北海道の交通関係

交通バリアフリー法とH100形

2019/12/20

JR北海道は2020年3月のダイヤ改正からローカル路線用の新型車輌H100形を函館本線の小樽-長万部間で運行を開始します。
交通バリアフリー法とH100形
2019年10月のJR北海道苗穂工場公開時に披露されたH100形のドア部分。車椅子、ベビーカーマークもバリアフリー新法によるもの。

このH100形、新しい機構が導入され(予想では)空転に強く登坂性能に優れ、また、メンテナンス性なども含め今後のJR北海道のローカル路線の改善に寄与していくことでしょう。

しかし、3両~6両連結して走る札幌圏の電車車輌に比較すると、1両での運行が主であるH100形には様々な面で「無理がある」設計だなと思う部分があります。その最たるものが

座席定員が少ない


ことです。

なお、現時点ではH100形は一般に公開されておらず、管理者も車輌車内を直接見てはおりませんので、この後の記述は全て報道公開内容、報道写真などから確認した内容であることに留意してください。

H100形は定員99名、しかし座席定員は36名しかありません。これは、1993年に導入された同様の1両運行をメインにするキハ150形の定員117名、座席定員49名、またH100形が置き換えるキハ40の定員96名、座席定員68名に比較すると大幅に少ないことがわかります。
交通バリアフリー法とH100形
交通バリアフリー法とH100形
交通バリアフリー法とH100形
キハ150とその車内。この当時の設計でも車椅子スペースと2列-1列のクロスシートであるが、トイレは和式でありバリアフリーではない。
交通バリアフリー法とH100形
交通バリアフリー法とH100形
キハ40とその車内。ホームからステップの段差も高く存在し、座席数は多いものの車椅子等に対応できるスペースは一切なくトイレも和式のまま。この車両は座席を2列-1列に改造し混雑対応している車両。定員は103名だが、これでも座席定員は59名確保している。


JR北海道の多くの路線は閑散線区であって、座席定員以上の乗車は短距離の通学生であると言い切ってしまい、立つスペースの多い車輌が望まれる面はあるとはいえ、比較的座席の多い路線バスですら30席程度は用意することを考えると、多くの路線で「立つ」可能性が高くなることは否めません。

もちろんJR北海道もこのような批判が発生することは判っていると思われますし、運行開始後は「座席減った!座席減った!座れない!座れない!年寄りに立てというのか!」と道内マスコミが批判記事を書こうと手ぐすね引いて待ってるだろう事は想像に難くありません。では、何故座席数をここまで減らすようなレイアウトになったのか?要因を考えてみます。

交通バリアフリー法

平成12年(2000年)国は「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」を制定しました。交通バリアフリー法と略されているこの法律はその名の通り、高齢者、障害者が利用しやすく公共交通機関の旅客施設及び車両等の構造及び設備を改善することを目的に作られました。この法律の最も大きい点は、1日の乗降客数が5,000人を超える駅においてエスカレータ、エレベータの設置を義務付けたこと。この法律に基づき北海道内でも多くの駅でエレベータ、エスカレータが設置され、札幌市営地下鉄は既に全駅に設置されています。
車輌面でも、車内に車椅子スペースの設置、車椅子対応のトイレを設置、車内に次駅表示を行う電光装置の設置もこの法律に基づくところです。

一般路線バスではノンステップバスやワンステップバスが導入されているのもこの法律の関係です。このため北海道の長距離路線などで高速バス仕様の車両で運行していた事業者も、都市部のノンステップバス同様の車輌で運行せざるを得ず、例えば150km近い距離を運行する留萌-幌延・豊富などの路線でもリクライニングどころか座席の少なく固いノンステップ仕様を導入するようになりました。当然車椅子利用者や高齢者には恩恵があったわけで、これを批判する必要はありませんが、バス車体メーカーも長距離仕様としてこのような車輌を使うことはあまり想定していなかったのではないでしょうか。
交通バリアフリー法とH100形
交通バリアフリー法とH100形
天北線転換バスの新型路線バス車輌。以前は観光タイプの車輌を使用していたが、転換から20年以上経ち、150kmほどあった天北線を全線通しで運行する便でもこのような一般路線バス仕様のバスに代替されている。車椅子スペースには折りたたみ座席が設置されており、通常時は座席として使用されている。

札幌市電がポラリス・シリウスといわれる新形路面電車車輌を導入したのもこの関係です。3連接で車体長が長くなったポラリスに関しても定員は71名、座席27名で、従来型電車の定員100名、座席34名に比較して少なく、シリウス車に至っては定員60名、座席20名となっています。これは車椅子スペースを2箇所設けたこと、ドア間はノンステップですが車端部に段差があり立ちスペースを確保したものと思われます。
交通バリアフリー法とH100形
交通バリアフリー法とH100形
交通バリアフリー法とH100形
札幌市電の従来型車輌、3車体が連結されているA1200形ポラリス車輌、最新の1100形シリウス車輌の車内。前後に段差があり、座席と立ちスペースになっている。

もちろん、移動制約者が誰でも公共交通機関を利用して移動できることは大事なことです。現在はその過渡期であって、この法律前、法律後の両方の車輌が運行されていますので、定員差などで目立ちやすい部分はあるわけです。「座席定員が減る」は法律面で致し方ない面があることを理解しなければなりません。

ハリアフリー新法

平成18年(2006年)には交通機関のみならず建築物の構造及び設備も組み合わさった「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」が制定されました。交通機関だけでなく、道路や建物、公園などに至るまで移動に制約があっても円滑に移動できる社会を目指そうとしているわけです。ここでは「利用円滑化基準」といわれる最低限の基準と「利用円滑化誘導基準」といわれる好ましい基準が制定されています。


ここまで見てきて、H100形の座席が少ない理由

国土交通省は今後設計される鉄道車両について以下のガイドラインを出しています。

国土交通省
公共交通機関の旅客施設・車両等に関するバリアフリー整備ガイドライン(バリアフリー整備ガイドライン)
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrierfree/sosei_barrierfree_mn_000001.html
個別の車両等に関するガイドライン 1.鉄軌道
https://www.mlit.go.jp/common/001313468.pdf


H100形は長距離の運用にも就くことが想定されますが、あくまでも国交省基準で言えば首都圏などの通勤電車と同じ「通勤型(短距離)鉄道・地下鉄」車輌ということになります。そして、1両で走る車輌であることから「1編成に1箇所」という項目は「1両に1箇所」となることに留意する必要があります。

・乗降口の段差は最小限
・ドア幅は80cm以上
・1列車ごとに2以上の車椅子スペースを設ける。ただし、3両編成以下の車両で組成する列車にあっては1以上
・便所を設ける場合は、そのうち一列車ごとに一以上は、車椅子使用者の円滑な利用に適した構造のものでなければならない
・旅客用乗降口と車椅子スペースとの間の通路のうち一以上及び一以上の車椅子スペースと前項の基準に適合する便所との間の通路のうち一以上の幅は、それぞれ八十センチメートル以上でなければならない。
交通バリアフリー法とH100形
交通バリアフリー法とH100形
H100形と構造は異なると思われますが、735系の車椅子スペースと車椅子対応トイレ部分。H100形の車椅子対応トイレは733系などと異なり幅はそれほど広く取られていないことから735系の車椅子対応トイレに近いものではないかと予想します。

H100形はこの設置基準を満たそうとしますので、車椅子スペースこそ1箇所ですが、1箇所設けられるトイレは車椅子対応、そしてドア幅、通路幅をその基準で作っています。ワンマン運転を行う以上、車内の前方から後方まで車椅子が移動できる幅を確保できなければならない(これは基準面か内規なのか運用面かは当方では把握できないが)関係上、どうしてもクロスシート部分の通路幅の確保、つまりは向かい合わせ4席と2席という車内が避けられないということのようです。

結果的に4席クロスシートが3ボックス、2席クロスシートが3ボックスで18席、ロングシート部が優先座席を含めて18席の36席しか座席を設置できなかったということになります。


観光需要に対応できないこれからのローカル線

もちろん当サイト管理者はいつでもどのような障害のある方でも公共交通機関で移動できることが最適とは思っています。その大前提を崩してはなりません。しかし、観光需要はこれとは違う面を考える必要がありましょう。例えば貸切バスで全道を旅するツアーで、網走から釧路までは釧網線列車で旅をするという行程を考えたとしましょう。定期列車に貸切の車輌1両を増結して貰い移動する。通常観光バスは45席ですから、約40人くらいの団体旅行という感じになりましょうか。H100形1両増結してもこの団体に対応できないわけです。4人はどこにも席は無いのですから単純に立ちっぱなしです。4人は隣の車輌で・・・ってあり得ないですよね。
そしてH100形は従来車輌との連結ができない設計ですから、旧型の気動車を連結することもできません。添乗員さんや地元観光ガイドなどを乗せようと思えばキハ150クラスの座席定員49人程度はやはり必要なのではないかと私は思うわけです。

釧網線あたりは最初からJR北海道に連絡もしないのか、突然観光ツアーの団体が1両の列車に乗り込んできて大混雑になることも珍しくはありません。彼らとて、まるで座れないわけです。もちろん、先に連絡しないのが悪い(特に関西系の某社は先に座席を確保するなどあまりにも酷く添乗員氏にクレームしたことがあるが)とはいえ、今後このままでは対応できないものが多いということになるわけですね。

H100形を今後のスタンダード車輌にするんだという意味、そして通路幅の確保というバリアフリーの観点を無視しない部分ですと、団体利用用の補助座席を設置することの検討(2人掛けクロスシート部分に観光バスの補助席のような折りたたみ座席を増設し6名、機器室部分通路部に3名で45名程度の座席定員を確保できる)も考えてほしいものだと思います。

なお、H100形に限らず地方のワンマン運転用の車輌は同様の問題を抱えており、今やクロスシート2列、2列の4列座席を設置できるのはワンマン運転を行わない地方都市部の車輌くらいではないかと思います。今後新規に設計される地方ワンマン路線用の車輌はH100形のような2-1クロスシートかロングシートしか選択肢がないという現状があるようです。

当管理者はクロスシートじゃなきゃ旅情が~などと言う気はありませんが、快速エアポートの733系電車のロングシートですら46名程度の座席定員があることを考えると(これに片側運転台と車椅子スペース及び車椅子対応トイレを設置すれば40名程度の座席定員になるのは想定できるとしても)オールロングシートにした方が座席定員は増える可能性が高いとまで思うところであります。(ちなみに快速エアポート車輌全体で見るとクロスシートの721系車輌よりロングシートの733系車輌の方が座席定員が多いことは留意する必要があります)
交通バリアフリー法とH100形
交通バリアフリー法とH100形
721系電車。快速エアポートの一部車輌を除き全席が4列のクロスシートを装備。その代わり立つスペースが狭く、スーツケースなどの荷物を置くスペースにも乏しい。車椅子対応トイレ、車椅子スペースは一部の車輌に装備。
交通バリアフリー法とH100形
交通バリアフリー法とH100形
733系電車。指定席に使用される車輌を除き全てロングシートを採用。バリアフリー基準を準拠しており、車内案内表示や車椅子対応トイレ、車椅子スペースがある。


また、国土交通省は車椅子利用者が不便にならない一定の状況さえ確保できれば近距離用車両でも「都市間鉄道車両」同様の設置基準を認めることも検討して欲しいと思うところです。たとえば石北線の快速列車のような運行を行う場合、ワンマン列車であっても、都市間輸送であるわけですから、座席数をある程度増やし、車端部の車椅子スペース及び車椅子トイレの設置、その周辺の展開スペースと乗降扉の拡大でこれを認めること。これはバリアフリーの退化ではないのです。関東・関西圏の通勤電車と同じ設置基準を1両で運行する列車に求めることこそが無理のあることなのです。

そして、北海道内マスコミには、批判の声の前に、なぜその設計が必要なのか?という面こそ取り上げるべきものだと思うのです。何度も言うようにバリアフリー化は必要で、いつでも誰でもが乗れる交通機関になるのが理想です。しかし、必要以上の座席定員の減少は特に高齢者への配慮のない車輌となり、法律の目的に反するものになってしまうわけです。

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