溢れる状態です。

不動産事業としては新タワービルの収益とエスタテナントがそのまま新ビルに移転すると考えれば収益の拡大が期待できるわけです。当然JR単独事業にはなりませんが、準備委員会に入るメンバーが基本JR関係企業のみというのはこの事業に関するJR北海道の並々ならぬ決意を見て取れます。当然JR北海道はここから得られる収益を最大化しなければ作る意味がありません。

鉄道の場合簡単に赤字だからやめますとは言えないわけですね。そのなかで日高線の廃線に向かう姿勢は残念とは思いますが、これを復旧しても更なる赤字の拡大にしかなりません。そんななか、赤字路線を動かし続けるには経営安定基金の運用益を満足に得られない中では関連事業収入が鍵を握るわけです。本業を安定させるためには副業で稼がなければならないという状態で、札幌駅の開発をみすみす他の会社に取られてしまっては満足な関連事業収入が得られず更なる廃線に繋がるわけです。

日高線、留萌線など、鉄道の必要性をどれだけ贔屓目に見ても得られない路線を優先し続けたことが現在のJR北海道の問題に繋がっていきます。北海道新幹線も現時点ですら鉄道運輸収入の10%を占めていることを認識しなければなりません。つまり年78億円の収入を他の在来線路線では既に稼げないわけです。北海道新幹線の赤字要因は決算上の減価償却費、そして3線分岐など特殊な設備維持、さらには低額な貨物会社からの線路使用料が元でありますから、それ以上に乗車される札幌開業後の収支改善を見込んでいるからこその同意な訳です。ついでにいえば新幹線を作っているのはJR北海道ですらありません。JR北海道は設備を借り受け走らせメンテするだけの会社。実質的に新幹線は「上下分離」です。

もういちどおさらいしますと、鉄道の廃線を少なくするには「副業」と「乗る路線」が必要なわけです。既存在来線は今やどう足掻いてもこれを覆すだけの利益(実際には在来線は赤字であるので収支改善)を得ることはできないのです。だから札幌駅開発は欠かせず、新幹線も必要なのです。

日高線廃止に舵を切る

北海道新聞 2019年11月13日
日高線沿線7町にしこり 鵡川―様似廃止へ 「現実的対応」「復旧」譲らず多数決 バス路線構築で曲折も
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/364177
【新ひだか】JR日高線鵡川―様似間が不通となって4年10カ月。日高管内7町長が廃止・バス転換に向け、JR北海道との個別協議入りを決めたのは、復旧の展望が見えない中で苦渋の決断だった。116キロに及ぶ長大路線ゆえ、各町で思惑の違いも露呈。バス路線の構築には7町の調整が必要となり、年度内の合意まで曲折も予想される。


北海道新聞 2019年11月13日
復旧せず廃止 諦めも 日高線沿線住民「疲弊に拍車」「バス充実を」 他線区、なし崩し廃線に懸念
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/364179
「復旧しないままの廃止には納得できない」「鉄道よりも便利な交通体系を」。日高管内の7町長が、JR日高線鵡川―様似間について廃止・バス転換の方向でJR北海道と協議入りすることを決めた12日、地元では憤りと諦め、バスの充実を求める声が交錯した。高波被害による運休から4年10カ月。同区間が廃止の見通しとなり、同じく被災した路線の沿線からは、なし崩し的な廃線を心配する声が上がった。


北海道新聞 2019年11月13日
社説)日高線廃止へ JRは誠意ある姿勢を
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/364137
 高波被害で5年近く運休が続いているJR日高線鵡川―様似間116キロについて、日高管内の7町が、JR北海道の提案する鉄路廃止を受け入れ、バス転換に向けた協議に入る方針を決めた。
 全線復旧を求める浦河町が反対したため、最後は多数決でなんとか同意にこぎつけた形である。
 結局、日高線は被災した鉄路の復旧に手つかずのまま、廃止に向かうことになる。これでは地元にわだかまりが残るのも当然だ。
 JRは今後の各町との個別協議に誠意ある姿勢で臨み、地元が納得するバスの運行方針や地域支援策を示してもらいたい。
 鵡川―様似間は2015年1月に不通となり、バスによる代行運転が続いている。
 当時の試算で復旧費が30億円に及ぶことが判明し、財政難のJRは工事の着手を見送ってきた。
 その後、JRは「当社単独では維持困難」とする10路線13区間の一つに鵡川―様似間を位置付け、17年2月、大幅な赤字を理由に鉄路廃止を7町に提案した。
 被災した鉄路をどう復旧するかという話が、いつの間にか赤字路線を廃止する話にすり替えられた感がある。
 被災箇所は放置され、その後も台風被害などが重なって復旧費は最終的に86億円にまで膨らんだ。
 時間がたつほど鉄路再開の可能性は狭まり、町長らは廃止に同意する以外の選択肢がないところまで追い込まれたとも言える。
 鵡川―様似間は運休前の14年度の輸送密度(1キロ当たりの1日平均輸送人員)が186人にとどまり、100円の収入を得るのに1476円もの経費がかかる厳しい現実がある。
 それでも、これまでのJRの対応は、災害を口実にした路線切り捨てと地元から非難されても仕方ないのではないか。
 JRは今後、7町と緊密に連携し、バス転換後の地域振興に協力していかなければならない。
 中でも喫緊の課題は、崩落した護岸の修復である。
 海岸法では、海沿いの線路部分の護岸は鉄道会社が自力で整備することを定めているが、経営体力の乏しいJRは本格的な復旧に未着手のままだ。
 近年、台風や大雨などが頻発しており、破損した護岸から土砂が流出し、コンブ漁などに影響が及ぶことも懸念されている。
 国土保全の責任をJRが負うこと自体に無理があり、国や道に早急に協力を求めるべきだ。




さて、日高線廃線協議は沿線を含む7町が廃線に向けての協議入りを決定することになりました。長いこと廃止反対でなおかつ区間などで7町がまとまった形にならなかったのは、それぞれの町の思惑もあるでしょうが、最終的には未来に向けた形になったものと思います。今のまま鉄道を維持しても護岸整備は避けられず、安全な輸送は行えない状態でもありました。そのため復旧費用が提示されていたとしても、それをそのまま受け入れてはならなかったはずです。金額が嵩んでも高台など安全な場所に線路を敷き直すか、自動車道などを使って輸送を維持し鉄道を廃止するかの2つしか選択は無かったはずです。

北海道新聞はいつもの論調ですが、実際には被災箇所以外は線路の最低限の補修作業は行われており、今や近づくことすら危険な状態までになってしまった被災箇所以外は軌道自転車などが走る姿を何度も見かけています。ですので踏切も廃止せず駅自体も使用できる状態を維持していたわけです。本当に「放置」してたのか記者は見もしないわけですね。住んでもいない私などが見かけるくらいですから、取材すればわかる話なのですが。

只見線など災害復旧した路線は今やほとんどが自社での復旧は難しいのが現状です。好調と報道されるJR九州ですら日田彦山線も復旧・廃止で揉めていますが、逆に名松線、只見線など鉄道会社が強く廃線を示唆しながら地元自治体の支出で復旧する例もあるわけです。日高線を復旧できる機会は幾度もありました。しかし、地元が負担できないし乗るつもりも無い、また、JRと話をしないとして自らコンサルタント会社に少なくない金額を支払いDMVなどの試算をさせることも行っています。しかし、満足な結果を得ることはできませんでした。

JR北海道が地元自治体から「嘘つき」と思われている節がある。信頼されていないのはそれまでの積み重ねであってJR北海道の問題でもありますが、金額が納得できないと長々結論を先送りしている間に事態は悪化の一途を辿るわけです。

何度も言いますが、日高線を復旧させることはできたはずです。しかし、それができないのは国が悪いJRが悪いと自らの言論を棚に上げた地元の醜態が生んだものです。それが本当に残念でもあるわけです。

そして、ビル建てるなら日高線を直せという意見は他の路線すら危うくする危険な観点だと思うのです。

北海道の交通関係 日高線 北海道新幹線

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